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日本が強くなるヒントはこの強国にある! アルゼンチンVSスペイン―フィジカルトレーニングの違い

アルゼンチンサッカーの魅力はどこにあるのか。その答えは"5人抜き"のドリブル力が伝説となっているマラドーナ、そしてそれ以上だと賞賛されるメッシのプレースタイルを見れば一目瞭然だ。レアル・マドリードの名高いセンターバック、セルヒオ・ラモス曰く「1対1では止めようがない」。そんなアルゼンチン選手の実力を支えているのは、どんな相手とも激しく戦うことができるフィジカルにある。そのフィジカルトレーニングについて、スペインとアルゼンチンでフィジカルコーチの育成部長を務めた経験があるパブロ・モルチョン氏(ボカ・ジュニアーズ日本支部『ボカ・ジャパン』)の話を元に説明していきたい。(取材・文・写真/隈崎大樹)

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■「相手に競り勝つため」それがアルゼンチンのフィジカル

「1対1」に対する執念深さといえば、南米ではアルゼンチンが一番ではないだろうか。実際、私が南米のパラグアイでプレーをしていたとき、クラブチームにはパラグアイ人はもとよりブラジル人やアルゼンチン人らが所属し、対戦相手も似たようなメンバー構成だった。そこで感じたのは、アルゼンチン人と対戦すると必ず身体へのダメージが大きかったということ。特に私のポジションはセンターバックであったため、相手FWと1対1で攻防することが多い。その中でもアルゼンチン人は根負けするほどのボディーコンタクトで、執拗なまでに中へ切り込もうと仕掛けてくる。身体へのあたりも強く、試合が終わってシャワールームへ行くと、腕がパンパンに膨らんでいることがよくあったものだ。

ボールを奪われないために身体を張り、相手から奪うためなら泥臭いプレーも厭わないアルゼンチンスタイル――。その点についてパブロ氏はこう語る。

「アルゼンチンは南米や欧州の中でも比較的体格が小さいと言われています。それでも相手に競り勝とうとアグレッシブに接触プレーする理由は、『自分がアルゼンチン人だ』という誇り・スピリットからきているのだと思います」

試合に勝利することはもちろんのこと、アルゼンチン人であるという誇りを守るため、彼らには「競り勝つフィジカル」が必要なのだ。

■スペインとはどこが違う?アルゼンチンのスタイル

アルゼンチンではとにかくフィジカルトレーニングに重きを置いている。その理由は先に述べたとおりだが、その"対局にある"といってもいいのがスペインではないだろうか。

「スペインでは実践重視のスタイルを大切にしているため、アルゼンチンのようにフィジカルトレーニングの時間を割くことはありません。戦術トレーニングの中にフィジカルトレーニングの要素があるに過ぎない。これとは対照的に、アルゼンチンではフィジカルトレーニングだけをやる日をしっかり設けている。スペインでは『サッカーをする』ことが最終ゴールであるため、戦術トレーニングと組み合わせて行なうというのが主流ですが、アルゼンチンでは身体を強くすることが基盤と考えられており、その強さがなければ戦術云々を語れるものではない、と考えているからです」(パブロ氏)

両者ともトレーニングを行なっていることに変わりはないが、どちらに重きを置いているのか?ということ。わかりやすく言うならば「理系」か「文系」かといった選択の違いだろう。この場合、どちらが理系でどちらが文系かということが問題なのではなく、「どちらに比重をおいているか」を便宜的に説明しているに過ぎない。では、日本はどちらの国に学ぶべきか。

「残念ながら、日本ではまだどちらに軸を置くか......という選択をする段階にはないと思います。しいて言うならばどちらもやるべきなのです。それは、まだ日本にはプレースタイルというものが確立されていないと思うからです。幸い日本には世界の強国のメソッドが入ってきています。南米や欧州が長い年月をかけて試行錯誤し、成熟させてきたサッカー文化を居ながらにして学ぶことができる時代にあります。いますぐどこの国のスタイルを真似るべきかを考えるのではなく、強国の良いところを抽出していく時期だと思います」(パブロ氏)

私の子どもの頃には考えられないほど、現在は世界のサッカーメソッドが飽和状態にある。それを逆手に取り、子どものうちからいろいろな国のメソッドに触れさせることで、将来のプレースタイルに大きな影響を与えられるかもしれない。