06.23.2015
【CUA練習訪問】小学生にとって大切な「技」と「心」の関係/グラスルーツの視座
COACH UNITED ACADEMY(以下、CUA)の6月テーマ「グラスルーツの視座」と連動したコラム企画として、CUAで学ぶコーチの指導現場を訪ね、グラスルーツを支える思いや指導理念に迫る「CUA練習訪問」。今回は、国分寺市で活動する『ワセダJFC』の鎌田豊監督を訪ね、ユニークな指導遍歴や小学生年代に対する独自の育成メソッドについて惜しみなく語っていただきました。(取材・文・写真/COACH UNITED編集部)
■営業マンとサッカーコーチの共通項とは
CUAのオンラインセミナーで学ぶコーチの指導現場を拝見するこの企画、今回は早稲田実業初等部の子どもたちを中心とする『ワセダJFC』の鎌田豊さんを訪ねました。2013年にチーム再建を託されて就任した鎌田さんは33歳の青年監督。就任当時5年生だったメンバーをこの3月に送り出し、気持ちも新たに指導3年目に臨んでいます。指導者としてのスタートは大学時代。1年時に母校の中学校で指導した教え子たちが、都大会進出の躍進を果たした成功体験が忘れがたく、在学中に準指導員の資格を取得。卒業後にはドイツへの単身留学も敢行しました。ところが帰国後の経歴はストレートに指導者へ向かわず、一般企業での営業職を選んだそうです。
「よく"売れる営業マンは何でも売れる"と言われますが、それはなぜかというと、モノではなくそのヒトから買いたいと思わせるからですよね。体育の授業やサッカーの指導も同じで、『そのヒトと一緒にいる時間が楽しい』と思ってもらえれば何をやっても上手くいく。だから営業の経験はサッカーともリンクしていて、僕はつねに子どもたちから『一緒にいたい』と思われる存在でありたいと思っているんです」
2年間の社会人歴を経たのち、都内で中学年代のトレセン指導員や学校の体育講師を長く務めた鎌田さんは、長野県に移って高校サッカー部の監督をやりながら、フットサル社会人チームのフィジカルコーチ、地域の中学生指導、少年サッカースクールの立ち上げなど、幅広いカテゴリーのプレーヤーと接してきました。そして、いずれは東京に戻ろうと考えていたところに舞い込んだのが、ワセダJFCの監督オファーだったそうです。早稲田実業初等部の子どもたちが集まるある種の"選抜チーム"を預かる鎌田さんは、自身の指導理念について次のように語ります。
「学年ごとに"心技体"の分野で目指してほしいレベルはありますが、子どもによってできるスピードは違うので、一人ひとりに応じたその子のペースでいいと思っています。早実の子ども同士ということで、『うちの子ちょっと遅いかな...』と心配されてしまう保護者の方もいらっしゃると思うのですが、そこはまわりと比べないように発信しています。チームとして6年間で最低限の基礎技術とメンタリティを身に付けて、上のカテゴリーにつながってほしい、その先も一生サッカーを続けてほしい...もちろん勝つ喜びも味わわせたい...そんな思いでやっていますね」
訪問当日はあいにくの雨模様でしたが、練習に現われた小学1~3年生の子どもたちは鎌田さんと元気のいい挨拶と握手を交わし、ボールを蹴りたくて仕方がないという表情でコートに飛び出していきました。
■技術の向上に欠かせない『3本の"木"』
先ほどの指導理念からも窺えますが、「子どもたちのレベル・到達度に応じた段階別トレーニング」というのが、鎌田さんの考案する『ワセダJFCメソッド』の特徴です。スキル・テクニックの成長期と言われる"ゴールデンエイジ"を引き合いに、「その時期だからといってみんなが同じように上手くなるわけじゃないですから」という鎌田さんの話に熱がこもります。「たとえば、サッカーを『楽しい』と思うレベルは子どもそれぞれに違います。友だちと遊び感覚のサッカーが楽しい子もいれば、がっつりやって勝つサッカーが楽しい子もいる。そのレベルの違いによって到達度も異なります。ですから僕は、サッカーは『習熟度別指導』であるべきだと考えています。その子のレベルや到達度に合わせて段階的に教えていかないと、技術はきちんと身に付いていきません。今日練習を見てもらった低学年はまだまだ"蹴っちゃう"サッカーですが、そもそも少し前まではちゃんと蹴れていませんでした。だからまずはちゃんと蹴れるように練習してきた。それができるようになって、やっと"蹴ると見せかけてフェイント"の段階に進めるわけです。子どものレベルに合わせて"段階を踏む"ということが、僕はすごく大事だと思いますね」
自分でもまだまだ上手くなりたいという鎌田さん。海外で仕入れたDVDを参考に自身の技術向上のために考案したメニューは、ワセダJFCの定番ドリル練習として定着している。
技術習得のための段階別トレーニングについて語ってくれた鎌田さんが、しかしそれ以上に大切だと考えているのが"心技体"の"心"です。「子どもたちにはまだ言葉にして伝えてはいないのですが...」と前置きしながらこう続けます。
「低学年のうちはとにかく一生懸命、最後まで諦めず、負けない気持ちをもってプレーすれば絶対に成長していきます。僕はそれを『3本の"木"』を育てることだと考えています。3本の"木(気)"というのは、『本気』と『やる気』と『勇気』ですね。どんな状況でも全力で戦う『本気』と、つねに前向きに取り組む『やる気』、そして失敗を恐れずチャレンジする『勇気』があれば、何をやっても技術はついてくる。3つのうち2つを持っている子は少なくありませんが、これは3つ全部揃わないとダメで、しかもチームの全員が揃わないとダメなんです」
たとえば「やる気」があって「勇気」もあるけど、どこか「本気」になれない子どもが、「本気」のチームメイトを笑ったり冷やかしたりして、チーム全体に冷めたムードが漂う...。みなさんもそんな場面に心当たりはないでしょうか。鎌田さんが説く「3本の"木"」を養うことは、小学生年代特有の課題に対するひとつの答えかもしれません。
最後に、これまでさまざまなカテゴリーで指導歴を重ねてきた鎌田さんに、指導者としての今後の展望を伺いました。
「来年度からは『幼児体育』をベースにしたキッズサッカースクールを立ち上げ、"早期教育"にも力を入れようとしています。というのもワセダJFCは早実の子どもたちが中心なので、進学の過程で少なからず受験組に入っていくんですね。ですからそれと並行して幼児期に共に歩む場を作ると同時に、地域の幼児に目を向けることで、国分寺エリアのレベルを上げていきたいと思っています。ちなみに去年、国分寺市からひとり東京都の選抜チームに選ばれて、FC東京に進んだ子がいます。すでにそういう兆しがあるし、地域トレセンでは以前から『Jリーガーをつくろう』と頑張っています。国分寺出身のJリーガーを一人でも多く輩出できるよう、僕も指導者としてもっとレベルアップしていきたいですね」
その言葉どおり自身の指導の質をさらに高めるべく、日本で初めてとなるフィジカルコーチのライセンス講習会(AFC Fitness Coaching Certificate Course Level 1)を、4種年代の指導者としてただ一人受講している鎌田さん。COACH UNITEDはその学び続ける姿勢をこれからも応援していきたいと思います。
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取材・文 COACH UNITED編集部 写真 COACH UNITED編集部