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チームを持続的に強化するために必要なもの/大宮アルディージャの育成方法

近年、各年代の主要な大会において確かな実力を示すクラブが、サッカーどころ埼玉に居を構える大宮アルディージャだ。COACH UNITED ACADEMYでは、その大宮アルディージャと共にキャリアを積み重ねてきた現トップチーム監督の渋谷洋樹氏に、「クラブチームの育成方法」をテーマに自身の考え方を語ってもらった。(取材・文/鈴木智之)

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<<ジュニアからトップまでの道筋をどう作るのか

■すべてのカテゴリーに一貫するスタイル

クラブが継続的に成長していくために欠かすことができないもの。それが「スタイル」だ。大宮アルディージャを率いる渋谷氏によると、大宮はトップチームからアカデミーまで、オランダスタイルを踏襲した『ダッチ・フットボール』を掲げているという。かつてはユースの立ち上げに関わり、Jr.ユースでも指導の経験を持つ指揮官は、アカデミーのスタイルを次のように語る。

「サッカーのコンセプトとしては、ショートパス、ミドルパス、ロングパスをつなぎ、ボールを握って主導権を握ること。自分たちが意図した形で攻撃をすることを目指しています。これはジュニアからユースまで、育成年代で統一しています」

なぜオランダなのか。渋谷氏は、「主導権を握りながら点を取って勝つスタイルは、ピム・ファーベーク監督(1999年当時)の影響が大きい」と言う。前編でも触れたが、ピム監督がトップ、渋谷氏がユースの指導者という関係にあった頃、ふたりは指導について話し合ったり、映像を見て意見を交換することがあった。そこで「守備一辺倒だと試合に勝つことはできない。ボールを握ることが重要で、上位にいるチームはボールをしっかり握っているもの」という考えが、クラブに芽生えていった。

もちろん、多くのクラブがボールを保持する時間を長くし、試合の主導権を握って勝ちたいと思っている。しかし、実現するのは容易なことではない。相手との力関係によっては、守備の時間が長くなることもある。育成年代と違い、結果がすぐに求められるトップチームは、理想と現実の折り合いをつけなければいけない。理想を掲げながらも、目の前の相手に対して勝利する確率の高い戦い方をするという、理想と現実の狭間で渋谷氏は戦っている。

「トップチームは結果が必要なので、堅守速攻をせざるを得ないこともあります。それは、相手に合わせて臨機応変にやらなければいけません。とはいえ、育成年代で身に付けることは変わらないと思います。ボールを正確に止めて蹴ること、良い判断をすることをベースに、自分たちのスタイルを突き詰めていく。それを我慢して指導し、徹底していきます」

■再現性あるトレーニングによる積み重ね

大宮には今季、トップチームに昇格した黒川淳史をはじめ、ボールコントロールや判断に優れた選手が育ってきた。育成年代において、サッカーで重要なボールコントロールと判断は、どのようにして高めていけばいいのだろうか。

「ボールを握るためには、しっかりとした『止めて蹴る』という技術が必要です。同時に、パスを受けるための準備や予測、状況を見てどう動けばいいのかという判断も欠かせません。技術は練習で高めて、ボールのないところの動きは意識面でカバーします。育成年代であれば、選手たちに『ボールを持つことは楽しいんだ』と思わせて、速くボールを奪うことを徹底します。ボールを奪われた瞬間に奪い返すことができれば、体力を消耗しなくて済みますよね。攻守あってのサッカーなので、攻撃と守備の一方ではなく、両方をトレーニングの中でやり続けることが大切だと思います」

トレーニングで意識することは、次のようになる。

「まずは指導者に『こういうサッカーがしたい』というものがあり、選手に大枠をイメージさせてからトレーニングをします。パズルに例えると、外枠があって、そこにどのようなピースをはめていくか。ひとつのピースが小さければ、大きくするために個々の能力を上げていきます」

トレーニングでは何をポイントにしているのだろう。渋谷氏は「再現性」という言葉を使って説明する。

「トレーニングでは、再現性のあることをします。ボールを動かす練習をするのであれば、どこにポジションをとって、どの身体の向きで受けて、どのスピードでパスを出すのか。決してパターンにはめこむのではなく、ポジション取りによってどのような現象が起きるかを理解してもらいます。再現性のある練習をすることで、試合の中で選手たちが積み上げることができるわけです。指導者としては、選手が夢中になれて、なおかつ成長できるトレーニングをしたいですよね。例えば『知恵の輪』というのは、どうすればいいか考えて夢中になってやる。サッカーも同じで、指導者の役割は選手に『知恵の輪』をやらせるようなものだと思うんです」

大宮アルディージャの下部組織ができて、今年で18年になる。最初にユースができ、その後にJr.ユース、ジュニアと創設され、いまではすべてのカテゴリーが活動している。そこには、かつて大宮のトップチームで選手として活躍した人がコーチとして戻ってきたり、渋谷氏のように育成からトップのカテゴリーへ昇格する人もいる。指揮官はアカデミー18年目の現状を、次のように語る。

「アルディージャがしたいサッカーをわかっている人が、アカデミーの指導者に増えてきました。全員に共通するのが『アルディージャを良くしたい』という気持ちです。個人的には、サッカーに対する価値観の重要性を感じています。アルディージャには『ボールを握る』という共通の価値観があります。それをベースに、アカデミーとトップ、保護者の方と地域が一体となって、選手を育成していく。アカデミーの選手がトップに上がり、ゆくゆくはJ1で優勝して、AFCチャンピオンズリーグに出場する。そのような将来を目指しています」

育成からトップまでを熟知する渋谷氏は、セミナー本編でさらに深く戦術や指導法について語ってくれた。現役のJ1監督による指導のエッセンスに触れたい方は、COACH UNITED ACADEMYにアクセスしてみてはいかがだろうか。

渋谷洋樹(しぶや・ひろき)
1966年11月30日生まれ。北海道出身。室蘭大谷高卒業後、古河電工→PJMフューチャーズ→NTT関東サッカー部でプレー。引退後、NTT関東のコーチとして指導歴をスタートし、1999年から大宮アルディージャのユースコーチ・監督を歴任、2002年にはJr.ユース監督も務めた。2004年からトップチームに昇格して長らくコーチを務めた後、2010~2013年にはヴァンフォーレ甲府のトップチームコーチとして異なるクラブを経験。2014年から大宮トップチームコーチに復帰し、シーズン途中の8月には監督に就任した。クラブはJ2に降格したものの引き続きチームを任され、2015年シーズンのJ2リーグを制して1年でのJ1復帰を決めた。

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