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良い睡眠と良い食事。 日々のコンディショニングがカラダの土台を作る(前編)

サッカーであれば、年中試合が可能なため、季節にあわせたコンディショニングが必要で、高校生などの育成年代であれば、なおさら。成長のための栄養と激しい運動量をこなすエネルギー源となる食事、競技レベルを上げる練習に筋力を高めるトレーニングと、日々の生活で意識したいことがたくさんある。

今回は、トレーニング科学の専門家と多数の選手を見守る公認スポーツ栄養士にインタビュー。毎日のトレーニングや栄養摂取に関して気にかけたいこと、試合に向けた具体的な調整方法を伺った。自分のポテンシャルを引き出し、パフォーマンスを最大化するため、正しい知識を身につけていこう。(記事提供:味の素株式会社)

[インタビュー]
滋賀大学教育学部教授 松田繁樹さん
管理栄養士・公認スポーツ栄養士・調理師 中野ヤスコさん

1試合分のエネルギーを蓄えられる、日々のカラダづくりが重要

――サッカーは年中試合が可能な競技のため、コンディショニングがより重要になります。例として高校生サッカー部員(175cm 65kg、男性)の場合、日頃のトレーニングで意識したいことは何ですか?

松田:高校生であれば、先ずはカラダづくりが非常に重要です。175㎝、65㎏だと体重がやや少ない。少し前のデータですが、U-20(20歳以下)世界大会のMFの平均身長は、今回の高校生とだいたい同じですが、平均体重は約71㎏でした。5㎏ほどの差があるので、体格としてはまだできていない印象です。フランス代表のU-17~19の2005年のデータを見ても、U-17~19にかけて身長はほとんど変わらないのですが、体重は年齢が上がるにつれて増えています。この年代においてはしっかりトレーニングをして、筋量を増やすことが大切ですね。筋量が増えることにより体重が徐々に増えることになりますので、もしこの年代で体重が増えていかなければトレーニングや栄養、休養を見直す必要があるかもしれません。

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日頃のカラダづくりでは、筋トレとパワートレーニングが中心になると思いますが、トレーニングが増える分、コンディショニングがさらに重要になる。疲労度が増すので、それを回復させるための栄養・休養を意識したいところです。

中野:例えば1試合で1000 kcal(キロカロリー)消費する場合、試合の日だけ調整しても意味がありません。普段からそれだけのエネルギーを蓄えられるカラダづくり、生活習慣が重要です。そのためには「先ず体調を崩さないことが一番大切」と、よく言っています。

高校生年代は、成長の分と練習・試合で使う分を考えると、絶対的にエネルギー摂取量が足りません。だから、朝昼晩と主食・主菜・副菜のバランスのとれた食事を摂り、見合った量を食べることが一番の課題になりますね。

――パワー、スピード、アジリティなどサッカーには様々な要素が必要です。持久力向上を含めて、選手にとって適切な食材や栄養素を教えてください。

中野:基本的に、食事から栄養素を摂れるカラダの土台ができていることが大切ですので、日々の食事での栄養バランスに気を付けることが一番大切です。あとは摂取タイミングと量。練習前には糖質中心の補食でエネルギーを補給することでトレーニング後の疲労回復にもつながります。練習後は、速やかに補食で糖質とたんぱく質を摂取しておくと、トレーニングを効率的に活かすことができます。

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例えば、食品に含まれる栄養素やトレーニングとの組み合わせを勉強した上で、3食ではカバーしきれない栄養素やエネルギー量を補助食品で補うことも重要ですね。その意味で、トレーナーと栄養士が連携して選手たちに対し、知識を教えるのも、大切だと思います。高校生年代だと欠食する選手や、朝食・昼食を疎かにして練習だけ頑張る選手も多いので、意識改革も必要だと感じます。

松田:サッカーの競技練習は当然重要ですが、それだけだとパワーやアジリティは少ししか上がりません。パフォーマンスを向上させるには、それぞれの能力を上げるトレーニングが別で必要。オススメなのはプライオメトリクスというジャンプトレーニングやメディシンボールを使ったトレーニングですね。もともと陸上跳躍選手のジャンプ力向上のために開発されたもので、最近はサッカー選手でもパワーやスプリント向上、アジリティや方向転換能力が上がるエビデンスも出ています。

良く寝て体格を一回り大きくできれば、もっと世界で戦える

――高校生年代の選手が、筋トレをやるときに適切な頻度や気を付けたいことはありますか?

松田:頻度は基本通り、週に2~3回、中1~2日空けるのが良いと思います。高校生から本格的なウエイトトレーニングを始める選手も多いので、最初は動作に慣れるのが大事ですね。ベンチプレスやスクワット、デットリフトにしても、動作が結構難しい。最初は重量を少なくして回数を多めにし、慣れたら高重量なものにしていけばいいと思います。

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付け加えると、シーズンオフに強化してインシーズンにはあまりトレーニングをしないチームがあるかもしれませんが、プレシーズンでのトレーニング後、インシーズンで週1回トレーニングを続けた場合と、隔週でトレーニングを続けた場合で、どれだけフィジカルが違うか調べた研究があります。結果は、隔週だとスプリントと筋力が低下したので、週1でトレーニングを続けたほうがコンディションを維持できます。インシーズンでもトレーニングは続けたほうが良いですね。

中野:あるスカウトの方が、ハイレベルの高校生サッカーチームを見に来ていたとき、「技術があっても、カラダの線が細く食意識の低い選手はスカウトをしない」とおっしゃっていました。おそらく普段からのカラダづくりへの取り組み姿勢を判断されているようでした。

実は、たんぱく質の摂取量を増やしてしっかりと筋肉をつけていくのは、高校2~3年生ぐらいで身長が止まった後の話。カラダのベースができていない状態でたんぱく質ばかり摂って筋トレをしても目的に沿ったカラダがつくられません。また高校生といっても低学年と高学年で違う。2~3年生は筋肉が増えるけど体脂肪も増えるから、たんぱく質の摂取量を調整したり、練習内容によって糖質は抑えていくなど、摂取する栄養素のバランスを指導することもありますね。

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――日常的な生活習慣において、パフォーマンスを向上させるアドバイスなど他にあれば教えてください。高校生の場合、身長が伸びてカラダの変化があったり、怪我をした際の対処法も十分に知識がない場合もあります。

中野:身長が伸びている間は、しっかりエネルギー量を確保することが大事ですね。身長が年間に1㎝も伸びないようになってきてから、「筋肉を増やそう」とか「体脂肪を絞ろう」と考えていくので、身長が伸びている時は難しく考えず、「とにかく食事量を落とさないように意識しよう」と言っています。

怪我をしたときに起こりやすいカラダの変化は、2パターンあるんですよね。体重が減る選手と、増えてしまう選手。増えてしまう選手は食べる量と消費量のプラスマイナスのバランスが崩れているところを気にすれば良い。一方、減る選手には普段から体組成をはかる習慣をつけるように指導しています。筋肉と脂肪のどちらが減っているかがわかれば、筋肉量を減らさない食事ができて復帰も早くなります。

松田:身長の話は、中学生、高校生の時期の栄養摂取が本当に大事だと思います。その時期にしっかり栄養と休養をとって、睡眠時間を増やして成長ホルモンを出せば、サッカー選手全体の体格をもう一回り大きくしていくことができる。もっと世界で戦えるようになると思います。遺伝的な要因がかなり大きいと考えられますが、事例だとよく食事をして、睡眠時間をしっかりとり、食事量やカルシウム摂取の多い選手が、背も高くなる傾向がある。この時期にどれだけ良い栄養と休養をとるかで、伸びが変わってくると思います。

中野:栄養とトレーニングに対する知識も必要ですが、高校生ぐらいだと、結局はよく食べて、よく寝て、よく運動する選手が伸びていくのは本当ですね(笑)

『前編』では普段からの生活習慣、トレーニングに対する考え方、食生活などで気を付けたい点を紹介した。『後編』では試合に向けてパフォーマンスを最大化するコンディショニングや、1日の必要なエネルギー・栄養素量をカバーする模範的な食事メニューを提案していく。

『後編:適切なコンディショニングがピークを高める』はコチラ ※外部サイト(アミノ酸スポーツ栄養科学ラボ)に遷移します。


■松田繁樹 まつだしげき
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Ph.D.,CSCS

愛知県瀬戸市出身、滋賀大学教育学部教授、兵庫教育大学大学院(博士課程)教授.博士(学術)、専門はトレーニング科学、測定評価、発育発達、公認サッカーC級コーチ。大学からサッカーを始め、北信越大学サッカー得点王、北信越社会人サッカー得点王、天皇杯、国体にも数回出場。選手引退後、サッカー選手のバランス能力、ジャンプ力、トレーニングを研究。プライオメトリクスに関する連載等を執筆。研究と現場の橋渡しに注力。

■中野ヤスコ なかのやすこ
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管理栄養士・公認スポーツ栄養士・調理師

「楽しくおいしく手軽に」をモットーに選手、保護者、指導者、それぞれの立場と環境に考慮した栄養指導を得意とする。陸上実業団チームの海外合宿や世界大会の帯同実績も多い。独自メソッド「スポーツ食育プログラム」を県内の中・高校スポーツチームへ多数展開。静岡県藤枝市青木で健康食堂「くるみキッチンプラス+」を経営し、静岡県内の食材を活用した「健康な食事」のアンテナショップとなるべく食環境整備にも力を注いでいる。株式会社食の学び舎くるみ 代表取締役。