04.30.2014
「教えてあげる」は大人の自己満足。――横浜市SUERTE juniors
子どもがサッカーを楽しいと感じることが、子どもにやる気を与え、そのやる気が自立へとつながり、子どもの成長を引き出し、豊かな未来へ導いてくれる。大人が答えを与える、やらせるではなく、子どもが自分で考え判断し、自発的に成長していける環境を作りたい。
それは、サッカーを通した子どもの教育そのものだとサカイクでは考えています。
「理想論ではそうだよね」「そうしたいと思ってるけどさ」
色々な声があるのも事実ですが、こういう取り組みを始めているチームはたくさんあります。
答えはやはり現場にあり! この連載では「自分で考えるサッカーを子どもたちに」を実践しているチームを訪ね歩き、リアルな声を拾って行きます。
■自然発生的雪かきも考える材料
関東を襲った大雪から数日後、横浜市にあるフットサルコートにはたくさんの雪が残っていました。
「こっち運んで―」「おまえ邪魔するなよ」
誰からともなく始まった雪かき。どんどん人が増えていき、あっという間に楽しそうな笑顔が広がります。
練習開始時間を過ぎても“サッカー”が始まる気配はありません。
第1回にご登場いただくのは昨年末、FootballConection主催の「Football Connection U-10 in 富士 〜 任せれば、できる」の中心チーム、神奈川県横浜市のSUERTE juniors(スエルテ・ジュニオルス)さん。
「はじめは受付のお姉さんが一人で雪かきしていたんですよ。それから子どもたちがどんどん手伝っていってね。あれがお兄さんだったら結果は違ったかもしれません」
チームの代表を務める久保田大介さんが笑いながら言います。
コートの半分に大きな雪の塊が残っている状態では練習も始められません。大人の凝り固まった頭では「練習ができるように雪かきをする」と理屈で考えてしまいます。この日集まったのはU12チーム。子どもたちの柔軟な頭は「楽しむ」ことが優先されます。
はじめは施設にあった道具だけで雪をかきだしていたのですが、効率が悪いと思ったのか、誰からともなく練習に使う三角コーンを持ちだし、その中に雪を詰める係、たまった雪が満載のコーンをコート外に持っていく係と徐々に役割分担ができていきます。
あっという間に片付いていくピッチ。
子どもたちは誰に言われるでもなく、楽しみながら「考えて」雪かきを進化させていきます。
一緒に雪かきをしている久保田さんも、子どもたちと楽しそうに息を弾ませながらも、具体的なやり方を指示することはありません。
■サッカーの喜びは表現の自由に
「みんな、ありがとう。だいぶきれいになった。そろそろゲームするよ」
久保田さんがそう言うと、子どもたちはゲームの準備を始めます。
「時間の隙を作るな―」
久保田さんが言います。
早速集まってチーム決めをする子どもたち。独特のルールが決まっているらしく、番号を言い合って、あっという間に3つのチームができます。
「移籍お願いしまーす」
人数にバラつきがあったのか、そんな声も飛び交います。
スエルテ・ジュニオルスは、幼稚園児からU12までの子どもたちが、できるだけ自主的にサッカーを楽しむことをモットーとするチームです。
「こうしようと思ってこうなったと言うよりは、自然にこういうチームになっていったんですよ」
子どもたちが自分で考えるサッカーをするようになったきっかけを聞くと、久保田さんは苦笑混じりにこう言います。
現在は久保田さんと、奥山祐人さんの2人体制でチームを指導していますが、以前はコーチングスタッフは久保田さん一人。久保田さんも結成当初は色々口出しして仕切っていたそうです。
「でも、だんだん細かいところまで手が回らなくなったんですよね。それで当時は、今も時々顔を出してくれる斉藤隆士コーチ、今井慧コーチにもお願いして来てもらっていたんですけど、二人とも子どもたちと本当に楽しそうに遊んでくれたんです」
「これでいいのかもしれない」
久保田さんは子どもたちの楽しそうな姿を見て、子どもたちを信じて任せることの大切さに気づいたそうです。
この日の練習はゲームを中心にしながら、2チームに分かれた選手が手をつなぎ、必要だと思ったときにだけ前に出てボールにアプローチするトレーニングなど、自分で判断することを求められるメニューが満載。
キーワードは「知っている状態」でプレーすること。周りや相手の状況、逆サイドまで全部知っている状態でボールを受けてプレーできれば、身体の大きい選手や「速い選手」に対してもアドバンテージを持ってプレーできる。久保田さんはサッカーの醍醐味をアドリブ、「表現の自由があるところ」だと言います。
だからこそ自分たちで状況を判断する思考力が必要。指示待ちではサッカーは楽しくない!
■コーチと呼ばないで
【大人が子供より必死にならない】教えてあげる、という言葉は、大人の自己満足
スエルテのホームページに掲げられている言葉です。
「もちろん、きつい言葉で注意することもあります。でも“指導する”とか“教える”って一方通行じゃないですか」
久保田さんは最近、子どもたちに「コーチと呼ばないで」と言っているそうです。
「『なんだか知らないけど、あのおじさんは、いつもここにいてくれて、一緒にサッカーをしてくれて、自分たちのために本気になってくれてる』そんな存在でいたいなあと思っています」
じゃあなんて呼ぼう? それも子どもたちに考えてもらう? たった数時間の間にも“らしさ”があふれるスエルテ・ジュニオルスの練習でした。
この連載は取材に伺った先に「考えるサッカー」を実践しているチームを紹介してもらう「リレー形式」で進みます。スエルテさんが紹介してくれたのは、東京都世田谷区で活動する成城チャンプサッカークラブ。次回は成城チャンプサッカークラブさんにお伺いします。
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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取材・文 大塚一樹 写真 サカイク編集部