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「軸足を使ってボールを運べ、身体から離すな」。中西哲生が語る長友佑都

 COACH UNITED編集部です。先日、幸野健一さんの「フットボール研鑽」にご登場いただき、大きな反響をいただいた中西哲生さん。日本サッカー協会特任理事・TOKYO FM『クロノス』・テレ朝『GET SPORTS』など各方面で大活躍を続ける中西さんのもう一つの顔、「ティーチングプロ」としての側面に驚かれた方も多いのではないかと思います。
 
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 今回は、中西さんがレッスンを続ける長友佑都選手について、クロスを指導された際のお話を伺いました。ここでしか読めない貴重なお話となっています、どうぞご覧ください。
 
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■ドリブルは、手段でしかない
 長友佑都選手にクロスを指導した際のことについて、話せる範囲でお伝えします。
 
 クロスに関しては、これまで長友選手は度々、左足でかなり質の高いボールを上げることがありました。ただ、それは10回に2回ぐらいの割合でしかなかった。僕は「10回に8、9回は上げられるようになる」と思っていました。しかし本人はどうやったら良いボールが上げられるようになるか、論理として完璧には理解できていなかった。そこで、それを論理的に伝えて、僕自身が蹴り方を実演し、彼がそれを自ら確認して、自分のモノにしていきました。
 
 彼自身がもともと持っている左足キックの精度を、より高めていく。成功するフォームの論理を、自分自身のフォームとして叩き込む。それが僕の役割です。1回の偶然の成功に「いやあ、うまくできたね!」ではなくて、「こういう理由があるからうまくできた」と説明できるようにする。そのために必要なドリルはこれ、と渡して、それを繰り返し実践すればナチュラルにできるようになる。
 
 また、長友は身体からボールが離れるドリブルをしていました。これは、彼が持っていた大きな課題でした。ボールを持って、蹴って、追いつくというドリブルをしてしまうと、ボールが自分の身体から離れてしまい、追いつくまで時間がかかります。また、ドリブルから行なう次のプレーはパスかシュートくらいしかありません。ドリブルのままゴールを決められるのはクリスティアーノ・ロナウドかメッシぐらいでしょう(笑)。
 
 つまり、ドリブルだけでは目的を達成できない。ドリブルは、手段でしかないわけです。手段である以上、次をパスするにせよシュートするにせよ、自分がボールに追いついた瞬間しかキックできないような持ち方では、最良のプレーができません。
 
 理想は、受け手のタイミングでボールを出せること、そしていつでも出せること。さらに、最後の最後で判断を変えられること。もし最後の段階でアクシデントがあって、蹴った瞬間に相手のポジションが良ければ、ボールを奪われる可能性がある。いつも言っているのは、「最後の最後で判断を変えられるように、そのために身体からボールを離さないように」ということです。

■軸足を使ってボールを運ぶ
 昨シーズンのミラノ・ダービーにおいて、長友がスケロットに合わせたクロスボールはまさにそういう形でした。相手に、最高の状態で合わせられるようなボールの持ち方をする。それも、単純にボールから身体を離すなというだけでなく、ボールをどこで触るかということについても具体的に全てを事細かに伝えます。
 
 右のイン・アウト、どこで持つか、どこでドリブルするか、これは動画でないと説明しきれないところがありますが、基本的には「ドリブルするほうの足でボールを蹴れば、ボールは身体から離れる」ということですね。右でドリブルして、ボールを蹴って進めば、身体から離れますよね。だから、ボールを持つときは、持っていない足を出して運ぶ必要があります。
 
 つまり右で持って、左で運ぶ。左で持てば、右で運ぶ。ボールを持っているほうの足は一切動かさない、ここにボールが付いた状態のままです。軸足を使ってボールを運ぶ、ということです。ありがちなのは、足首だけを使って運ぶこと。しかしそれだと、ボールと身体が離れてしまう。必ず、蹴らずに運ばなくてはいけません。
 
 これはもちろん、ディフェンスの技術にも応用できます。良いディフェンダーは、全く同じことができます。この間の対談でも述べましたが、優れたディフェンダーは両利きです。守備は両利きでないといけない、ですが片足しか出せない選手が多い。相手のボールから近いほうの足を出せないといけません。ただ基本的に、僕は攻撃のことについてしか選手たちには教えていせん。
 
 なので、選手から「守備はどうすればいいんですか? 教えてください」って言われるんですが、いやいやもうやってるよって話すんです(苦笑)。とにかく、最後の最後で判断を変えられる持ち方をすること。そうすれば、守備の時も両足出せるように、しかも最後の最後まで足を出さないこともできるようになります。つまり、攻撃も守備もつながっているということです。
 
 それにしても、長友は本当にすごいですよ。僕が数日前に伝えたことを、公式戦でいきなり実践することもあるんです。今年に入ってからの3ヵ月間は、かなり大きく進化しています。練習を苦に思わず、ずっと練習し続けられる彼の資質の賜物ですね。本当に素晴らしい選手です。
 
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