04.10.2014
「日本の子どもから、強い意欲感じた」幸野健一×ジョー・サットン(アーセナルFC)
COACH UNITED編集部です。アーセナルサッカースクール市川代表・幸野健一氏による「幸野健一のフットボール研鑽」、第三回からの続編となる第四回は引き続きアーセナルのテクニカル・ディレクターであるジョー・サットン氏を迎えてお話を伺っています。
今回はアーセナルという世界的なクラブのアンバサダーとして、世界中を飛び回っているジョー氏の仕事内容について主に伺っています。どうぞご覧ください(取材日:2014年3月29日 取材・文 鈴木智之)。
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幸野健一(以下、幸野) ジョーはアーセナル・サッカースクールのテクニカル・ダイレクターとして世界中を回り、クラブのフィロソフィー(哲学)を伝える仕事をされていますが、指導者や選手と接するときに大切にしていること、意識していることはありますか?
ジョー・サットン(以下、ジョー) 「自分はアーセナルの代表である」という意識を強く持って仕事に臨んでいます。私がアーセナルのメンバーとして赴く先では、大きな歓待を受けています。人々は私をアーセン・ベンゲルの影響を受けたアンバサダーだとみなしていますし、私の言動は現地の人々に大きな影響を与えます。個人的には大きなプレッシャーを感じることもありますが、アーセナルを代表する立場として、ふさわしい態度で仕事に臨むことが重要だと考えています。
幸野 アーセナルでは、どのようなトレーニングを主に行っているのでしょうか?
ジョー 試合にフォーカスした練習を重視しています。日本では、どちらかといえば技術面にフォーカスしたものが多いと感じます。確かに技術面も大切ですが、それだけでは試合に直結しません。そうした部分が、先ほど(注・第三回)、試合にフォーカスした練習において、子どもたちから質問が出てこない原因のひとつなのではないでしょうか。アーセナルでは、すべてのトレーニングセッションの最後にゲームを行います。トレーニングした技術が、試合のどのような局面で使われるかを、きちんと認識できるようになっています。トレーニングでは毎回テーマを1つ選び、簡単なメニューから徐々に難しくしていき、最終的に同じテーマのミニゲームで終わるようにしています。
幸野 アーセナル市川は自前のグラウンドを作り、イギリス人の常任コーチと一緒に活動をしていきます。また、Jrユースはクラブチームとして登録して活動します。そういった姿勢は、他国のアーセナルスクールと比べてどうでしょうか?
ジョー シンガポールやスウェーデン、ドバイのスクールは自前のグラウンドを持っているので、ホストとしてローカルリーグを開催したり、国際トーナメントなどにも積極的に参加しています。一方で香港のスクールには自前のグラウンドがなく、レギュラーでトレーニングすることが難しいといった状況があります。しかしこうした事情はディレクターとしては勉強になりますし、各国の文化を学ぶ機会になっています。
――ジョーは世界のスクールを回っていますが、その国の文化がフットボールに与える影響は、大きな割合を占めるものなのでしょうか?
ジョー フットボールは、非常に美しいスポーツです。なぜなら、国際言語としての機能も持っているからです。国ごとにそれぞれのレベルがあり、情熱的なフットボールが存在します。幸運なことに、アーセナルは世界中で良い評判をいただいているので、世界中のどこに行っても、「サッカースクールを広めてほしい」と言われています。フットボールは、その国の人々がどれほど多くの情報にアクセスできるかを映し出します。テレビでアーセナルの試合を頻繁に視聴できる環境にあれば、私の仕事はより容易になるでしょう。それぞれの地域に、それぞれのカルチャーがあります。中東は大金持ちが多く、フットボールに対してハングリーではない側面が見えることもあります。
逆に、それほどお金を持たない地域から来た子どもたちは、ファイトあふれるメンタリティを備えているケースが見られます。日本の子どもたちに関して言うと、セッションを終えて感じたのは「もっとうまくなりたい」という強い意欲です。私は2人の子どもからサッカーノートを受け取りました。彼らは、自分の練習をきちんと分析していたのです。練習を終えた後に、自主的にボールを蹴って練習している子もいました。こうした姿勢は素晴らしいことですし、日本の文化と関係があるのではないでしょうか。
幸野 昨年12月にロンドンへ契約交渉に行った際、アーセナルを愛している多くの人々と接することができました。同時に、クラブが持つ130年の歴史の偉大さを感じました。ジョーは日々仕事をしていて、そのあたりはどう感じていますか?
ジョー アーセナルの一員として働けることは、言葉にできない喜びがあります。私はエミレーツ・スタジアムの近くのオフィスに毎日通い、情熱的な人々と一緒に仕事をしています。なかには、20年以上前から働いている人もいます。ベンゲルが20年前にクラブに来てから、多くのタイトルを手に入れました。同時に、クラブとしても大きく成長させてくれました。2006年には、巨大なスタジアムも建設されました。ベンゲルがチームにもたらしたものは計り知れず、ロンドンだけでなく、多くの地域においてアーセナルというクラブの価値は高まっています。
幸野 それは素晴らしいことだと思います。この対談の前に、ジョーはアーセナル市川のコーチ陣と一緒にボールを蹴り、フットボールを楽しみました。
ジョー すばらしいグラウンドで、楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございます。
幸野 私の考えとして子どもたちを指導する以上、指導者である自分自身がフットボールを楽しむべきだと思っています。
ジョー そう思います。私自身、フットボールを愛していますし、そういう気持ちを子どもたちに伝えています。もし、私がこの仕事を離れてもフットボールに対する情熱は持ち続けますし、毎日テレビで試合を見て、友人とディスカッションをするでしょう。コーチがフットボールに対する情熱を持ち続けていれば、選手にも伝わると思います。子どもたちが将来に渡ってフットボールを愛し、アーセナルを愛してくれれば、それに勝る喜びはありません。
幸野 4月16日からスクールが始まりますが、僕らは一生懸命取り組み、宮市亮のようにアーセナルのトップチームでプレーする選手が出てくるように頑張るつもりです。期待していてください。
ジョー もちろんです。この地でアーセナルのプログラムが行われることを喜ばしく思っています。サッカースクールのためにグラウンドを作るという取り組みは、世界的にも稀なことです。グラウンドとクラブハウスがもうすぐ完成するということで、来日することが楽しみです。また会いましょう。
幸野 本日はありがとうございました。
<この項、了>
●幸野健一(こうの・けんいち)
1961年9月25日生まれ。中大杉並高校、中央大学卒。10歳よりサッカーを始め、17歳のときにイングランドにサッカー留学。以後、東京都リーグなどで40年以上にわたり年間50試合、通算2000試合以上プレーし続けている。息子の志有人はFC東京所属。育成を中心にサッカーに関わる課題解決をはかるサッカー・コンサルタントとしての活動をしながら、2014年4月より千葉県市川市にてアーセナルサッカースクール市川を設立、代表に就任。
取材・文 鈴木智之 写真 鈴木智之