TOP > コラム > 「何よりも人間性を重視する」南米の雄・クルゼイロECの育成(前編)

「何よりも人間性を重視する」南米の雄・クルゼイロECの育成(前編)

1797599_644662848922623_6191621738488550469_n.jpg

 強化と育成を両立する南米のバルセロナ――。
 
 南米のクルゼイロEC(以下、クルゼイロ)はそう表現されて相応しいクラブかもしれません。そのクルゼイロが3月下旬に、日本で初めてとなるキャンプ『クルゼイロ・ジャポン サッカーキャンプ』を開催しました。
 
 クルゼイロは昨年のブラジル全国選手権で優勝した南米のビッグクラブ。そのトップチームの30人中11人はアカデミーから育った選手でした。南米で強化と育成を両立できているのは、サンパウロ、アトレチコ・パラナエンセ、そしてクルゼイロの3クラブだと言われています。日本のサッカーファンからすれば南米ではコリンチャンスなどが有名かもしれませんが、強化と育成の両立、という切り口で判断した場合、この3クラブにはかないません。
 
 クルゼイロのアカデミーからは多くのトップチームの選手が生まれ、また、世界中で出身選手たちが活躍しています。クルゼイロが輩出した代表的な選手といえば、日韓ワールドカップでブラジルを優勝に導いた世界的ストライカーのロナウド、Jリーグでいえば、アルビレックス新潟のレオ・シルバがいます。
 
 これらの成功のカギは、クラブの環境づくり、そして、個に重きを置いたトレーニングメソッドにあるようです。まず前者の環境づくりについて、クルゼイロの国際部部長、ペドロ・モレイラさんはこう説明します。
 
 「創設して92年の歴史を誇るクルゼイロは、今やブラジル全国に700以上のスクールを開設しています。そのなかからダイヤの原石を発掘します。クルゼイロの指導者たちは地域の指導者たちと密に連絡を取り合っています。そして、アカデミーはU14、U17、U20のチームを備えており、毎年のべ2万人ほどのセレクション参加者のなかから厳正なる審査をくぐり抜けて合格した選手たちが、14歳から親元を離れてクラブが用意した施設に入ることができます。その数は各学年13名ほどで全7カテゴリー、合計約100名。彼らは16歳からプロになることができますが、毎年新たに加入しようとする選手たちとの競争でふるいにかけられ、敗れたものは他クラブへ移らなくてはなりません」
 
 DSC01235.JPG

 日本におけるジュニアユースやユース年代において、所属する選手たちはすでに熾烈な競争下に置かれています。施設内には学校や病院があり、そしてフィジオセラピストや精神科も常駐するなど、欧州のビッグクラブにも引けをとらない、選手たちがサッカーに打ち込むための万全の環境が用意されています。
 
 「ブラジル人の特性として幼いときは離れた家族が恋しくなってホームシックにかかる場合も多いのですが、場合によっては家族もクラブの施設内に住んでもらって、家族の仕事を提供できるだけの用意があります。また、選手たちにはサッカー漬けになるような偏った生活をするのではなく、施設内で学校の勉強のほかにも、食育、他文化の習得、年間行事としてクリスマスイベントや感謝際に参加してもらって、あらゆる角度から人間性を養っていきます。そうやってたくましく育ち、あらゆる困難を乗り越えた選手だけがプロになっていくのです」
 
 クルゼイロが重視するのは何よりも人間性だといいます。今回のキャンプを主催した側のスタッフであり、自身もブラジルに6年間在留して南米サッカーを肌身に感じてきた横林洋士さんがこう補足します。
 
 「僕が驚いたのはクルゼイロのスタッフたちの人間性です。キャンプのために来日した彼らをお酒に誘ったのですが『明日もキャンプがあるから』と丁重に断られました。『お酒を飲みにいくくらいならば寺を回りたい』と言っていたくらいです。そんな真面目なブラジル人は珍しいですよ。それはクルゼイロというクラブの伝統としてスタッフにも選手にも浸透しているもののようです」
 
 IMGP1893.JPG

 <後編へ続く>