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セカンドチームをどうマネジメントすべきか?――ドイツ・SCフライブルクの場合

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文:中野吉之伴

サッカーは11人でするスポーツ。しかし、出場する11人が常に決まっているチームには緊張感がなくなってしまいます。レギュラーを脅かす選手の存在は必要不可欠であり、試合に出られない選手が多い状況は健全とはいえなくなります。

「健康的な競争意識を保つために」ドイツを始めとするヨーロッパでは、1チームの人数は基本的に16―20人を最適としています。とはいえ、1シーズンの間に1人のけが人も出さずに乗りきれることは少なくなく、不測の事態に備えたバックアップが重要になります。

では、どこからどのように選手を補給するのが理想的なのでしょうか? クラブが育成組織を持ち、自前のユースから底上げを期待するのが良いとされていますが、基本的に同じ世代とだけサッカーをする育成サッカーと、様々な年代の選手が入り混じる成人サッカーとには大きな違いが存在します。

そうした点でトップチームとユースチームの間にセカンドチームがあるのは理にかなっているのですが、アマチュアも含めて欧州クラブの多くでは「ただのリザーブチーム」という存在でしかなく、不測の事態における人材供給元という認識しかないという現実が残念ながらあります。ユースからセカンドチーム経由でトップチームという育成昇格ルートを確立しているクラブは、実は少ないのです。

ドイツではベルギーにある『ダブルパス』という会社に委託して、3年ごとにブンデスリーガプロクラブの審査を行い、クラブライセンスを発給しています。育成部門のチェック項目も細かく、全てで500ほどあると言われています。

各クラブはそれぞれの評価に応じて0から3まで星がつけられ、最高となる3つ星評価を得たクラブはDFL(ドイツリーグ協会)から最高10万ユーロ(約1,410万円)の援助金を得ることができます。最新の審査で3つ星評価を得たクラブはSCフライブルク、ボルシア・メンヘングラードバッハ、バイアー・レバークーゼン、ヘルタBSCベルリンの4クラブでした。

ここでは、私自身馴染み深いSCフライブルクを例に挙げ、セカンドチームの活用法を紹介させていただきたいと思います。

SCフライブルクは、ドイツでも『育成型クラブ』として有名です。クラブ予算がブンデスリーガ最低ランクという事情もあるため、育成こそが生き残るための道だったという事情もありました。そのため、選手の力を最大限に引き出すことが求められ、必然的にセカンドチームまでを有効に使う哲学が生まれました。

小学生から中学生、中学生から高校生と各段階でもフィジカルやサッカーの質で壁が生じるものですが、フライブルクではU19とU23での差こそが一番大きいと考えられています。あるA級ライセンス指導者向け講習会で、元U19監督で現在はトップチームで指揮をとるクリスティアン・シュトライヒは以下のように熱っぽく語っていました。

「フィジカル値はU19までで落ち着く。U19とセカンドチーム(U23)で見られる最も大きな違いはメンタル、インテリジェンスの部分だ。ユース年代では味方も対戦相手も同年代だが、U23チームが所属する3、4部リーグは年齢のカテゴリーが存在しない。様々な経験を持った選手を相手にしなければならない。

 そこではブンデスリーガセカンドチームの他に、元プロ選手を多く所有する古豪クラブ、全国的に知られていないアマチュアクラブなど、様々なチームが存在する。そうした駆け引きに富んだ手練のベテラン相手に、いかに対抗していくか。各世代で主力としてやってきた彼らは、それまで以上にチームを構成する1人の選手だという自覚を持ち、年上の選手とともにプレーすることを学ばなければならない」

シュトライヒはさらに、以下のように強調しています。

「ユースから上がってきた選手は、自分の対峙する相手だけではなく、相手チームのシステムや戦術、時間帯やリーグでの順位といった様々な状況に合わせて、最適なプレーを選択できなければならない。様々なことが絡みあうゲームの中で、瞬時に今すべきことを判断し、実行に移せなければならない。更にレベルアップするために、プレーインテリジェンスを磨くことがU23では重要なんだ」

日本では予算の都合もあり、Jクラブでもセカンドチームを持てないところが多いと聞きます。育成への予算は、クラブとしての予算に余裕がなければできないという考えが一般的なのかもしれません。ですが、育成とは本来トップチームの予算と切り離して考えられなければならないものです。

「育成型クラブ」と聞くと、自前で育てた選手を高い移籍金で売ることで経営を成り立たせると考えられがちですが、それは間違いなのです。ドイツを例にすると、各クラブの育成アカデミーはそれ自体でスポンサーを確保し、運営資金を捻出してます。トップチームから補助金や移籍金の一部が補填されることはありますが、それをあてにしては運営は回らなくなってしまいます。

セカンドチームはトップチームとそのリザーブという関係だけではなく、育成世代の各チームでも必要になるものです。私が現在ヘッドコーチを務めているFCアウゲンを例に挙げてみます。

ドイツではU19、18をAユース、以下U17、16をBユースと2学年ごとに分けられ、各ユースごとにリーグ戦が存在します。小さな町クラブだとAユースとして1チーム登録しますが、ある程度強豪クラブになると各ユース2から3チームを登録するようになります。

アウゲンでは、U19トップチームがU19の3部リーグ、セカンドチームがU19の6部リーグに所属しています。メリットは、トップチームで出場機会が少ない選手がセカンドチームでプレーする機会を作ることができる点、そして素質はあるがトップチームでやるにはまだ早いという選手がセカンドチームで主力としてプレーすることで、成長を促すことができる点などが挙げられます。

しかしこれも、クラブにセカンドチームの重要性を認める育成哲学がなければ機能しません。感受性の強い年頃の子供たちが、「じゃあ君はトップチーム、君はセカンドチームね」と単純にカテゴリー分けされるのを納得できるはずもありません。クラブのために選手が存在するのか、選手のためにクラブが存在するのか。お互いにリスペクトしあえる関係を作るのが非常に大切です。

トップチームの選手はセカンドチームがあることで常にベストの人員を揃え、練習も自分たちの臨む通りにできるという環境をアタリマエのことだと思ってはいけない。「俺はトップチームの選手だから」とうぬぼれ、セカンドチームの試合に出ても全力でプレーしない選手もいますが、それを許してしまってはどちらのチームにとってもデメリットにしかなりません。

セカンドチームのモチベーションが下がらないように、しっかりとした指導者をつけ、クラブとしてサポートし、そこでプレーすることも大事な経験なんだと確信させることが大事です。

長期的な視点で見た時に、セカンドチームに対する時間と労力の投資は決して無駄になりません。選手の成長は人それぞれで、必ずこうなるという公式は存在しません。どれだけ多くのパターンに対応できるかが、クラブとしての真価が問われるところだと言えるでしょう。

中野吉之伴(なかの・きちのすけ)
秋田県出身。1977年7月27日生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督、翌年にはU16/U18総監督を務める。2013/14シーズンはドイツU19・3部リーグ所属FCアウゲンでヘッドコーチ、練習全般の指揮を執る。底辺層に至るまで充実したドイツサッカー環境を、どう日本の現場に還元すべきかをテーマにしている。


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