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「飛ばなくてもいい、しっかりした球種のボールを」佐原秀樹(川崎F・U12監督)インタビュー

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取材・文 江藤高志

 現役を引退後、2年のスクールコーチ経験を経て昨季川崎フロンターレU10コーチ、今季から川崎フロンターレU12の監督に就任した佐原秀樹監督。後編では、引き続き「仕掛け」の意識、および育成年代に固有の技術的な難しさについて説明してもらった。(取材・文 江藤高志)

<<前編:「集合場所は子どもに決めさせています」佐原秀樹(川崎F・U12監督)インタビュー
 
――育成年代の子どもたちには、仕掛けを求めていますか?

「もちろん。仕掛ける選手のほうが絶対にいいですよね。自分も守備をやっていたから仕掛けられると嫌でした。特に、ジュニア年代はそうですね。ジュニアユース、ユースになると、体も大きくなって自分の能力の部分で駆け引きして、自分が生きるために『仕掛けない』という判断も出てくるでしょう。が、ジュニア年代では基本的に仕掛けてほしい。1対1で勝負して、失敗して、そこで気がつくこともあると思います」

――先日の多摩川クラシコ(第4節のFC東京対川崎F)では、そういう意味で教科書になるような良いプレーが多かったのでは?

「そうですね、とてもいい試合でした。谷口彰悟のオーバーラップなどは、ああやってパワーを持って出て行かないとダメだといういい見本になりました。小林悠が頑張り、周りが連動性を保つ。ポジションチェンジについても、大久保嘉人と小林悠が中盤に下がって、そこに中村憲剛が出て行く。あの試合は、良い見本になります」

――親御さんに対するアプローチは?

「『子どもに考えさせるような言葉がけを、日常の中からお願いします』とお伝えしています。それは面談の時にも、保護者説明会でも伝えていますね。最近は親御さんが何でもしてあげていますから、なかなか難しいところもあります」

――親御さんとの関係で気を使ってることは?

「ご飯については、お願いしています。ウチは基本的に練習が終わったら、弁当持参なんです。練習が終わったらすぐに栄養補給させたいし、帰宅が遅くなってそのまま食べずに寝ちゃったりするのは良くないですから。もっとも、親御さんは大変なんですが。特にお母さんはそうだと思います。あとは、チームとして栄養講習会などもやっています。そこの部分は協力してもらっています。うちの子は小さいので」

■今の子は、外で遊ぶ機会が少ない

――ここまではチーム作りについて伺いました。続いて、技術面について伺います。4種に特有の傾向はありますか?

「(技術を)覚えるのは早いですね。ゴールデンエイジとその前の段階で、うちはU10からあるので、小学校3年生から入ってくる子も居ます。提示したことに対して、最初は出来なくても、覚えてくるのは早いですよ。リフティングとかはまさにそう。吸収力は高いですし、覚えるのが早ければ早いほどいいと思います」

――視野の確保、仕掛けの意識、色々あると思いますが、小学校年代に対して一番大事にしている技術は?

「特に下の年代は、ボール扱いですね。1人でできるリフティングはもちろん、ドリブルを大事にさせています。ボールを蹴ることは今のうちからやっておけば、じきに覚えてきます。ただ、質の高いボールを小さい年代の頃から蹴れるかどうかは別ですね。飛ばなくてもいいから、しっかりした球種のボールを蹴ること。あとはマーカーとかコーンドリブルとか、何でもいいんですが、思った通りにボールを扱えること。それが一番大事かなと」

――小さい子に対しては、パスとドリブル、どっちを大事していますか?

「まずはドリブルです。U10であればまずはドリブルです。『勝負しろ、行け』と。上の学年になればパスが入ってきて、より判断という言葉が入ってくる。U10に対しては、ドリブルです」

――子どもの体の作りを考えると、ドリブルさせたほうが自然という話もありますよね。他に重視している技術はありますか?

「早いうちに両足でボールを扱わせることですね。ドリブルは、ずっとやっていますよ。アップというかそういう感覚で、コーンの間隔を変えて。『ここで2回触らなければならない』『2タッチで行かなければならない』とか。時間も変わるし、運び方も変わる。後ろ向きでドリブルさせたり、色んなテーマを提示しています。片足だけとかもあります。スピードを養うには、競争が一番ですね。順位が付きますしわかりやすいですね」

――コーディネーションはどうですか?

「スクールでは、アップの段階で鬼ごっこだったり、ボールをぶつけたりとかはやりますが、ジュニアではあまりやってないですね。コーディネーションよりはラダーなどを使ったアジリティをやったり。あとは、時間が限られていて、ボールを最初から触らせたいという事情もあります。全体練習が終わって、照明が消えた中で20分くらいでラダーをやったり鬼ごっこをやったりします。練習場が住宅街にあるので、仕方ありません。本当は、自主練ができればもっと良くなるんですけどね」

――浮き球の処理は難しそうではないですか?

「空間認知はまだまだ練習が必要だと思います。落下地点がわからないみたいです。僕らが小さいころは外で野球もやっていたのでわかりやすいんですが、今の子は外で遊ぶ環境が少なくなっているので、その傾向はあります。昔は公園でボールも使えたけど、今は制限されてたり。学校も、授業が終わった後に遊べないという事情がありますね。昔はそんな事なかったんですけどね。でも今は変な事件も増えてるし、仕方ないかもしれないですね」

<了>

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