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女子指導で重要なのは『信号』を読み取ること。  

 COACH UNITED編集部です。少し前に、女子選手が「無月経」の状態に陥り、それが原因で疲労骨折を起こしやすくなるといった報道がありました。こうした話は"古くて新しい"、つまり現場ではある程度「常識」となっていた部分もあるようです。では、実際に女子の現場を指導する方はどのように捉えているのでしょうか? 
 
 チャレンジリーグ(2部)からなでしこリーグを目指すアンジュヴィオレ広島のU-12・U-18で指導を務める、柴村和樹さんに寄稿していただきました。(写真・文 柴村和樹)

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 アンジュヴィオレ広島U-12、U-18の育成年代で指導をしている柴村和樹です。先日、この記事を読んで心を痛めました。

http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3484.html 

   
>6年後に東京オリンピックを控える日本。10代選手の活躍が期待されるが、女子選手特有の深刻な問題があることがわかってきた。激しい練習と食事制限によって引き起こされる「無月経」だ。月経が止まると、骨の形成に欠かせない女性ホルモンの分泌が減り、疲労骨折を起こしやすくなる。その結果、選手生命を断たれてしまうケースも少なくない。

 こうしたケースについて、指導者の立場からこの記事について感じることは、「指導者との関わりでこのようなことを引き起こしている可能性がある」ということです。スポーツの指導者とは、選手を変えることができる存在だと思います。特に育成年代は、大人(指導者)と子ども(選手)の関係なので、より変化を与えることになります。しかし変化とは必ずしも良い方向ばかりではなく、結果的に選手を成長させられないという方向もありえます。

 子ども(選手)の素材は同じでも、大人(指導者)次第で選手は、多方面へ変化をしていきます。それは、今後の変化にも大きく影響していくことにと繋がると思います。だからこそ育成年代の指導者とは、責任の重さを感じなければいけないと思います。

■女性のスポーツとストレス

 指導者が選手を変化させる要素として「ストレス」に注目してみたいと思います。ストレスとは目に見えないもので、感じた方も人それぞれで男女によって違います。しかし、その目に見えないものが多くのことを引き起こしていると考えます。
 
 ストレスとは、他人に対してのストレス、自分に対してのストレス、そして他人から与えられるストレス、などがあると思います。

 その中でも、女性選手は特にストレスを抱えたまま運動を続けることで、練習しても成果が上がらなかったり、身体に異変が現れたりすることもあります。特に成長期の女子選手の場合は、ストレスや過度の運動で女性ホルモンが不足し、丈夫な身体を形成できずに怪我の原因にもなってきます。
 
 成長期の女性は、子どもを出産するための準備で身体が変化してくる時期でもあり、そんな時期に過度の精神的ストレスを与えることで、結婚・出産にも影響を及ぼしていくことにも繋がります。

 指導者が「選手を強くしたい、チームを勝たせたい」と思う気持ちが先行し過ぎて、目先の練習や選手の表面上の変化にのみ焦点をあててしまうことがあります。特に大会前や大事な試合前の試合結果を指導者が求めるがあまりこのようなことが起こることが多くあるのではないでしょうか。

 指導者が選手の表面に目を向けて、内面の様子に目を向けずに選手がストレスを積み重ねていってしまい、練習の成果も上がらずに、指導者が思うようにいかないことで選手に罵声をあげ、選手はさらにストレスを感じる、という悪循環に陥ってしまいます。

 そして、そのストレスからくる女性ホルモンの不足、心身のバランスの不安定から、怪我を引き起こす原因にもなってくるのです。

■"信号"を読み取ること

 精神面の充実は、指導者の中でおろそかになりがちな部分かもしれません。よくプロスポーツの世界では、監督、コーチの他に専門分野のメンタルトレーナーがチームに専属で付いていることがありますが、育成年代ではなかなかそのようにはできないと思います。

 育成年代の女性選手や女性チームの指導者は、それらへの意識を持ち、選手との関わり方が大事になってくると思います。

 例えば、選手からストレスのことや身体のことを指導者に相談するということは、なかなかあることでないと思います。指導者が選手のプレーの様子、プレー以外での様子、さらには表情などに目を向け、選手からのわずかな"信号"を観てあげることが必要なのではないでしょうか。

 私の女子サッカー育成指導の現場では、選手からの"信号"を観るために、選手1人1人それぞれ違った精神状態をみるようにしています。決して指導者の枠の中で選手をみるのではなく、選手それぞれの枠の中で指導者が観てあげないといけないと思っています。

 選手それぞれの普段の様子に目を向け、その変化をみるようにしています。そのいつもと違う様子によって選手への声かけや関わり方、さらには、練習の内容も変化させることもあります。そうすることで、選手のプレーをより引き出し、選手のプレーをより伸ばせ、さらには、成長期の女性の精神状態の安定から怪我の予防にも繫がり、選手が成長していけるのではと考えています。

 どのスポーツでも指導者は選手に合わせて指導をすると思います。決して、幼児の子達に成人のプロ選手と同じ練習はさせないでしょう。それと同じで、男女でも違うということだと思います。

柴村和樹(しばむら かずき)
1980年8月27日生まれ。広島県広島市出身。阪南大学を卒業後、スペインのラコルーニャへサッカー留学。その後広島県の廿日市FCで指導者の活動をスタート、幅広い年代の普及、育成、強化の指導を務める。様々な経験から独自の指導法を持ち、現在は女子チームのアンジュヴィオレ広島で普及・育成に所属。昨年、徹マガインディーズで『日本サッカーの進む道を決めるのは、「無償の代償」である』を掲載。弟はFKブハラ(ウズベキスタン)所属の柴村直弥。