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「JFAアカデミーの活動をもっと知っていただきたい」田嶋幸三(JFA副会長)×幸野健一

 COACH UNITED編集部です。アーセナルサッカースクール市川代表・幸野健一さんが毎回ゲストを迎えてお送りする対談シリーズ『幸野健一のフットボール研鑽(けんさん)』、今回のゲストは日本サッカー協会(JFA)副会長の田嶋幸三氏です。
 
 めったにメディアに出演しない田嶋副会長ですが、旧知の間柄である幸野さんたっての希望ということもあり、多忙なスケジュールの合間を縫って特別にCOACH UNITEDにご出演いただきました。それでは、早速ご覧ください。(取材・文 鈴木智之 写真 COACH UNITED編集部)

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幸野 ブラジルW杯が目前に迫っています。田嶋副会長には日本サッカーの現状や選手育成、JFAアカデミーの活動についてもお話し頂ければと思います。よろしくお願いします。

田嶋 こちらこそ、よろしくお願いします。

幸野 男子の日本代表はW杯に5回連続出場中です。2011年にはなでしこジャパンがW杯で優勝し、先日はU-17女子日本代表もW杯でチャンピオンになりました。日本代表チームにおいて、ポゼッションを重視していくスタイルが確立されてきたと思います。田嶋副会長としては、このサッカーを発展させていくことが、日本のスタイルになるとお考えでしょうか。

田嶋 93年のJリーグ開幕以降、自国開催も含めて5大会連続でW杯に出場できた。これは、日本サッカーに力がついてきた証明になると思います。いまはなでしこジャパンやアンダー世代の代表チームが、ポゼッションサッカーで結果を出していますが、我々は当初からパスサッカーをめざしてきたわけではないんですね。

1990年代の初めから、当時の強化委員会(現、技術委員会)の川淵三郎委員長、加藤久副委員長、小野剛さん、セルジオ越後さんを始めとするメンバーと、世界との差はなんなのかを考えてきました。ピッチの中の部分はもちろんですが、ピッチの外の部分、環境づくりも含めて、世界との差を縮めようと継続してやってきた結果、いまの日本のスタイルが確立されてきたと思っています。

FCバルセロナの真似をしたわけではないし、ドイツ代表のサッカーを意識したわけでもありません。ただ、いまの世界のサッカーのトレンドがそうで、図らずも日本人にそのスタイルが合っていたということでしょう。日本人の民族性、文化、サッカーの歴史、様々なものが相まっていまのスタイルが出来上がったと思います。その意味で言えば、日本のサッカーが確立されてきているということを実感として持っています。

幸野 そしていつか、日本のサッカーが世界のトレンドになるように。

田嶋 もちろん。それが私たちの仕事だと思っていますから。

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幸野 日本のスタイルを確立する上で、外すことができないのが選手育成です。JFAは9年前にJFAアカデミーを設立し、田嶋さんがスクールマスターとして、先頭に立ってやってきましたよね。私の息子(幸野志有人/FC東京)も1期生として、高校1年でプロ契約するまで、4年間お世話になりました。

田嶋 ありがとうございます。現場に出ていた時は楽しかったですね。いまでも懐かしく思い出します。

幸野 私自身、毎週のようにJFAアカデミーがある福島まで通っていましたし、息子の成長を通じて、アカデミーで行われている指導内容や選手育成の哲学に共感しています。すばらしい取り組みをしているのですが、それがあまり知られていない。私としては、そこに若干の歯がゆさというか、もったいなさを感じてしまうんです。

田嶋 幸野さんの仰るとおりで、JFAアカデミーの活動をもっとみなさんに知って頂きたい気持ちは強く持っています。各地で指導者講習会を実施して指導指針などの共有は図ってはいますが、情報発信の必要性は常に感じています。入学を希望される方に対する奨学金制度など、あまり知られていないことがあるのは事実だと思います。

幸野 JFAアカデミーができて9年。私も自分の子どもが1期生として参加し、およそ10年前から世界を目指してやってきました。現時点で、JFAアカデミーの成果についてはどのように考えていますか?

田嶋 男子に関していうと、J1、J2、J3で活躍している選手、大学に進んだ選手、U-20やU-17代表に入った選手もいます。創設当初はアカデミーを経て、海外で活躍する選手が出てくることをイメージしていましたが、まだそこには達していません。

JFAアカデミーで成功しているのは女子の方ですね。なでしこジャパンに何人か入っていますし、U-20、U-17代表にも常に4、5人ずつ入っています。すばらしい成果を出していると言えるのではないかと思います。JFAアカデミーにINF(フランスサッカー学院)の校長を務めたクロード・デュソーさんがアドバイザーとして来て、『パスの精度を高めていくんだ』と口を酸っぱくして言ってきました。それを踏襲した結果、女子は他国に先んじてパスサッカーを確立させました。2011年のW杯、そして今年U-17女子代表がW杯で優勝しましたが、彼女たちも日本サッカーの特長を出して戦ってくれたと思っています。

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幸野 9年前にデュソーさんが来日以降、JFAアカデミーではボールを止める・蹴るプレーの精度について、細かく指導していましたよね。これは私の意見ですが、日本の選手は止める・蹴るの技術が高いように見えて、『動きながらボールを止めて・蹴る』という観点から見ると、ヨーロッパのトップレベルとは差があるように感じます。

田嶋 動きながらパスをしっかり出す、動いている選手に合わせるといった部分は、どの世代においても必要な技術です。いまは、幸野さんが代表を務めているアーセナル市川を始め、バイエルン、バルセロナなどヨーロッパのビッグクラブのスクールが日本に入ってきていますよね。

彼らがどのような練習をしているかというと、ボールを止めて・蹴るといったパスの練習が中心なんですね。それは、ヨーロッパの成熟したサッカー文化の中で、「止めて・蹴る」がいかに大切かを知っているからなんです。直接、デュソーさんの指導を受けたアカデミーの選手の技術は高いですよ。いま、Jリーグで幸野志有人、金子翔太、松本昌也が活躍しているのは、デュソーさんの遺産もあると思います。アカデミーとしては、さらにそこから積み上げていくことが大切だと感じています。

幸野 デュソーさんがJFAアカデミーを離れたあと、スペインからサッカーサービス社のコーチを招聘しました。私が感じたのは、思春期に外国人監督のもとで異文化を学び、コミュニケーションをとることの重要性です。当然、指導者と選手のあいだで意見の違いや、ときにはぶつかり合いがある中で、たくさんのことを学んでいく。それはサッカー面以外の部分ですが、人間として成長していくためにとても大切なことだと感じました。

田嶋 そうですね。JFAアカデミーに入学したとき、選手たちは中学1年生です。成長過程において、異なる文化的背景を持った人と接するときに、どのような対応ができるか。素直に受け入れられる者もいれば、頭にきて言い合いをすることもあったと思います。それはある意味当然で、デュソーさんも日本人の考え方や文化をよくわかっていました。彼は日本の教育者とは少し違う感覚を持っていましたし、サッカーに対する情熱も含めて、すばらしい指導者でしたよね。

幸野 うちの息子も、しょっちゅうデュソーさんとやりあっていました(笑)

田嶋 幸野志有人にはすごく期待していましたよね。アカデミーにいたとき、『幸野は早く上を目指したほうがいい』と、外に出るように進めたのはデュソーさんです。彼は1期生だったので、年が一番上でした。選手としての成長を考えたときに、より上を目指すためにも、高校1年生が終わったときに、FC東京とプロ契約をすることになりました。私やデュソーさん、幸野さんも含めて、それが彼にとって一番良い選択だろうと。

幸野 田嶋さんたちには最善の道を提案してもらいましたし、本人にとっても良かったと思っています。

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