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必要なのは「そつのなさ」以上のインテリジェンス。最新戦術と欧州U19大会から推測する5年後のサッカー

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前回の記事ではDFB(ドイツサッカー協会)による主要国際大会テクニカルレポートをもとに、過去10年間におけるサッカーの変遷を簡単に振り返ってみました。今回は注目を集めている最新戦術と今シーズン初めて導入されたU19版欧州チャンピオンズリーグ、UEFAユースリーグを分析すことで、5年後のサッカーを推測してみようと思います。

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■最新戦術
ここ最近の欧州サッカーで最も注目を集めてきた戦術として、まずゲーゲンプレッシングが挙げられます。

ゲーゲンプレッシングとは、従来の、自分たちの陣形を整えた上で奪いに行くプレスとは異なり、ボールを失った瞬間にチームが連動して素早く奪い返しにいくプレスのこと。自分達でポゼッションをしている段階でチャンスを作り出す動きだけではなく、ボールを失ったときのことも想定したポジショニングを取り、攻守両面ですぐにスイッチを入れられる戦術です。バルセロナ時代のペップ・グアルディオラ監督、ドルトムントのユルゲン・クロップ監督はこのやり方で数々のタイトルを獲得しました。

このゲーゲンプレッシングが生まれた背景として、守備戦術がどんどん洗練され、どんなカテゴリーであっても簡単に点が取れなくなったという事実があります。以前であれば、例えばワールドカップ欧州予選でドイツ対リヒテンシュタインやルクセンブルクというカードだと8-0、10-0というスコアでも不思議ではなかったものですが、最近では2-0や1-0という接戦も不思議ではなくなってきました。

「優秀なFWが前線にいれば点は取れる」ということはなくなり、個人技任せのごり押しではチャンスを作り出すことが難しくなってきました。

そこでまずは自分たち主導でボールを動かし、ビルドアップから相手守備の薄いところにボールを運び、そこを起点に攻撃を仕掛けるというボールポゼッションを大事にするチームが増えてきました。それに対して、相手の攻撃起点を予測し、そこに網を張ってボールを奪い取り、複数の選手で素早いカウンターを完結させるコレクティブカウンターというやり方が登場します。

そのコレクティブカウンターに対して、さらに上をいったのがこのゲーゲンプレッシングになります。つまり相手がカウンターを仕掛けようとするところでさらに奪い返し、自分たちがカウンターを仕掛けるという発想になるわけです。

最近ではこうしたゲーゲンプレッシングの改良型として、グアルディオラ監督がバイエルンで見せているようなサイドバックがボランチの位置にポジショニングするやり方も見られています。攻撃時には外から外へのオーバーラップではなく、中から外、あるいは中から中へのオーバーラップで相手を混乱させ、またボールを失ったときにもサポートに行きやすいので相手のカウンターの起点をつぶすこともできます。

■UEFAユースリーグ
現在U19における世界最高峰の大会と位置付けられるUEFAユースリーグを取材して一番感じたのは、育成に正解というものはないということです。

「育成といえばスペイン」「育成といえばバルセロナ」という傾向が強いと思いますが、今大会ではシャルケ、ベンフィカ、チェルシー、パリサンジェルマン、あるいはオーストリア・ウィーンやCSKAモスクワといったクラブも素晴らしい試合を見せ、高く評価されていました。

特に準優勝を果たしたベンフィカは非常に質の高いサッカーをしていました。整備された守備から積極的なプレスで相手を追い込み、ボールを奪うとすぐにパスとドリブルを上手く織り交ぜながらリズム良くゴールを狙う。個人技に秀でた両サイドMFとトップ下に位置するエース、ロッシーニャを中心にした崩しはバリエーション豊富。

相手が守備を固めると、ビルドアップ能力にも長けたCBからボールをつなぎ、じっくりとパスを回す。相手選手がプレスを掛けに来たら素早く縦にボールを当ててリズムを変えるなどチームとしての駆け引きも見事なものがありました。

大会全体を通じて感じたのはCBによるビルドアップのレベルアップ。守れるだけのDFはトップレベルではほとんどいません。どの選手もしっかりとした体躯・1対1への強さに加え、足元の技術と視野、ビルドアップでのアイディアを持っていました。サイドバックもスピードとスタミナと守備力だけではなく、卓越した技術やドリブル力、攻撃への組み立てへの関与が求められるなど、各ポジションが担う役割はさらに増えてきました。

守備ではブロックを組んで組織的に守ることは常識になっていますが、局面における個人判断は非常に重要になってきています。簡単にミドルシュートを打たせると監督は烈火のごとく怒っていました。DFにはシュートを打たせず、それでいて次の守備に向けて動き出す修正能力が必要不可欠です。言われたことだけをやるだけでは選手は延びず、ある程度基本的な戦術を整理した後は、各個人による危機管理能力を高めることも今後は重要になりそうです。

■推測される5年後のサッカー
戦術の進歩にゴールはありません。サッカーの研究・分析は絶えず行われ、新しい対策が練られ続けていきます。これからのサッカーでは、一つの戦術で一試合を乗り切ることでは追いつかなくなるはずです。

いくつかの戦術を試合の中で、自分たち主導で判断し、自発的に切り替えていくことが求められるようになると思われます。また一つのポジションにおける役割を全うするだけでは対応しきれなくなり、例えばサイドバックで出場しても、試合の流れの中でボランチの位置でゲームメークをしながら、タイミング良く飛び出してセンタリングに持ち込むような幅広い動きが要求されるでしょう。

2002年ブラジル代表監督のマリオ・ザガロは「10年後のサッカーは4-6-0に向かって進んでいくだろう。そしてよりオールマイティな選手が求められるだろう」と話していましたが、実際に2012年欧州選手権ではスペイン代表が"0トップ"システムを採用していました。

今後は「そつのない」オールマイティ性ではなく、自分自身の特徴・長所をしっかりと持ちながらも、複数のポジションの役割を試合の流れの中で使い分けられるインテリジェンスを併せ持つことが重要になるのではないでしょうか。プレッシャーを受けてもブレない試合にいきる技術、考えるサッカーをあらゆる状況でできる判断力と決断力、そうした目まぐるしく変わる環境にも適応できる精神力が、今以上に育成年代から鍛えられることが必要になってくると思われます。

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中野吉之伴(なかの・きちのすけ)
秋田県出身。1977年7月27日生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督、翌年にはU16/U18総監督を務める。2013/14シーズンはドイツU19・3部リーグ所属FCアウゲンでヘッドコーチ、練習全般の指揮を執る。底辺層に至るまで充実したドイツサッカー環境を、どう日本の現場に還元すべきかをテーマにしている。


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