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選手の長所を認め、伸ばす視点が必要。末本亮太×小澤一郎イベントレポート

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 去る5月10日、新横浜において「スペイン研修報告会 " 行ってきました"で終わらないための海外研修を考える」というイベントが開催された。主催は、セミナーのクオリティに定評ある(株)アレナトーレ。登壇したのはNPO大豆戸フットボールクラブの末本亮太氏と、同社所属のサッカージャーナリスト・小澤一郎氏だ。

 本欄では、そのイベントの模様を一部報告させていただきます。イベントの目次は以下のとおり。

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 また、研修内容の特徴はこのようなもの。

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 文字数の関係上、イベント内容のすべてを紹介することはできないので、ポイントを絞って紹介させていただきたい。

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 末本氏は今年1月、11日間に渡り(株)アレナトーレのアテンドの元でスペインに滞在。現地では、ホテルなどではなく、選手たちと共にアパートを借り寝食をともにした共同生活を行なったという。そこでは、以下のようなことを感じたようだ。

末本「現地の中の人達と同じ目線に入ってこそわかることがあります。現地の社会人に混ざってサッカーをやることも、ホテルでなくアパートで暮らすことも、移動をすべて電車で移動することもその一環でした。例えば電車は時刻どおり来ないし、時刻どおり出発しないのが当たり前。だから、そこで『じゃあ早めに出て準備しておこう』という考えで動く。受け身では成り立たない、そういったことを含めて海外でサッカーをやることだと考えています。

 選手に対して『自主性を持て、ボトムアップだ』というのであれば、生活面においても指導者が実践できなれば話になりません。電車内ではバイオリン弾きが突然かき鳴らしはじめ、お金を要求してきたりということがありました。日本で生活することではないような、非日常が当然の中で、自分自身が順応性、主体性を持って行動した経験は大きかったと思います。
 
 現地の社会人と混じったサッカーでは、色々なことを感じました。まず、日本にあまりない7人制のコートが当たり前のように住宅地の真ん中にある。クラブハウスもあって、当たり前のようにクラブの全カテゴリにおけるリーグ戦全戦績が貼ってありました。年配の方も多かったのですが、みなさんサッカーが非常に上手かったですね。僕が一番若くて動けていたと思うのですが、『お前、動きすぎだ』、動きすぎてボールが出てこなかったり、日本での自分のプレースタイルでやったところ『まあ、良いプレーもするね』といった評価や名前をなかなか覚えてもらえないという結果になってしまいました(笑)
 
 草サッカーで対戦した相手は全員サッカーの仕事をしていません。その辺で働いているおっちゃんたちです。その彼らが、適切なタイミングでプレーし、適切なポジションをとり、文脈を正しく読み取ったプレーをし、自分に対しても的確な指示を出してくる」

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 また、ウラカン・バレンシアCFのU12を視察した際にはこのようなことを感じたという。

末本「向こうの練習は非常に効率がいい。誰も休んでいない。どのクラスにも適正な人数に適正な人数の指導者がいて、『こういうサッカーがしたいんだな』ということがキチンと伝わってきます。高校生クラスもその延長線上で、プレーモデルに基づいたトレーニングを行っており、小さなときからの積み重ねがあってトップまで行き着いているのかなと感じました。

 ウラカンCFの指導者は社会人で、日中は仕事をし、終わってから指導現場に立っていました。彼らは、仕事面でのスキルをうまく現場に結びつけて効率的な指導を行なっている印象を受けました。『僕がサッカーだけで食っている』というとすごく驚かれましたね。僕は、彼らは当たり前のようにサッカーで食べていると思っていました。サッカーだけでなく、さまざまな仕事を通してスキルをあげていく。日本に帰ってきて、色々な仕事を抱えながら自分自身が成長していくことも大事なのだなと改めて感じました」

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 小澤氏が補足する。
 
小澤「ウラカン・バレンシアCFはオーナー変更もあって創立は2011年、まだ3年しか活動していないクラブです。が、すでに下部組織が整備されています。リーガ1部のバレンシアCFから指導者を引き抜き、各年代に置いて充実させています。

 スペインで面白いのは、トップチームを持たない・持っていても社会人チームだけというクラブが多く、クラブの仕組み自体がボトムアップになっていることです。ユースまでの育成で完結させ、しっかりと競技力の高いチームを作り、バルセロナやバレンシアに選手を移籍させて移籍金、選手が大成したなら連帯貢献金、トレーニング・コンペンセーション(TC)で儲けているクラブが結構あります。
 
 ウラカン・バレンシアもトップチームはセグンダB(3部相当)でそこそこのセミプロクラブなのですが、カンテラのほうが充実している印象を受けます」
 
 そして、ウラカン・バレンシアCF・U12の練習を見学して驚いたこととして、子どもたちの体型を挙げる。

末本「子どもたちには、ぽっちゃりというか、俊敏に動けるようには見えない体格の子たちが結構いました。『正直、日本にいるときの基準としてはあまり上手じゃないのかな』という印象があったのですが、トレーニングが始まると当たり前のように良いポジションを取って、文脈を正しく読み取った、的確なプレーをしていました。

 選手のダメなところでなく良い所、長所、特徴をみること。サッカーは11ピースあってそれぞれの特徴があって、それらが相互作用しながら成り立っている。選手の良い所を指導者が気づいて見抜いてあげることも大事であり、それを子どもと一緒に磨いていく。彼は決して速くはないけど良いポジションを取る、相手が来たら預けてまた良いポジションを取る、そういうことを繰り返していました。みんな一緒の指導をするのではなく、選手一人一人の特長を見抜いて適切な指導をしていくことの重要性。現地でお会いした育成年代の指導者オスカルさんも同じことを言っていて、選手の良いところをみて、伝えて、共有して伸ばしていくやり方がわかっているなと。

 田邊草民選手が所属するスペイン2部でも、日本では考えられない体格のサッカー選手がいたのですが、彼もまた俊敏なドリブルをして、パッとボールを離して、また次のプレーに移る。いろんな体格、いろんな特長を持った選手がいました。全部を押し付けるのではなくて、選手の良いところを認めた上で伸ばしてあげる視点が必要だなと改めて感じました」 
 
 ただ見学・視察するのではなく、実際に中に飛び込んで生活する。その中でしか体感できない不便も経験しつつ、現地の人々と触れ合い、肌で現地のサッカーを感じる。こうした得難い環境を提供する(株)アレナトーレ、そしてその環境に触れた末本氏の今後の展開に大きな期待が高まる講習会となった。

取材協力:(株)アレナトーレ