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「選手イジりはリスクでしかない」――アンジュヴィオレ広島U-18の場合

 COACH UNITED編集部です。今回は、なでしこリーグを目指す女子サッカーチーム・アンジュヴィオレ広島のU-18を指導する柴村和樹監督のお話をお届けします。
 
 「イジる」という言葉があります。バカなことをやった人、見た目明るそうな人に対し、ちょっとバカにするような言葉を投げかけて、周囲の笑いを取る――だいたい、そういった行為を指す言葉だと思います。皆さんは誰かを「イジった」経験はありますか?

 では、イジられた側になった経験はあるでしょうか? その時、どんな気分だったでしょうか? 「イジられキャラ」として「おいしい」と思えた人は良かったと思います。ですが、そう思えなかった場合、何らかのネガティブな記憶として残っていないでしょうか? それが、大好きなサッカーの現場だったとしたら?
 
 柴村さんは、そうした「イジり」行為について「リスクでしかない」と考えています。その理由はどういったところにあるでしょうか? 柴村さんの独り語り形式でお送りします、さっそくご覧ください。(取材・文 澤山大輔[カラダジャーナリスト])

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■1対17ではなく、「1対1が17回」
 アンジュヴィオレ広島U-18監督の柴村和樹です。私は廿日市FCという クラブで幼児から中学生、社会人、女子を指導させて頂き、なおかつ社会人チームでプレーイングマネジャーをしていました。今回はその立場から男女の違いについて、また男女共通で考えていることをお伝えします。
 
 男子と女子の違いについて、私は、男子には男子、女子には女子の関わり方をしています。男子より女子はよりきめ細やかな対応をしています。それは、私が選手に対して、同性か異性かが違うからかもしれません。
 
 男子に対しては私が同性ということもあり、選手達のメンタル状態の仕組みがよくわかります。うまく関わっていけば、選手達がこちらに目線を向け、言うことがスンナリ、心に入ったりする部分がありますね。
 
 しかし女子の場合は、異性ということもあり、男子よりも繊細に関わっています。特に、1人1人との信頼関係が大事だと思っています。ですから、1人1人の関わり方、掛ける言葉にはとても気を使っています。練習前後にあえて話しかけたり、話しかけなかったり、関わり方にも気を配ります。
 
 意見交換の為にアンケートを書いてもらって、その内容のもとに面談をします。が、やり取りする回数が多いからといって選手の本音が聞けるとは限りません。意見を言い合える、選手との関係性が何より大事だと考えています。選手のプレーを観ていれば「ああ、これは言ったことを消化してくれているな」「まだ伝わっていないな」ということはわかります。
 
 プレー面では、多くを褒めるようにしています。「こういうことができているよ」「こういう部分が出来るようになってきているよ」と、もちろん過剰な評価ではなく、本当に良い部分を認めてあげて、その上で足りないものがあれば、助言をすることもあります。17人のチームとすると、1対17ではなくて1対1が17回あるような感覚ですね。みんなの前で話をしていても、その感覚は持ち続けています。

■重要なのは「入り込まない立ち位置」
 その上でこれは男女一緒なのですけど、選手をけなさない、イジらないということ、つまりはリスペクトすることが重要だと思っています。
 
 集団では、何か面白いことをやったりふざけたりして場を盛り上げる子がいますよね? そういう子に対して、監督の自分が選手と一緒になってバカにしたり、ふざけたりということはしません。選手全員に対してリスペクトを示すべきだと考えているからです。どんな性格の選手でも、どんな年代でも、プロでもアマチュアでも、男女でも、同じ1人のサッカー選手としてのリスペクトは大事だと思っています。
 
 表面的に賑やかな、騒がしい子がいて、「イジりやすい」ように見えたとします。ですが、その子が内面に何を抱えているかはわかりません。それは意見交換したり、コミュニケーションを取ったりして、慎重に探っていっています。周囲からそう見えても、実際は違うということはあり得ると思います。どういう選手ならイジっていいか、悪いかということは表面からは判断するべきではありません。
 
 花畑があるとすると、色んな種類の花があるとしても、真ん中に入ってしまうと周りにどういう花があるのか把握するのは大変です。いろんな方向を観ようとしなければいけません。ですが、ちょっと離れた位置から花畑を観れば全部の花の種類や様子が観えると思っています。指導者の立ち位置で選手の見方も変わるのです。
 
 そういう「入り込まない立ち位置」というのは、指導においてとても重要ではないかと思っています。

 指導者は、選手をどのように導けたかが何より、重要だと思っています。指導者の多くは「こんな選手にしたい」という想いがあると思います。指導していく中で、1年先、何ヶ月先に、その思い描いた選手になっている、もしくは、その理想に近づけている、かどうかが大事だと思います。

 今私が取り組んでいることが良かったのか良くなかったのかは、1年先、何ヶ月先に、私の想う変化の先に進んでいるかどうかで、この手法を評価するべきだと思っています。

柴村和樹(しばむら かずき)
1980年8月27日生まれ。広島県広島市出身。阪南大学を卒業後、スペインのラコルーニャへサッカー留学。その後広島県の廿日市FCで指導者の活動をスタート、幅広い年代の普及、育成、強化の指導を務める。様々な経験から独自の指導法を持ち、現在は女子チームのアンジュヴィオレ広島で普及・育成に所属。弟はFKブハラ(ウズベキスタン)所属の柴村直弥。