TOP > コラム > イギリスでは小学生から求められる"球際の激しさ"の重要性

イギリスでは小学生から求められる"球際の激しさ"の重要性

※サカイク転載記事(2014年7月9日掲載記事)※

イングランドサッカーといえば何を想像しますか? 私は、フィジカルを活かした、激しいぶつかり合いを展開するサッカーが脳裏をよぎります。そんなイングランドサッカーには、我々日本人が学ぶべき興味深いポイントが、とても多くあります。そして特に私が興味深いと思っているのが、イングランドの「球際に関する文化」です。(取材・文/内藤秀明)

7502922204_8e6c9f7c4d_o_600.jpgPhoto by Tom Markham

■球際が弱いとボールを奪えない

よく「球際に強い」だとか、「球際に弱い」という言われ方をしますが、この球際における強さとはなんなのか? そして、何故それが必要なのかを説明したいと思います。

たとえば守備の場面で相手がミスをして、私が相手選手のボールを奪うチャンスを迎えたとします。ボールを奪う時にはいくつかの方法がありますが、よくあるのが足を伸ばしてボールに触ろうとします。この時、先に触れる。もし同時に触った場合、力負けせずに自分のボールにできる選手は、球際に強いと一般的に呼ばれます。

球際に強い選手が多いチームは、奪いたい時にボールを奪えるので、戦術をしっかりとチームに定着させることができれば、まず間違いなく失点は減るでしょう。しかし、もし球際に弱い選手ばかりのチームでは、戦術が機能し「よしここだ!」というタイミングで皆がボールを奪いにいっても、奪い切ることができません。むしろ、そのタイミングでボールに何人も集まっているのにボールを奪えなかった場合は、守備のバランスが崩れてしまい、ピンチに陥ることすらあります。

少し分かりやすい例を出すなら、ワールドカップの日本対コートジボワール戦を思い出してもらえるでしょうか。

この試合で、日本代表の多くの選手は、守備のために走り回り、奮闘していました。にもかかわらず、試合はコートジボワールに支配され、日本は逆転での敗戦を喫しました。

これは、コートジボワールの選手達が球際に強く、日本の選手から簡単にボールを奪ってしまったから。日本の選手がコートジボワールの選手からボールを奪えなかったことが敗因の一つでしょう。

つまり、球際の強さというのは、戦術よりもより基本的なことで、なおかつ、より重要な能力なのです。しかし、残念ながら日本の選手は世界に比べると「球際に強い選手が少ない」と言われています。そこで、イングランドの「球際に関する文化」がとても参考になるのではないでしょうか。

■球際の激しさはトレーニングで培うもの

多くのイングランド人は球際に対して、並々ならぬ文化、ポリシーを持っています。具体的には、相手より先に触るために、相手選手との距離感に気を使う他、相手に先に触られてもボールを奪い返すためにタックルを仕掛けようという文化です。例えば、イングランドのチェルシー・レディースに所属する大儀見優季は、イングランドの球際についてこう述べています。

「寄せ方(距離感)が上手いです。すごく嫌なタイミングで(自分に)寄ってくる。タックルの文化も感じます。他のチームとやった時、やっぱり相手選手は危険を察知すると構わずにタックルにくる。(以前プレーしていた)ドイツよりも、その文化を感じますね」

また、現在イングランドのクイーンズ パーク レンジャーズのアカデミーの責任者であるリチャード・アレン氏も、小学生年代の子どもたちに球際を厳しくプレーするように指導していました。
(リチャード・アレン氏は、NPO法人ハートリンクプロジェクトの主催のイベント、ワールドサッカークリニックサマーキャンプ2013のために来日)

たとえば、相手選手とゴールに背を向けた状態でこぼれ球を拾いにいくシーンを想定したトレーニングでは

1.まず、ボールに先に触ること
2.ボールに触るタイミングが同時なら、身体のぶつかり合いで負けないようにすること
3.もし先に触られたらすぐに守りの体制に入る。そして近づきすぎない。距離間に気をつける
4.半身の体勢で一つの方向にプレーを限定する
5.足を出してつつくタイミングを考える
6.抜かれそうになったらスライディングタックルを仕掛ける

と、球際の攻防に関してきっちりと小学生にコーチングしていました。これらのコーチングをしっかりと行えば、小学生でも、相手との距離感や、体のぶつけ方、ぶつけてボールを奪う方法、タックルの仕方、タックルのタイミングなどを覚えることができるでしょう。日本で、ここまで球際に関してしっかりと指導する指導者は、少ないのではないでしょうか?

前述のように、球際の激しさが足りないと言われている日本ですが、大儀見選手は、「意識すれば絶対に改善できる部分」とも語ります。やるかやられるかの球際の攻防を育成年代から意識させることは、日本が世界と戦うために取り掛かるべき課題です。