10.14.2014
AFC U 19-選手権・ポイント分析 「前を向かせない守備」(ベトナム戦)
初戦中国戦を落とし、早くも後がなくなったU-19日本代表。勝ちが必要なベトナム戦で、カギを握ったのは「前を向かせない守備」だったが...。(取材・文・写真/安藤隆人)
この試合のポイントは、同じポゼッションサッカーを展開してくるベトナムに対して、どのような守備で対応するかだった。
ベトナムは第1戦韓国戦を[4-4-2]で戦ったが、日本戦では[4-1-4-1]で臨んできた。ベトナムはキープ力、シュートの正確性、そしてパスセンスを併せ持つ1トップの10番(NGUYEN CONG PHUONG)がエース。同選手を起点にしながら、2列目以降が積極的な飛び出しを見せ、日本を崩してくることが予想された。
これに対して日本がすべきことは、ボランチとCBにボールが入った際に相手に前を向かせないこと。そしてボールを奪取、または跳ね返した際のセカンドボールを先に拾って、相手の中盤4枚の背後のスペースを突いて、攻撃を組み立てられるかにあった。
ただ、結果から言えば課題が多く残った試合となった。初戦の中国戦でもCB2枚がそのポジションを深い位置にとったため、ボランチの間に大きなスペースが空いてしまった。そこを中国に狙われ、カウンターへの対応ミスから2失点目につながるFKを与えてしまった。ベトナム戦でも日本のCB2枚(中谷進之介、三浦弦太)がポジションを下げてしまったことで中国戦同様にスペースができてしまい、その空間を埋めるためにボランチの運動量が必然と増えることとなった。
この試合のボランチは川辺駿と井手口陽介。川辺は初戦に続き先発だったが、第1戦同様にその動きは明らかに悪く、井手口の運動量に助けられている状況だった。前半立ち上がりは井手口が積極的にボールを前に運び、攻から守へと切り替わった瞬間には素早い動きで自陣に戻る献身的な働きを見せた。これによりベトナムの攻撃力を軽減させることに成功したが、一人で攻守を支えるにも限度がある。19分に決定的なピンチを迎えることに。
ボランチとCBの間に広大なスペースが出来た瞬間を、ベトナムは見逃さなかった。スペースに走り込んだ10番にパスが通ると、前を向いたこの選手に対し、CB三浦が一発で取りにいってしまった。10番の巧みなボールコントロールで三浦がかわされると、左サイドでフリーの選手にスルーパスを送られエリア内へと切り込まれた。完全に崩されてしまったが、最後のシュートが大きく枠を外れたことで失点は免れた。21分にも川辺が中央でボールを奪われると、またもや10番に前を向かれてしまった。今度はCB中谷が一発でいったところを簡単にかわされ、自陣深くまでの進入を許す結果となった。
「こまめにラインの上げ下げができればいいのですが、怖い部分があるのは事実ですね。俺と(三浦)弦太君が合っていても、弦太君と坂井が合っていなかったり、俺と広瀬が合っていなかったりする場面が多いので、そこが難しいです」
試合後に中谷が振り返ったように、最終ラインが深いのは4バックの連係が悪く、初戦を落としていることで失点への恐れが選手たちの心の中にあったから。この状況ではやはりボランチの出来がカギを握ってくる。川辺の動きが悪かっただけに、井手口の活躍、特に後半の働きが大きかったと言える。
「僕らがセカンドボールを拾わないと厳しいので、動き回ることで相手にチャンスを与えないことを意識した」(井手口)と、集中を切らすことなく顔を出し続けた。
攻撃でも2列目の選手が前を向きさえすれば好機をつくり出せる。59分の先制点は、その好例だった。形をつくったのは、やはり井手口。同選手がセンターライン付近で相手からボールを奪取すると、前線に走り出したFW南野拓実に素早くパス。南野の手前でDFにカットされるが、こぼれ球を拾ったMF奥川雅也がドリブル突破を仕掛けてシュートを突き刺した。「奪ってから相手の陣形が整う前に、前線に当てる」。井手口が生み出した一連のこの流れが、先制ゴールを生み出した。このゴールで勢いづいた日本は、一時は同点に追いつかれたものの終盤に中谷と井手口がゴールを挙げ、3-1で勝利した。
カウンターからの失点。中国戦の二の舞だけは避けたがったが、守備陣の連係の悪さが見られた前半は特にそのリスクをはらんでいた。このベトナム戦では井手口の献身的な働きもあってそれを回避することができたが、日本のレベルアップを考えると一人の選手に頼り続けることはできない。CB中谷もその点を痛感しており、「今日の試合でも相手に前を向かれてしまう場面があった。ボランチが疲れないように僕らがラインを上げる必要がある。(修正するために)前の選手と話し合っていかないと」と述べた。
「相手に前を向かせない守備」。この守備を、どのようなチームに対しても実践できるようになれば、U-19日本代表はさらなるレベルへと進むことができる。
取材・文 安藤隆人 写真 安藤隆人