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バルセロナに見るスペインの育成システムと、2つの特色

スポーツ研究国際センター(CIES)の調査によると、バルセロナを筆頭とするスペインのクラブは、欧州5大リーグでプレーする選手をより多く輩出しているという結果が出た。一流選手を輩出するだけでも評価すべきと言えるのかもしれないが、スペインサッカーに精通する小澤一郎氏は違うポイントを指摘。選手の"ピッチ外"を考えた育成を評価すべきと説く。(文/小澤一郎 写真/Mutsu Kawamori

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■文武両道を実践するバルサのカンテラ(下部組織)

 「普通にいけばあなたは、あなたのお子さんはトップチームまで辿り着けません」

 FCバルセロナのカンテラ(下部組織)寮であるラ・マシアのディレクターを務めるカルレス・フォルゲラ氏は入寮初日の選手とその家族との面談で必ずこの言葉を伝えるのだという。
 
 毎年1万人近い選手の中から50名ほどのタレントがバルサの下部組織へと入団することになるが、ラ・マシアから晴れてトップチームデビューを飾ることのできる選手の割合は10%、世界中のクラック(スター選手)が集まるトップチームに定着できる選手となる確率は5%以下と言われている。だからこそ、寮の責任者であるフォルゲラ氏は取材時(2011年)にトップチームでデビュー、定着した選手の数や名前を挙げることではなく、「現在(当時)、バルサBに所属する選手の半数にあたる13名が大学に通っている」点を誇らしげに語っていた。
 
 卒業こそできなかったがMFイニエスタも一時期大学生とプロサッカー選手を掛け持ちしており、現在のトップチームの若手で言うとMFセルジ・ロベルト、DFマルク・バルトラはBチーム所属時代に大学生として経営学を学んでいる。スペインでもバルサほどのクラブに所属する選手がプロ契約、トップデビュー後も文武両道を実践したことに対する賞賛はかなり出ているが、バルサの考え方は至ってシンプルだ。
 
 冒頭の言葉にある通り、どれだけ狭き門をくぐり抜けたタレントであっても90%の確率でバルサのトップまでは到達できず、また運良く10%の中に入りトップチームの選手として現役時代にどれほど大金を稼いだとしても30代で訪れることになる引退後の社会人生活は100%の確率でやってくる。そのために学生、育成年代のうちに教養を身に付け、興味ある分野の専門性を高め、引退後のセカンドキャリアに備えておく。それは「偉い」、「凄い」といった賞賛を受ける類の話ではなく、ごく"当たり前のこと"なのである。

 別の下部組織関係者はこんな説明をしてくれた。「サッカーで成功するためには才能以上に継続的、日常的な努力が必要で、向上心がピッチ内のみにあればいいというわけではありません。おそらくこの価値観はバルサだけにある特別なものではなく、普遍性のあることだと思います。どんな会社であれ、組織であれ、成長するためには個々人が向上心を持って努力していかなければいけません。ピッチ外でしっかりと学業に打ち込み、知的レベルを上げていくことはサッカーの向上にもつながると考えています」

 テクニカルな面で言うとバルサは、下部組織に所属する全選手の学費を全て負担しているが、大学に限っては取得単位に応じて学費を返還するシステムを導入している。10月末にスポーツ研究国際センター(CIES)が欧州5大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス)でプレーする選手の出身クラブを調査し、バルセロナが最多となる43を育成したという結果が発表されたが、スペインの育成は総体的にピッチ内外で選手に当たり前のことを高いレベルで要求し、それが実践できるような仕組みが整備されている。

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■発掘・育成は個人ではなくクラブが担う

 スペインの育成の仕組みにある別の特色として、トップ昇格する19歳という年齢から逆算してユース年代を「育成」ではなく「強化」と認識し、バルサやR・マドリードのようにユースチームを強化部のプロセクションの管轄に組み込んでいる点だ。裏を返せば、19歳でトップ「昇格」ではなく「定着」できるための仕上げの育成を、ユース年代から行なっている。

 そのために育成に定評あるスペインのクラブは飛び級、期限付き移籍の制度を活用している。例えば、今季のビルバオからは95年生まれ、19歳のMFウナイ・ロペスがトップ昇格を果たしたが12月1日の時点ですでにリーグ7試合、チャンピオンズリーグ2試合に出場しており、貴重な新戦力としてビルバオサポーターから大きな期待を集めている。そのウナイ・ロペスはユース1年目から飛び級でバスコニアというビルバオ傘下の提携クラブに期限付き移籍をして同年代のユースリーグではなく、大人の4部リーグを戦い、2年目にはスペイン3部となるBチームへと飛び級している。

 スペインのクラブは総じて16歳の段階で選手がトップチームに到達できるかどうかの判断を下し、可能性の高い選手をユースの3年間で磨き上げていく。そして最も重要なことは育成に定評のあるクラブはどこもこうした仕組みを継続的かつ安定的に作っているという点にある。そのため、育成のスカウトや指導者から「俺があの選手を見つけた、育てた」といった自慢話は出てこない。選手の発掘・育成は個人ではなくクラブが担う。だから、人は替われどクラブにある育成の仕組み、ノウハウは積み上げられていく。

 バルサの下部組織のコーディネーターは言う。「世界中から『バルサの育成の成功の秘訣』を質問されますが、クラブとしての継続性、安定性、それに尽きます。例えば、広い世界の中で同じ考えの下、同じサッカーを10年以上続けているクラブの名前を挙げて下さい。そういうクラブがほとんどないのが現状ではないでしょうか? 目に見える結果やトレンドで考えやサッカーを変えているクラブとバルセロナでこの30年近く続いているサッカー、スタイルを比較してもらえれば、成功するためのヒントは自ずと見えるはずです」