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ライフキネティックは脳を動かす、サッカー上達法 後編

6月のブラジルW杯で優勝したドイツ代表も取り入れているメソッド"ライフキネティック"。簡単だけれども異なる動作をすることで脳のパフォーマンスを向上させるトレーニング法です。ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)を持つ中野吉之伴氏が、その実践法を分かりやすく解説します。(文/中野吉之伴 photo by Shibutani JHS_0344

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<<前編

■脳に刺激を与えることが最大の目的

前回ではライフキネティック理論とはどういうものか、そのコンセプトと概念を詳しく説明させていただきました。今回は実践編ということで実際にいくつかの具体的なトレーニング内容を紹介したいと思います。

ライフキネティックトレーニングの基本的な形は、「2つ以上の動きを組み合わること」「コーチが声や動きで示す合図に合わせた動きをすること」「動きながら、同時に計算をしたり、言葉を発したりすること」が挙げられます。

注意点は「最初は誰でもできる、それこそ『ボールを上にあげてキャッチする』くらい簡単なものからスタートする」というものです。前編でもお話させていただきましたが、ライフキネティックで大切なのは、「複雑な動作をマスターすること」に主眼を置くのではなく、「それぞれは簡単と思われる動作を非日常的な組み合わせや連続で行うことで脳に刺激を与え、脳自体の能力を引き出す」ことにあります。そうすることで課題と向き合う集中力が高まり、物事への理解が深まり、正確な判断や決断を素早く下せるようになります。

今回は最もシンプルなトレーニングを3つほどご紹介いたします。

『ラインダンス』
※注:トレーニング名は正式なものではなく、便宜上筆者が付けたもの。

オーガナイズ:なんでもいいのでその上を歩ける真っ直ぐなラインを引きます(例:ラインカー、ひも、平均台など)。列を作って待ち時間が多くなるのを避けるために、適切な数を準備します。

1.線の上をまっすぐに歩く。
2.右手右足、左手左足、右手左足、左手右足の順番で線の上をまっすぐに歩く。
(右手を上げながら右足で一歩、左手を上げながら左足で一歩・・・)
3.右ひざ右ひじ、左ひざ右ひじ、右ひざ左ひじ、左ひざ左ひじの順番で線の上をまっすぐに歩く。
(右ひざに右ひじをつける、左ひざに右ひじをつける・・・)
4.コーチの合図で歩く途中に2と3の課題を交代させながら、線の上をまっすぐに歩く。
(例、『A』といったら2の課題、『B』といったら3の課題のように)
5.4の課題をこなしながら一歩ごとにアルファベットを順番に口にする。
6.4の課題をこなしながら、口にする課題をアルファベットと数字で交代させる。
(2の課題ではアルファベット、3の課題では数字)


『対面キャッチボール』

オーガナイズ:二人一組で向かい合って立ちます。

1.ボールを1つ使用。普通にインサイドキックでパスをします。
2.パスを出す人がパスをしながら「右」か「左」と呼びます。パスを受ける人は「右」の場合は、右足を下げるステップをしながら左足でトラップ、「左」の場合は左足を後ろに下げるステップをしながら右足でトラップ。
3.カラーボールを足します。一人がボールを足に、もう一人がカラーボールを手に持ち、タイミングを合わせて同時にパスを出します。合図を出すのはカラーボールを持っている人。「右」か「左」と合図を出しながら、投げます。ボールを足に持っている方はパスを出し、合図と逆の手でキャッチします。つまり「右」の場合は「左手」で、「左」の場合は「右手」で。カラーボールを持っていた方は、2の課題でトラップ。
4.「右」「左」の合図に加え、好きな数字を言うというバリエーションを加えます。「奇数」の場合は「右」の場合のアクション、「偶数」の場合は「左」のときのアクションを行います。簡単な足し算、引き算にしても面白いです。
5.4にさらに合図を増やします。「野菜」か「果物」の名前を言い、「野菜」の場合は「右」のアクション、「果物」の場合は「左」のアクション。


『サークルボール回し』

オーガナイズ:6~10人が輪になって内側を向くように立つ。(人が多いと難易度が増す)

1.最初はボールを1つ使用。パスを出す選手の名前を言いながらインサイドキックでパスを回す。
2.「名前」で呼ばれたらワントラップしてからパス。「苗字」で呼ばれたらダイレクト。
3.隣の選手に出すのはダメにする。
4.ボールを2つに増やす。課題は2と一緒。
5.ボールごとに課題を設定(色分けすると分かりやすい)。白のボールのときは右足で、黄色のときは左足でトラップ及びパス。課題は2と一緒。
6.ボールを3つに増やす。2つは足で、1つは手で扱う。5での課題に加え、手で回されるボールは「名前」で呼ばれたら胸トラップしてからキャッチ、「苗字で呼ばれたらヘディングでトラップしてからキャッチ。


いかがでしょうか。お気づきかと思いますが、どの練習のどの動きも、一つ一つを取り出すとなんてことのないものです。でもそれを組み合わせたり、考えてから判断してという要素を加えると、とたんに難易度が上がります。おそらくどの練習も3の課題までは多少ギクシャクすることはあっても比較的すんなりとできるようなると思います。しかし4あたりからどうすればいいか分からなくなって立ち止まることも多くなるかもしれません。前回お話したとおり「ミスをした方がいい練習」ではありますが、ミスばかりだと面白くないし、ミスを見逃されてばかりだとだれます。やるべきことがグチャグチャだと子どものやる気もなくなってしまいます。そこで一度ストップして課題を整理させてから再挑戦。逆に少しスムーズになったら、「ミス3回で簡単な罰ゲーム」とちょっとしたプレッシャーを加えるのもいいかもしれません。目安としては3分間ミスなくできるようになったら次のレベルにチャレンジ。

もちろん子どもたちの年齢、レベル、やる気に応じて難易度を調整することも求められます。バリエーションはいくらでも加えたり減らしたりすることが出来ます。今回ご紹介した練習でもの足りないのであれば、最初の選択肢を4つにすることも可能です。例えば「対面キャッチボール」のときに、「右」「左」に加えて、「上」「下」の合図をつくります。「上」のときは右足を前に踏み出すステップをしながら左足のひざでトラップ、「下」のときは左足を前に踏み出すステップをしながら右足のひざでトラップ。そうなるとその後の選択肢も自ずと増えるので難易度は確実に上がります。

基本的な形とコンセプトを守れば、自分たちで練習をつくることもできると思います。個人的には子どもたちに順番で練習メニューを考えさせるというのがオススメです。こういうときの子どもの発想力というのは間違いなく素晴らしい。あとコーチ自身も是非、実際にやってみてください。「コーチがやっても難しいんだよ」というのを見せると子どもにとってもモチベーションアップにつながると思いますし、子どもたちがひねり出した練習で指導者が悪戦苦闘するというのもたまにはいいのではないのでしょうか。


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中野吉之伴
秋田県出身。1977年7月27日生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督、翌年にはU16/U18総監督を務める。2013/14シーズンはドイツU19・3部リーグ所属FCアウゲンでヘッドコーチ、練習全般の指揮を執る。底辺層に至るまで充実したドイツサッカー環境を、どう日本の現場に還元すべきかをテーマにしている。