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サッカーのピリオダイゼーション③

ケガのリスクを回避し、100パーセントの状態で試合に臨む。『サッカーのピリオダイゼーション』と『サッカーのコンディショニングトレーニング』はそれを実現させる理論です。今回ご紹介するのは、この『サッカーのピリオダイゼーション』をもとにした『インディビジュアルピリオダイゼーション』と『リハビリテーションピリオダイゼーション』。選手を個の単位で調整することの重要性、ケガ人のリハビリプランニングの重要性を、1月のセミナーに先駆けて解説いたします。(文/相良浩平 写真/Eric

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■インディビジュアルピリオダイゼーション

選手がケガをする原因、あるいは選手のパフォーマンスがシーズン中に落ちる原因の一つに、「チームの全選手が同じ負荷のトレーニングをすること」が挙げられます。サッカーを原点に考えると、これも当然のことだと考えられるはずです。サッカーでは基本的にどの選手も11対11のゲームを1試合通して続けられるだけのコンディションが必要となります。これはすべての選手に共通して言えることでしょう。しかし、試合中に掛かる負荷は当然のことですが、選手それぞれで異なってきます。スプリントの回数は中盤の選手とフォワードの選手とでは異なりますし、スプリントの距離もサイドバックとセンターバックの選手とでは大きく違います。つまり、この11対11のゲームがコンディショニングトレーニングの原点だと考えると、コンディショニングトレーニングの中で、選手全員が同じ距離を同じ強度で走るようなトレーニングをしても、その効果にはばらつきが出てきます。例えば、チームの半分の選手にとっては適切な負荷であったとしても、フィットネスレベルの高いグループの選手にとっては負荷が低過ぎてコンディションを高めることが出来ません。逆にフィットネスレベルが低いグループにとっては、この負荷は高過ぎ、疲労によるケガ、あるいはパフォーマンス低下の原因となってしまいます。

さらに、身体の負荷許容量も人それぞれです。例えば、ユースからトップチームに上がってきた選手、あるいは中学校から高校に上がってきたばかりの選手は、既存の選手よりも負荷への耐性が低い場合がほとんど。彼らは、それまでのものよりも強度が増したサッカーに直面することになるのです。競り合いではより力強さが求められ、スプリントでも速さや頻度が要求されてきます。あらゆる面でレベルが上がるとともに、トレーニング時間も長くなり、当然のことですが蓄積される疲労も多くなっていきます。昇格、進学したばかりの選手に多くのケガ、あるいはパフォーマンス低下がみられる原因の一つが、このようにサッカーの強度が上がった中でトレーニング量を増やしていることだと考えられています。レベルアップにともなう強度の変化は避けては通れず、その都度レベルに順応していく必要が出てきます。そして、その順応はトレーニングの「量」を調整することで可能となるのです。

この他にも、これまでのケガの既往歴、グランドの質の変化(土から芝へ、あるいは天然芝から人工芝など)、サッカーのレベルの変化、プレースタイルの変化など、負荷を調整する必要があると考えられる要素は様々です。選手にとって(よって)負荷を調整する『インディビジュアルピリオダイゼーション』は、少しハードルの高い作業のように思えるかもしれませんが、チームのピリオダイゼーションを作成し、各トレーニングの負荷を把握していれば、これを個別に調整することは難しいことではありません。この『インディビジュアルピリオダイゼーション』は、実際にアマチュアレベルのチームでも取り入れられているメソッドなのです。まずはチームピリオダイゼーションを作成。次に選手へ負荷を与える要素を考え、必要に応じてチームの負荷よりも高い、または低いトレーニングを課す。練習量を増やしたり減らしたりすることで、インディビジュアルピリオダイゼーションを作成していきます。

■リハビリテーションピリオダイゼーション

サッカーは試合中に激しいコンタクトがあるスポーツなので、注意を払っていてもケガをする選手が出てきます。従来、選手はケガをすると、その時点でサッカーからまったく切り離された状態でリハビリをしなければなりませんでした。しかし、こうしたリハビリも11対11の試合を原点に逆算して考えることで、より本番の試合に特化したトレーニングを行うことができます。また、チームピリオダイゼーションをもとに復帰の目標設定をすることで、チームの負荷に合わせてコンディションを上げていくことが出来ます。チームピリオダイゼーションをもとに、ケガをした選手がどのようなステップを踏んで、試合復帰までに回復させるか。このリハビリのプランニングを『リハビリテーションピリオダイゼーション』と言います。

以前は、ケガをした選手が練習に復帰する際、すべてのトレーニングメニューをこなせることが復帰の目安とされる傾向にありました。部分的なトレーニングに参加することは他の選手の混乱を招くとともに、指導者にとっても完治していない選手がいると練習メニューを組みづらいという理由もあったと思います。しかし、プレー中に掛かる負荷は、相手、味方、ルール、ピッチのサイズなどに大きく左右されるため、個人でリハビリを行っていた状態から突然全体練習に参加させるということは、その選手にとってあまりにも負荷の変化が大き過ぎます。これがケガを繰り返す原因となるのです。選手を段階的に全体練習に参加させることで、出来る限り再受傷のリスクを減らすことが必要です。また、チームトレーニングに参加するまでには、試合から逆算して組まれたリハビリメニューをこなすことも重要なポイントとなります。このため『リハビリテーションピリオダイゼーション』では、まずサッカーの特性を理解し、11対11を個人のトレーニングにまで単純化することで、リハビリから無理なく全体練習へ参加させることを目指します。そして部分的に全体練習に参加するところから、どのようにしてチームのコンディションレベルにまで到達させるか、段階的なプランニングの方法を示しています。

リハビリで重要なことは「早く復帰する」ことではなく、「復帰後に高いパフォーマンスでより多くの試合に出場する」ことなのです。ケガをした選手はプレー出来ない焦りから、復帰を急ぎ過ぎる傾向にあります。しかし、リハビリプランはより長期的視野から、選手のその先のキャリアを考えて立てられるべきなのです。例え早く復帰して目先の試合に貢献できたとしても、その選手が長期的に高いパフォーマンスを発揮し続けることが出来なければ、選手にとってもチームにとっても良いリハビリプランだったとは言えないでしょう。リハビリテーションピリオダイゼーションも、チームピリオダイゼーションと同じく、復帰後に、すべてのトレーニングと試合で常に100%の能力を発揮できることを目指しているのです。


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また、ワールドフットボールアカデミーでは12月18日(木)に第2回目のWebinar(ウェブセミナー)を開催。今回のテーマは、1月、2月のプレシーズンを間近に控える日本サッカー界にもタイムリーな「プレシーズンでのピリオダイゼーション ~ 怪我なく最高にフィットしたチームを作り上げるために ~」。新シーズンに向けての準備期間において、いかに怪我人を出さず最高にフィットしたチームを作り上げるのかを、同理論の考案者であるレイモンド・フェルハイエン氏自らが講師となり講演。本記事を執筆された相良氏が通訳を務めます。

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