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ドイツサッカー、真冬の練習事情に迫る

冬は日照時間が短くなり、地域によっては積雪の影響で野外での練習が困難な状況となり、指導者の方にとっても悩みの一つとなっています。W杯で優勝したドイツも冬は日本以上に厳しいものとなっていますが、それを克服しサッカー大国としての地位を築いてきました。ここでは、ドイツの気になる冬の練習事情をレポートします。(文/中野吉之伴 photo by Ayuntamiento Huetor Vega)  

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■普段できないことに時間を費やす

ドイツのリーグ戦は通常9月から12月上旬までを前期、3月から6月上旬までを後期としてスケジュールが組まれています。しかし例年11月下旬から3月中旬までは天候がとても不安定なことが多く、グランドコンディションの問題で試合が延期になりがちです。最近では人工芝のグランドを持つクラブも増えてきましたが、雪でグランドが埋もれるということもありますし、降らなくても氷点下にはなるので地面や芝の部分が凍って使えない、あるいは練習内容が制限されるということも普通にあります。降雪量の多い山間部ではそのため、冬の間は一切の活動を休止するところも少なくなく、夏はサッカー、冬はウィンタースポーツという住み分けがされていることも。ちなみにドイツ代表MFバスティアン・シュバインシュタイガーも幼少期はこうした地域で暮らしていたため、冬はスキーをしていたそうです。彼の持つ抜群のバランス感覚はスキーのスラロームを通じて身についたと言われています。

さて、こうした事情もあり、ドイツの現場では冬の間は普段できないことに時間を使おうと頭を切り替えるようにしています。特に重要視するのは休息。常に高いテンションで取り組み続けることだけをよしとするのではなく、こうした中断期には(冬休みだけではなく、夏休みも)しっかりと休んだり、家族や友人との時間を多く取ることも大切です。どの年代にもかかわらず選手がオン・オフを切り替え、それぞれに楽しみと価値を見出すことは、人としての深みをもたらし、成長につながることだと考えられています。もちろんそうした時間は指導者にも必要。頭の中をリフレッシュする作業は活力を取り戻すためだけではなく、普段見ているものから少し距離を取ったり、違った角度から見てみたり、サッカーとは関係なさそうなことに時間を使うことで新しいアイディアを見つけることができるはずです。世界王者になったドイツだからといって年中サッカー漬けではないのです。

個人的に良いと思うのが他のスポーツをしてみること。前述のシュバインシュタイガーを例に挙げても、サッカー以外のスポーツをすることで体の動きに幅を持たせることができるようになります。場所が確保できるならば週に1回サッカー、週に一回はバスケットボールやバレーボール、あるいはスキーやスケートといったウィンタースポーツをやるのはとてもいいことだと思います。

またチーム活動としてレクリエーションを多く取り入れたりもします。ドイツではクラブスポーツが主流のため、子どもたちが練習時にしか顔を合わせないということもよくあります。そこで練習の代わりにみんなで屋内プールやボーリングで一緒に遊んだり、食事をしながらコミュニケーションを取る時間も大事にします。「これがチームの成績アップにつながるだろうか」と眉間にしわを作って考えこむ必要はありません。みんなで楽しむ。それがまず何より大切なことなのですし、ピッチ外で育んだ絆はピッチ内にも必ずポジティブに反映されます。


■テーマを絞り込んで練習を

別の競技をしたり、レクレーション活動を楽しむからと言って、まったく練習をしないわけではありません。ただ練習をするとしても外での練習が困難になることから、町や学校の体育館を利用することが多くなります。他のスポーツクラブとの兼ね合いになるため、普通のアマチュアチームだと週に1回1時間半くらい割り当てられます。やる気があるチームは市営のフットサルコートをレンタルして追加で練習をしたりもしますが、そこまで頻繁に練習ができるクラブは多くはありません。

その分、ドイツの冬季には頻繁に室内サッカー大会が行われています。アマチュアクラブがそれぞれ自分たちで企画・運営をし、その地域にあるチームを招待。大会数が多いので、冬の間毎週末に2大会ずつ参加することもできます(そこまで参加しようとするチームはあまりありませんが)。試合はGK1人+フィールドプレーヤー4人。交代は自由。各参加チームが少なくとも4、5試合はできるようにグループリーグを組み、上位進出チームによる決勝トーナメント、あるいは予選敗退チームによる順位決定戦を行います。普段よりも少人数での試合のため各選手がボールを触る頻度は高く、全員が攻守に走らなければならないので身体への負荷もかなりのもの。さらにピッチが広くない分、前述のように戦術を落としこんで駆け引きをしながら相手を揺さぶるプレーも求められます。

もちろん、「練習機会が多いわけじゃないから」と楽しむことを主目的として、そのまま子どもの好きなようにサッカーをさせることが悪いわけではありません。私自身、そのような練習をさせることも多いです。ただこの点を考慮しながらも、体育館での練習からミニコートでのゲーム形式のメリットを最大限に生かすこともできます。

「ミニコートでのゲーム形式のメリットを生かす」、つまり小学生年代で身に付けるべき個人・グループ戦術にフォーカスを当てるということです。例えば「フリーになってパスを受けろ!」という概念を具体的なプレーに落としこむためには、どのような動き出し・タイミングで相手マークを外し、どの位置のどちらの足にパスを出すべきかを考え、トライする必要があります。どんなに素早い動きで相手マークを外しても、味方選手がパスを出せないタイミングで動き出していてはパスをもらうことはできません。自分の周りに敵選手がいなくて、両手を上げてアピールをしたとしても、味方選手の視野に入らなければそれはフリーの状況とは言わない。そうしたときにはパスの出し手にパスを出さなかったことを責めるのではなく、その選手からパスをもらえるところにサポートへ行かなかった他の選手、あるいは自分の判断に改善点があると考えるべきでしょう。もちろん、ボールを持った選手にも相手プレッシャーが来る前に次のプレーイメージができていたかどうかは問われるべきポイントになります。室内ではボールがどこかに飛んで行くことはなく、すぐに跳ね返ってくるので中断時間が少なくプレーし続けることができます。高い負荷で集中して何度も繰り返し取り組むことができるのは大きな利点だといえるでしょう。この時期にテーマを絞り込んで取り組んでいくことで、後期シーズン前のプレシーズンに向けて最適な準備をすることができます。

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中野吉之伴
秋田県出身。1977年7月27日生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU15チームでの研修を経て、元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督、翌年にはU16/U18総監督を務める。2013/14シーズンはドイツU19・3部リーグ所属FCアウゲンでヘッドコーチ、練習全般の指揮を執る。底辺層に至るまで充実したドイツサッカー環境を、どう日本の現場に還元すべきかをテーマにしている。