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遠藤保仁から学ぶ、ゲームをコントロールするパスの蹴り方

※サカイク転載記事(2014年6月23日掲載)※

「止めて蹴ることに関しては、誰にも負けない」

派手なドリブルで観客を沸かせるわけではありませんが、サッカーにおける最も基本的なトラップとキックにおいて、遠藤保仁選手はワールドクラスと言ってもいい存在です。

サッカーは基本的にはパスゲーム。1試合に何百本ものパスをつなぎますが、ドリブル突破はせいぜい十数回。何百回もドリブルをすることはありません。ペップ・グアルディオラ監督が「パスより速いドリブルはない」と言っているように、自分がボールを持って走るよりも、蹴ってボールを走らせたほうが遥かに速いからです。

チームの司令塔である遠藤選手は、パスを使ってゲームの展開を組み立てることを得意とするプレーヤーです。(文/清水英斗 写真/松岡健三郎)

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■ボールを置く位置は、つねに右足の斜め前

遠藤選手は、ほとんどのパスを右足で出しています。ボールを止めるときは、ほぼ右足の斜め前辺りにコントロールします。左足でトラップしても胸トラップしても、つねにボールは右足の斜め前に置き、タイミングを逃さず、すぐにパスを出せる体勢を作ります。

特によく狙っているのが、相手の守備ブロックの中に打ち込むクサビのパス(縦パス)です。

たとえば長友佑都選手のオーバーラップを生かしてスルーパスを出そうとしても、当然、相手はそれを警戒してサイドを封鎖しようとします。

そこで一度、相手の守備ブロックの中にいる本田圭佑選手などに縦パスを入れると、これが"エサ"となって相手DFが食いつき、グッと集まります。そこから本田選手がポストプレーでボールを遠藤選手に戻したときには、サイドにスペースが生まれており、遠藤選手はワンタッチで長友選手へ。

一本のパスで強引に解決しようとするのではなく、クサビというエサをうまく使い、相手の守備に揺さぶりをかけながら、二手、三手をかけて崩していくわけです。

もちろん、クサビのコースはいつも空いているわけではありません。本田選手の足元に届ける前に、相手の足に引っかかってインターセプトされないように、遠藤選手はツータッチ、ときにはワンタッチで素早くクサビを入れていきます。一度、注意して遠藤選手のプレーを観察してみましょう。テンポ良く相手の守備の修正が間に合わないように、組み立てていくことが大切です。

■くさびのパスで攻撃に緩急をつける

もうひとつ、遠藤選手のプレーで重要なポイントは、パスの"緩急"を操っていることです。

たとえば相手を食いつかせるクサビのパスは、必ずしも速いボールが良いとは限りません。むしろ、あまりにもパスが速すぎると、相手がエサに食いつく前に展開されてしまうので、じつはクサビの効果が薄くなるという側面もあります。あえてゆっくりと出して食いつかせ、そこから展開するときはビュッと鋭く出す。このような緩急の使い分けがうまい選手です。

また、サイドチェンジのようなパスの場合は、ボールが移動する距離が長いので、味方に届く間に相手のプレスを受ける恐れがあります。せっかく空いているサイドを突こうとする狙いなので、このときはできるだけ強くて速いボールを味方に届けたほうがサイドチェンジの効果は高くなります。そのため、遠藤選手がサイドチェンジを蹴るときは、インステップを使ったライナー性の鋭いボールが多くなります。

どこにパスを出すかだけでなく、次の展開をスムーズにするためにどのような球質で届けるのか。先の"ビジョン"を備えたプレーは、司令塔に欠かせないものです。

■正確であることが、もっとも速い

3つめは、味方の特徴に合ったパスを出すこと、ゲームの駆け引きに有効なパスを選ぶことです。

たとえばパスを出す相手が本田選手なら、彼の左足にパスをつけたほうがその後は楽にプレーできるでしょう。あるいは相手DFからプレスを受けている状態でクサビを当てるのなら、出した後すぐにワンタッチで受け取れるように、遅めのパスを出し、動き直してリターンパスのコースを作ってあげる。あるいは右サイドにいる岡崎選手はつねに裏のスペースでボールを欲しがっているので、右サイドを向くときはつねにロングキックができる位置にボールを置く。このような味方の利益や、動きのクセを意識してプレーできるのが遠藤選手の特徴です。

どうしても自分の都合だけで受け取りづらいパスを出す選手も少なくないのですが、決して効率的とは言えません。グアルディオラ監督は「正確であることが、もっとも速い」と言っています。たとえすき間を突くような強いパスを通しても、そのコースが1メートルずれて、味方が足を思いっ切り伸ばしてやっと届くような場合、体勢を整えるのに時間がかかり、その後のプレーがしづらくなります。

さらに、ゲームの駆け引きに合ったプレーを選ぶことも大切です。

たとえば6月3日に行われたコスタリカ戦の終盤には、3-1とリードした状況のまま試合を終わらせるために、遠藤選手はできるだけ自陣ではなく、敵陣でボールを回し続けようとしました。相手はゴールをもぎ取るために、強烈なプレスをかけてくる可能性があるので、同じように自陣でパスを回すのにはリスクがあります。

そこで遠藤選手はサイドからボールを運び、香川選手らと共に、できるかぎりバックパスをせず、相手が伸ばした足の上を越えるような浮き球パスなど、普段なら一旦戻して組み立て直すような場面でも、後ろに下げずにコーナーフラッグ方面へ向かい、リスクを避けるボール回しを行いました。

味方のこと、ゲームの流れ。遠藤選手のプレーはシンプルですが、さまざまな駆け引きが詰まっています。なぜ、そのパスを選んだのか? 理由を考えながら見ると、遠藤選手のプレーの真髄が見えてくるでしょう。