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野洲高校・山本監督の哲学 後編『ブレない指導を』

2005年の高校サッカー選手権大会で、滋賀県立野洲高校は想像力豊かな『セクシーフットボール』で全国の頂点に上り詰めた。そのチームカラーは脈々と後進へと受け継がれ、同校の伝統的なスタイルとして確立された。この冬スタートを切った新チームも例外ではない。では、知将・山本佳司監督はどのようしてチームをつくり上げていくのか。野洲のチームづくりをレポートする。(取材・文・写真/内藤秀明)

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■指導者が掲げるサッカーを、選手のものに

美しいサッカー、『セクシーフットボール』で高校サッカーファンを魅了する滋賀県立・野洲高校。しかし、ここ2年ほどは、高校サッカー選手権大会・滋賀県予選決勝で、昨年は綾羽高校、今年は草津東高校に敗れ、後塵を拝しているのが現状。それだけに次回大会に懸ける思いは強く、滋賀の覇権奪還、ひいては2度目の全国制覇に燃えている。それを実現するためには、野洲の持ち味である『個』の成長が必須となるが、新チームが始動する冬のこの時期こそが、その個を磨く時期だと山本佳司監督は語る。

「選手権終わってから3月頃までは個の成長にフォーカスするために少し練習が偏ったりする時期ですね。そこからシーズンに入ると、ゲーム性が強い平均的なトレーニングになる。そしてインターハイが終わって9月頃から選手権に向けて、戦うためのメンタルや、球際、守備のこつ、攻守の切り替えとか、勝つために必要なことを指導していきます」

では、冬の時期に意識して指導していることは何だろうか。

「パスの精度が一番重要です。パスを出すタイミング、スピード、精度がブレる選手はだめ。少し話が逸れますが、そもそも私が選手に要求していることが二つあって、一つは『怖がらない』こと。ボールを持って敵がきても、慌てない。判断を早くするために常に選択肢を持って、落ち着いてプレーすることを求めます。そして二つ目は、『無責任なプレーをしない』こと。無責任なプレーというと、守備に関することがフォーカスされがちですけど、うちでは攻撃の部分でそれを要求する。自分が苦しいからいい加減なパスを出したりだとか、みんなで大事につないだボールをラストパスで引っ掛けるとか。そういうのも無責任なプレーだと思います。だからこそ、パス精度を要求するんです」

実際、12月10日に取材したミニゲームでも、まさにこのパス精度が要求される練習が行われていた。ルールは普通のミニゲームだが、フルコートの四分の一という狭いピッチの中で10対10を行う。時には乾世代のOBで現在はコーチを務める長谷川敬亮や、昨年の春に卒業し、現在は名古屋グランパスに所属するU-19日本代表MF望月嶺臣などもミニゲームに混ざり、11対11になる(望月はJリーグがオフのために野洲の練習に参加していた)。

この練習を指導していた北村コーチは、「このミニゲームでは、選手たちが狭い中でどれだけ工夫してパスやドリブルで崩していくかに主眼を置いてトレーニングしています。ハイプレスを仕掛けてくるチームが多いので、そういう状況でも彼らが技術を発揮できるように、という考えからです」と語る。

この日、野洲の練習に参加していた望月にも冬の練習について尋ねてみると、「相手がハイプレスをかけてくる中でも落ち着いてスルーパスを通したり、味方がやりやすいようなパスを出したりする部分は、野洲の練習で伸びたかなって感じます。ほんとゲームが一番。いかに相手を騙すかとかも考えますし」と当時の練習が糧になっていたことを明かした。

また、野洲だからこそできるやり方でいうと、今回のパターンのようにOBの練習参加も挙げられる。

北村コーチは、「結局僕が気付いてほしいと思うのは、(選手権出場を果たしている)望月らの年代と今の年代とでは、ボール回しの部分で大きく差があるわけじゃないということ。違うのは、最後のラストパスの質や見ているところ。こういうのは僕らが口で言っても伝えられない部分なので、望月のような現役Jリーガーと一緒にプレーすることで吸収してほしい」とOBを呼ぶ目的を語る。

実際、選手たちにとって望月とプレーできる価値は大きい。1年生のときからAチームでプレーしているエースの村上魁は、望月との練習について「かなり勉強になります。持ち方とか出す場所が凄い。ゲームを通じて吸収していきたい」と刺激を受けている様子。

野洲の選手たちは日々成長を重ねている。現在の2年生には、1年生の頃より試合に出場していた選手が多いだけに、経験値も高い。それだけに来年に向けて期待は膨らむばかりだが、勝負は水物。どれだけいい選手を育て、いいチームが完成しても負けるときは負けてしまう。ただ、そのようなときでも肝要なのは『ブレないこと』だと山本監督は語る。

「指導者は自分が目指すべきものを明確に持つべき。同時に、そこが勝敗とかでブレないようにしないといけない。そうでなければ、選手たちが迷ってしまう。そして最終的には指導者が掲げるサッカー観みたいなものを、彼ら自身のものにしてあげる必要がある。『監督が言うから、する』とかではなく、『野洲のサッカーがこういうものやと思うから、自分もこういうプレーをしたい』というように。84回大会では、「日本の高校サッカーを変える」っていう意気込みで大会に臨んで、『セクシーフットボール』を展開して優勝した。そういうのは自分たちのプライドにもなるし重要。今年もそういうのを大切にしたいと思う」。

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山本佳司
1963年生まれ、滋賀県出身。85年からのドイツ留学で本場のサッカーと出会い、帰国後の88年から、滋賀県立水口東高校サッカー部監督として指導者の道を歩み始める。97年に県立野洲高校サッカー部監督に就任すると、クリエイティブなサッカーをチームに浸透させ、2002年度の第81回全国高校サッカー選手権大会で8強入り。05年度の第84回大会では、同校を滋賀県勢初の優勝へと導いた。