12.26.2014
湘南ベルマーレ 曺 貴裁監督 特別講義(後編)「ポゼッションとカウンター」
Jリーグの湘南ベルマーレで指揮を執る曺 貴裁(チョウ・キジェ)監督は、2014シーズンにチームをJ2リーグ初優勝に導きました。資金面では決して恵まれているとは言えないチーム。それでも、熱血漢の下で一丸となって戦い、積み上げた勝ち点は101。指揮官は、チームをつくる上でシステムをベースにすることは可能と述べつつも、より重要なのは、状況に応じて何が求められているかを、選手個々が判断できるようになることだと説きます。(取材・文/河合 拓)
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流れの中での攻撃には、『カウンター』と『ポゼッション』があるということを、前回は確認しました。では、具体的にどのようにすれば、効果的な攻撃が仕掛けられるのでしょうか。相手が空けたスペースを、人とボールで突いていく『カウンター』に対して、効果的な『ポゼッション』攻撃を仕掛けるためには、意識しないといけないことがあると、曺監督は説きます。それは、守備者に複数の選択肢を持たせることです。
選手個々のポジションを決める際に、『4-4-2』、『4-2-3-1』、『3-5-2』、『3-4-3』など、全体の布陣をあらかじめ決めてから、選手たちを配置することが多いでしょう。監督は、これまで中学生年代のチームで、バルセロナも用いることの多い『4-1-4-1』で、『ポゼッション』のできるチームづくりをしてきたと言います。
ただし、その話を始める前に、前提があります。それはシステムを導入して、各ポジションの役割を選手たちに伝えることは効果的である一方、そのポジションを取り続けることが目的になっては意味がない、ということです。
たとえば、『4-4-2』の布陣でボールを保持する際に、右サイドバックが攻め上がったとします。その場合、残り3枚の最終ラインで3バックを形成しなければいけません。右センターバックは3バックの右に、左センターバックは3バックの中央に、左サイドバックは3バックの左になります。また、別パターンとして、両サイドバックが攻め上がり、左右のセンターバックが、それぞれ左右に広がり、中央には2枚のボランチのうち1枚が下がって来て、3バックを構成する形もあります。このときにボランチの選手が「オレはボランチだから、最終ラインには入らないよ」と言っていたらボールは回せません。『中盤の底にいても、味方はパスを出す場所がない。それなら最終ラインに入ろう』と、その選手が判断して、パスコースをつくるようになることが理想です。
「大事なのは、ピッチの中で選手が自然に感じられること。それが、『自立』ということを含めて一番大事なポイントです」と、湘南の指揮官は強調します。
この大前提を踏まえてから、ジュニアユースを指導していた際に「よく用いていた」という『4-1-4-1』の意図を説明しました。そもそも、「この形が分かりやすいのは、3人のセンターバックとボランチの3人で、(4-4-2の)相手のセンターフォワードと3対2の状況をつくれるからだ」と説きます。
ボールを持った左センターバックに、相手FWの一人がプレスに行き、もう一人のFWがボランチのマークに付いたら、右センターバックがフリーになっています。逆に2トップが、そのまま両センターバックにプレスを掛けてきたら、アンカーにボールを入れることができます。このように、自然と数的優位がつくれているため、ボールをどこに動かすか、判断がしやすくなるのです。
さらに、ボールがアンカーに入った際、今度は前方の2センターハーフと、相手のダブルボランチと3対2の状況をつくれます。このように、4-1-4-1の布陣では、オーソドックスな4-4-2の布陣と対峙した場合、ピッチ上の随所で3対2がつくりやすくなっているため、有効なのです。
選手たちに、どのようなプレーを求めるかを明確にするだけでなく、選手の能力を見極めること、能力に合った場所に配置して挙げることも、監督は重視します。「ただ、スピードがあるからセンターフォワードにするとか、技術があるからボランチにするとか、そういう一側面だけでなく、いろんな選手の適性を見極めながら、システムを考えたり、ポジションを変えてあげたり、指導者側のアイディアや働きかけで、選手の能力を引き出してあげること。これが指導者、コーチの一番大切なことだと思います」。
サッカーのトレーニングは「人生と同じ」と曺監督は言います。「嫌いなことばかりを求めると、その選手の特長は間違いなく消えてしまいます。好きなことばかりではダメだけど、好きなこともやらせないといけない。嫌いなことばかりやらせてはダメだけど、嫌いなこともやらせないといけない。長い目で選手を育成してほしいですね」と、育成年代の指導者たちに呼びかけています。
曺 貴裁(チョウ・キジェ)
1969年1月16日生まれ。京都府出身。早稲田大卒業後、柏レイソルの前身である日立製作所サッカー部に入部。その後プロとして柏、浦和レッズ、ヴィッセル神戸でプレー。1997年に引退すると、ドイツのケルン体育大でコーチングのノウハウを学び、2000年に川崎フロンターレのトップチームアシスタントコーチに就任。セレッソ大阪のトップチームヘッドコーチ、湘南ベルマーレジュニアユース監督などを歴任し、2012年より湘南トップチーム監督に就任。今季はJ2リーグ戦を制し、J1リーグ復帰へとチームを導いた。
取材・文 河合 拓