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GKコーチ山野陽嗣氏・講義 その3「基礎がないと悪影響もある」

ホンジュラスの年代別代表GKコーチを始め、育成年代からトップレベルまで指導経験を持つ山野陽嗣氏。コーチユナイテッドアカデミーでは、山野氏のトレーニングメソッドを公開中です。これはGKを始めたばかりの子どもから、トップレベルの選手まで実践可能なトレーニングで、ウォーミングアップから応用までGKのプレーに必要な要素が詰まっています。ここでは山野氏のトレーニングを通じて、『GKとしてうまくなるためのポイント』を紹介します。(取材・文/鈴木智之)

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<<前回記事:GKコーチ山野陽嗣氏・講義 その2「遠くに大きく」

■ 基礎を習得し、土台をつくる

ここからは応用編と題して、実戦に近いトレーニングが始まります。基礎と応用の違いとはなんでしょうか? 山野コーチが説明します。「基礎は一つひとつの動作をしっかりやることが大切です。応用編は動きが2つ3つと続くので、動作スピードを速くすること。リアクションスピードも実戦さながらの動きを求めます」

トレーニングに入る前に、山野コーチが応用編に取り組む際のポイントを強調します。

「応用編のトレーニングは、前回、前々回で紹介した基礎技術が身についていることを前提として行ってください。基礎ができていなかったら、応用を100本やっても効果がないどころか、悪い影響を与えることにもなります。なぜなら間違ったフォームを繰り返しトレーニングにすることになるので、悪い癖がついてしまうからです」

基礎ができてから、応用に取り組む。これは勉強では当たり前のことですが、サッカーでは時に見過ごされてしまっています。勉強でたとえると、足し算ができない子どもに因数分解をやらせるようなもの。そのようなことはあり得ません。ですが、サッカーではそのようなことが実際に起こっているのです。

「基礎ができていない選手は、まずは基礎を身につける練習をしてください。基礎の習得に2ヶ月かかる選手もいれば、もっと多くの時間がかかる選手もいます。しっかりした基礎の習得は、選手としての土台をつくる上でとても重要なことです。応用編の練習は動きがあって見た目が派手なので、GK練習を『やっている感』が出るのでいいかもしれませんが、間違ったフォームで練習をすると、選手にとってはマイナスになります」

派手で見栄えの良い練習と、地味だけど選手に必要なトレーニング。指導者としては、どちらを選べばいいのでしょうか? 

「私はホンジュラスの年代別代表のGKコーチになる前に、監督からテストを受けさせられました。そのときに、動きがあって派手で、GK練習をしている感のある練習と、目の前の選手を分析して、足りない基礎を身につけさせて伸ばす練習のどちらをすればいいのか考えました。見栄えの良い練習をすれば、監督の目にも良く映ったかもしれません。でも私は、目の前の選手に必要な、基礎的な練習を行いました。結果、そのときにトレーニングをした選手たちは伸びていき、私自身も監督から評価され、契約することになりました」

コーチに必要な要素に「目の前にいる選手には、どんな練習が必要か?」を見抜くことがあります。それこそが練習のための練習ではなく、選手を伸ばすためのトレーニングと言えるでしょう。

■ 練習では、メンタル面も考慮する

ここからは応用編の練習メニューを紹介します。まずは「落下ボールキャッチ」。コーチが両方の手にボールを持ち、GKと向い合って立ちます。コーチはどちらかの手にあるボールを落とし、GKがキャッチします。GKの反応速度、リアクションの動作に刺激を入れるトレーニングです。応用編も最初は強度の低いものから入り、徐々に上げていきます。

続いては「目つぶりセーブ」。GKがゴールの中央に立ち、目を閉じて構えます。コーチはペナルティエリアの外側、正面からボールを蹴ります。GKは目をつぶったまま構え、コーチが蹴る音が聞こえたら反応します。発展形として、ゴールから45度の位置にFWを立たせるものもあります。GKがシュートを弾くとFWに詰められるので、基礎編でトレーニングをした「大きく、遠くに弾く」ことを意識しましょう。

山野コーチがポイントを説明します。

「シュートが入っても見送らない。必ず反応する。そうすることで、触ることができるボールが増えてきます。慣れてきたら、ボールスピードを上げましょう。そして『GKが手で触ったけど入った』といった、惜しいプレーが出た場合、次も同じようなコースを狙いましょう。そこでGKが防ぎ、成功体験ができれば良いと思います。そして、GKの弱点はどこか? どのプレーが得意かを見極めながら蹴ることもポイントのひとつです」

山野コーチは一つひとつのプレーに対してリアクションをし、遠くに弾くと「ナイスキーパー!」と褒めていました。GKのメンタルも考慮しながら、トレーニングは進んで行きます。

応用編は他に「GKを縦に並べてシュートストップ」「3連続シュートストップ」など動きに連続性があり、トレーニング強度の高い内容に入っていきます。詳細はアカデミー動画でご確認頂きたいのですが、これらのトレーニングは「常にキッカーを意識し続ける」「プレーを止めずに連続させる」「素早く動く」といった、実際の試合に必要な要素がふんだんに含まれていました。それに対し、山野コーチはGKがうまくセービングが出来なくても、「入ってもいいからリアクションしよう。難しいのは分かるよ」と選手のメンタルもケアしながらトレーニングしているのが印象的でした。そして、良いプレーには必ず「ナイスキーパー」と声をかけていました。

「良いイメージでトレーニングを終わることを意識しています」と話す山野コーチ。次回の更新では、さらに実戦に近いメニューでGKのスキルを向上していきます。


山野陽嗣(やまの・ようじ)
1979年12月14日生まれ。広島県出身。立正大卒業後、Palm Beach Pumas(米国)、 CD Lenca(ホンジュラス)でプレー。コーチとしては、立正大学、 アルビレックス新潟シンガポール(シンガポール) ※GKコーチ兼選手 、 アルビレックス新潟ユース、Real Sociedad(ホンジュラス)、Parrillas One(ホンジュラス)、Real Sociedad 、U-20ホンジュラス代表GKコーチ ※U-15ホンジュラス代表GKコーチ兼任。