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世界的コーチが、日本の若き指導者たちを喚起

1月9日、ワールドフットボールアカデミー「ネクストジェネレーションセミナー」と銘打たれたセミナーが筑波大学東京キャンパス文京校舎で行われました。講師はサッカーのピリオダイゼーションの第一人者としてコーチ・ユナイテッドでもお馴染みの世界的コーチ、レイモンド・フェルハイエン氏。今回で2回目となる日本サッカーの将来を背負う学生に向けてのセミナーは、情熱家としても知られるフェルハイエン氏らしく、学生たちに向けたメッセージが各所に散りばめられた、これまでのセミナーとは一味違う内容となりました。今回はそのセミナーの様子をお伝えします。(取材・文・写真 大塚一樹)

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■大切なのは自ら学ぶ姿勢 コーチを志す若者たちへの熱いメッセージ

「この沈黙にはどんな意味があったと思いますか?」

それまでシートの順番通りにピリオダイゼーションについての講義を進めていたフェルハイエン氏が、セッションの合間の質疑応答でこんな問い掛けをしました。視線の先にはサッカーコーチを志す学生、または現在すでにチームの指導に当たっている学生たち。

「先程の質問の後に数分間沈黙の時間がありました。質問をしないこの時間にどんな意味があるのでしょう?」。戸惑いの色を見せる受講者を他所に、フェルハイエン氏は熱を込めて受講生に語りかけます。

「質問をしない人は何も質問がないということですか? 質問がないということは、物事に対して批評的な目を持っていない、または分析ができない人ということになります。もし皆さんがそうなのだとしたら、今日ここで指導者になることを諦めてください」。指導者にとって一番重要なことは、サッカーの技術でも知識でもない。フェルハイエン氏は続けます。

「質問があっても何らかの理由で質問ができない人もいるかもしれません。その人も指導者になることはできないでしょう。いま質問をしなくていつするのですか? 私はいまここに立っていますが、明日はいません。学ぶチャンスを生かせない人も指導者にはなれないのです」
 
この言葉をきっかけに学生たちの空気が変わって行きます。これまで世界のスタンダードと言われるサッカーのピリオダイゼーションの"講義を聞く"姿勢だった学生たちが、椅子から腰を浮かせて"自ら学ぶ"姿勢に変わったのです。

ワールドフットボールアカデミーが主催して行われた「ネクストジェネレーションセミナー」はその名の通り、次世代の日本サッカーを担う若き指導者、指導者の卵たちに大きな刺激を与えるものになりました。

■客観的な事実に基づいた指導を

「今日はユースアカデミーのピリオダイゼーションについてお話しましょう」

 セミナーの冒頭、フェルハイエン氏は「若い指導者はキャリアのはじめにユース年代を受け持つことになる。だからこの年代の指導方法を学んでほしい」と言って、セッションをスタートさせました。

「いまからお話することは誰かの意見、経験に基づいた主観的な話ではなく、客観的な事実です」。この言葉は、このあと幾度となく繰り返されることになるのですが、フェルハイエン氏は自らが指導し、世界でも稀有な育成の成功事例とされるフェイエノールトのユースアカデミーで実際に起こったこと、そこで得られたデータを元に話を進めます。

「若い人たちには特に知っておいてもらいたいのですが、日本に限らずサッカー界では往々にして個人の経験、主観的な意見や信念つまり『I think...,I believe...』に基づいた指導がなされています。これは正しい指導とはいえません」。若い指導者には経験がありません。それを埋めようと知識を吸収し、経験を積もうと考える若者も少なくないはずですが、フェルハイエン氏は客観事実とサッカーの原理原則に基づいた正しい指導方法を学ぶことがなにより大切だというのです。

■less =(is) more 量より質を高めるトレーニング

「サッカーは持久力のスポーツではなく強度のスポーツです。90分間ハイテンポで爆発的な力でスピーディーなアクションを起こすことが求められます。日本ではたくさんのトレーニング、つまり量が多く長いトレーニングが好まれますが、それはテンポの遅いサッカーのトレーニングでしかありません」。

U-16の選手たちがU-16のチーム練習を複数こなすよりも、そのうちの1回をU-17の選手たちと行うほうがトレーニング効果が高い。フェルハイエン氏は、自らが得たデータと事実に沿って実例を挙げながら疲労の蓄積の弊害、量によって質が犠牲になるケースを説いていきます。

ピリオダイゼーションでは『less =(is) more』という概念でトレーニングを行います。疲れた身体で90パーセントの出力の練習を続けるよりも、疲労のない100パーセントのトレーニングで101パーセントの力を引き出す。こうした考え方は欧州ではすでにスタンダードですが、日本ではまだまだ「二部練信仰」など、量を追い求める練習が横行しています。

■"これまでの常識"の壁を取り払う

「日本では連戦を行う大会も多くあります。こうした大会のために午前、午後の二部練習を実施するコーチもいるのでは?」。ある学生が、こうしたハードスケジュールで行われる大会日程に疑問を呈しながらも、二部練の効果もあるのでは? と質問をしました。

フェルハイエン氏の答えはシンプルでした。

「こうした大会に入る場合は疲労の蓄積がまったくない状態で初戦に臨むのがベストの選択です。二部練習をしていては疲労をためて大会に入ることになります。もちろんこれは対処療法でしかないので、あなたの言うように大会日程自体、インフラを見直す必要がありますね」

日本で長らく常識とされてきた量を追い求める指導。欧州の最新指導法が情報として入ってくるようになった現在でも、自らが受けてきた指導法を前提にしてしまう指導者は少なくありません。この日フェルハイエン氏の事実に基づいたセミナーを受けた"ネスクストジェネレーションズ"は、指導者としての根幹となるスタート地点を見つめ直すことができたのではないでしょうか。

会場の空気を変えた質疑応答から、フェルハイエン氏はセミナーの主題を「ピリオダイゼーションの講義」から「指導者のあり方」に変化させたようでした。用意されたスライドは7項目を消化して時間になりましたが、予定されていた休憩時間もとらず、ぶっつづけで行われたセミナーの教室は、スタート時と比べれば明らかに室温が上昇していました。

「私から伝えたいのは常に疑問を持ち続けて欲しいということです。最先端の情報が大切だと勘違いしている指導者は大勢います。単なる情報から得た知識はコピーに過ぎません。大切なのは質問やディスカッション、インスピレーションを得ることです。私はみなさんに情報を与えることはできますが、それを使うのは皆さんです」

3時間半に及んだセミナーはフェルハイエン氏の受講者たちへの「グッドラック」という言葉で締めくくられました。終了後、フェルハイエン氏の希望で学生たちとの記念写真が撮影されました。フェルハイエン氏、通訳を務めた相良浩平氏はともにこの中から日本サッカーの将来を担う人材が出ることを強く希望していました。


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