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子供のシュート意欲を高める。ドイツの育成『ジュニアの技術論』(前編)

※サッカークリニック2月号より転載

昔からある「勝負強さ」はそのままに、「華麗なパス・ワーク」を植えつけ成果を挙げたドイツ。ここでは世界王者の「ジュニア年代のテクニック」に迫る。 ドイツのケルン体育大学で講師を務め、ケルンで初となるサッカースクールを創設するなど、「育成の第一人者」として名高いクラウス・パブスト氏に、「日本の育成」へのヒントを聞いた。(取材・構成/井上直孝、髙野直樹 通訳/近藤友希[ファンルーツアカデミー・コーチ] 協力/サッカークリニック編集部

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■ドリブル練習にも一工夫を入れる

パブストさんが実際に行なっているジュニア向けのテクニック指導を教えてください。

パブスト:私は子供たちにボールにたくさん触ってほしいと思っています。そのため、パスという選択肢がなく、常に練習に参加しなければならない「1対1」の練習をよく行ないます。グリッドの大きさによる部分もありますが、基本的に「1対1」ではドリブルの出来がポイントになります。ボール扱いを向上するためにドリブルがポイントになる「1対1」という練習を多く取り入れるのです。また、周囲の状況をさほど気にする必要のない「1対1」でボールを自由に扱えないようでは、試合で落ち着いてプレーすることなどできません。
もちろん、「1対1」ばかりしているわけではありません。「1対1」を経て「1対2」などに発展させていきます。ただし基本としては、攻撃側が有利になれるような設定を多用し、「どんどん勝負しよう」と声をかけることで子供たちの意欲を引き出します。

ドリブル練習の話が出ましたが、日本ではコーンを置いてジグザクにドリブルしていく練習があります(図1)。こうした練習はドイツでも行なわれているのですか?

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mf_sc_img01.gif【ジグザグ・ドリブル】
日本でよく見られるドリブル練習。均等にコーンを設置しジグザクにドリブルしていく。しかしこの練習に対してパブスト氏は「子供が退屈するのではないか」と話す
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パブスト:Jリーグの浦和レッズで指導したことのあるフォルカー・フィンケさん(現在はカメルーン代表監督)がこう言っていました。「指導者が楽しいと思う練習であれば、子供たちも楽しい。しかし指導者がつまらないと思っている練習は、子供たちにとってもつまらないものだ」。この意見に私も賛成です。 このドリブル練習はつまらないものではありませんか(笑)?
いくつかドリブル練習を紹介しましょう。

図2を見てください。2人の選手の間に指導者が立ち、指導者がグリッドの中にボールを入れて「1対1」を開始します。ボールを持っている選手はどちらのゴールを狙ってもいいという設定で行ないます。選手の背後にゴールがあるので「ターンをしてからドリブルする」という練習にもなります。

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mf_sc_img02.gif【ターンとドリブルを鍛える「1対1」】
2人の選手の間に指導者が立ち、指導者がグリッド内にボールを入れて「1対1」を開始。ボール保持者はどちらのゴールを狙ってもいい
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またファーストタッチを向上したい場合、図3のような練習が有効です。白の選手が攻撃側、黒の選手が守備側となり、黒の選手が白の選手へ向けてボールを出してスタートします。ボールを受けた白の選手は、2つのコーンの間を必ずドリブルで通過し、その後、黒の選手との「1対1」に挑みます。
こうした2つの練習は短時間の練習、例えばウオーミングアップとして行なうのに適しています。また、このような設定であれば、子供たちも楽しみながら取り組んでくれるはずです。

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mf_sc_img03.gif【ファーストタッチを鍛える「1対1」】
白の選手が攻撃側、黒の選手が守備側となり、黒の選手が白の選手へ向けてボールを出してから始める。ボールを受けた白の選手は、2つのコーンの間を必ずドリブルで通過してから、黒の選手との「1対1」を行なう。コーンを通過したあとは、どちらのゴールを狙ってもいい
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もう1つ、図4のような練習を紹介しましょう。この練習では、黒の選手がドリブルでグリッド内に入り、反対側にいる白の選手にボールを出してから「1対1」を始めます。白の選手は左右にある両ゴールを狙えます。ただし、ゴール前に設置してある2つのコーンの間をドリブルで通過してからしかシュートを打てません。また、黒の選手がボールを奪ったら攻守を入れ替え、ゴールを目指します。

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mf_sc_img04.gif【ドリブルを鍛える「1対1」】
黒の選手がドリブルでグリッド内に入り、対面の白の選手にボールを出してから「1対1」を始める。白の選手は左右どちらのゴールを狙ってもいいが、ゴール前に設置してある2つのコーンの間をドリブルで通過してからシュートしなければいけない。黒の選手はボールを奪えたら攻守交代し、ゴールを狙う
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なぜゴール前の2つのコーンの間を通過するという設定にしているのでしょうか?

パブスト:それは、この練習のテーマがドリブルの向上だからです。「コーンを通過する」というルールを設定しなければ、ボールを持った瞬間にシュートを打ったほうがいいケースもあり得ます。そうなると、テーマとは違った練習になってしまいます。


日本でこの練習を行なった場合、コーンを設置せずに「コーンを通過する」というルールを採用しなくても、まずはドリブルし始める選手が多いと思います。

パブスト:日本とドイツでは考え方が違うからでしょう。ドイツの子供たちは、この設定からコーンを抜いてしまえば、すぐにシュートを打ってしまいます(笑)。

「積極的にシュートを打つ」という部分は日本人選手に欠けているところで、変えるべきだと思っています。「シュート意欲」はどうしたら高められますか?

パブスト:例えば「1対1」の練習が終わったとき、私は必ず「どちらが勝ったのか」を伝えるようにしています。ドイツの子供たちは「どっちが勝った?」 と聞いてきますし、それは伝えてあげるべきだと思っています。一方、日本の子供たちは勝敗にあまり関心を示さないという印象があります。しかし、練習の中に「競争の要素」があれば「シュート意欲」だけでなく、それ以外の部分の意識も高められると思います。それに、得点を競った練習のほうが子供たちは楽しいはずです。
日本の多くの子供たちを指導してきて感じたのが、みんな、指導者の言ったことを守って練習を行なってくれるということです。一方、ドイツの子供たちの場合、指導者が話した通りにプレーする子供は多くいません。(笑)。そういう状況なので、ドイツでは「子供が楽しめる、飽きさせないようなメニュー」をつくろうとするのではないかと思います。


では、「いわゆるコーン・ドリブル」(図1)のような練習は「行なうべきではない」のか、「行なわなくてもいい」のか、どちらでしょうか?

パブスト:「行なうべきではない」ということはありませんし、ウオーミングアップとして行なってもいいでしょう。ただし、少しの工夫でより実戦的な練習になると思うのです。例えば、図5のようにするといいと思います。この場合、反対側から別の選手がドリブルで進んで来るため、お互いに注意し、 ルックアップしなければなりません。また、指導者が「次の選手もどんどん始めよう」と促してテンポアップすれば、足元ばかり見ているような選手はうまくできないと思います。
違った工夫もあります。それは、最後にシュートを組み入れるというものです(図6)。「先に10点決めたチームが勝ち」というルールを採用したりし、チー ム対抗で行なって競争させるのがいいと思います。

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mf_sc_img05.gif【顔を上げたドリブル練習】
白の選手がコーンをジグザクでドリブルしていく。反対側の黒の選手も同じようにドリブルを開始。数秒が経過したら、指導者の合図で白黒それぞれ2人目以
降もドリブルを始める。顔をしっかり挙げてドリブルすることが求められる

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mf_sc_img06.gif【ドリブル&シュート競争】
ミニゴールを設置し、コーンの位置を変えたりしてドリブルし、最後はシュートを打つ。「先に10点決めたほうが勝ち」とする

後編:判断力を鍛えるトレーニングメニューとは?>>

クラウス・パブスト(Kraus PABST)/[元1.FCケルン育成部長]1971年生まれ。ドイツのケルン体育大学でスポーツ科学を専攻。その後は指導者の道に進み、1.FCケルンのユースコーチや育成部長を務め、ドイツ代表のルーカス・ポドルスキ(現アーセナル)らの育成に携わった。その後にケルンで初となるサッカースクール「1.Jugend-Fusball-Schule Koln」を創設。また日本各地でも育成年代の指導を精力的に行なっている。

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modern.jpgのサムネイル画像育成改革によりEURO2000の惨敗からたった10年で復活を遂げたドイツ。個の強さにテクニックと創造性を備え、全員が走ってパスをつなぐ最強の「モダンフットボール」へと進化しました。名門1. FC ケルンの育成部長も務め、多くのブンデスリーガを育てたクラウス・パブストがその最先端トレーニングを伝授。U-12指導者向け教材『モダンフットボール【MODERNER FUSSBALL】』
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