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「フットボールブレイニング」のすすめ/レイモンド氏ウェビナーレポート(前編)

サッカーのピリオダイゼーション理論で有名な、レイモンド・フェルハイエン氏が「サッカーの心理学」についてのウェビナー(オンラインセミナー)※を行った。レイモンド氏はサッカーの心理学について「フットボールブレイニング」という言葉を掲げる。これはフットボールと脳のトレーニングを掛けあわせた造語で『サッカーというスポーツに必要な思考』を脳と心理学の視点から定義したものだ。本稿ではレイモンド氏の解説を中心にその概念を紐解いていく。(取材・文/鈴木智之 photo by ·tlc∙
※ウェビナーはワールドクラスのセミナーが家庭のPCやタブレットで手軽に受講できるとして、世界中のサッカー関係者から高評を得ている画期的な試み。

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■私たちが陥りがちな"考える"ことの誤解

「私たちは精神について考えるのではなく、脳について考えます。メンタルについて話をするのではなく、思考について考えます。なぜなら、精神とは身体の中にあるものだからです。身体と精神は別々のものではありません。身体の一部である頭の中に脳があり、脳の機能として"考える"ことが行われているのです」

レイモンド氏の主張は明解だ。フィジカルにしてもメンタルにしても抽象的な言葉を使わず、サッカーの言葉でサッカーの現象を分析し、説明する。では、サッカーのプレーにおける"考える"とは、具体的にどのようなものだろうか。そこを紐解くためにはサッカーの構造を分析し、理解する必要がある。

「まずはサッカーの分析について話をしましょう。プレー中、選手同士は常にコミュニケーションをとっています。たとえば、ボールを持っている選手に対して、別の選手が縦のコースに走り、パスを受ける動きをします。あるいはボールを保持するために、GKがDFに『ボールを下げろ』と指示を出す。これもコミュニケーションです」

サッカーはチームスポーツのため、攻撃時、守備時、攻守の切り替え時など、ピッチのいたるところでコミュニケーションが行われている。これは言葉を使うもの(指示など)と言葉を使わないもの(ジェスチャーや動き、表情など)に分かれている。

そして、チーム内のコミュニケーションのベースとなるのが戦術だ。選手はチームの戦術をベースにピッチ内の状況を認知し、判断すると同時にプレーの実行に移していく。つまり選手はプレー中「考える→動く」ことを繰り返し行っているのだ。

レイモンド氏は「プレー中の思考には2つの種類がある」と言う。

「サッカーの思考には2つの要素があります。それは"アクションの最中の思考"と"アクションとアクションとの間にある思考"です。ではまず、"アクションの最中の思考"について説明しましょう。みなさんのチームにも、このような選手はいませんか? 練習中はゴールを決めることができるのに、試合になるとシュートを外してしまう。練習中、GKと1対1の場面で得点することができるのに、試合になるとできなくなる。この選手が技術的、体力的に問題がない場合、"思考"が失敗要因のひとつになっていると考えられます」

■思考の問題を解決するフットボールブレイニング

練習で失敗したとしても、またチャレンジすればいい。しかし試合中は違う。ミスは試合の結果に直結する。選手の思考としてよくあるのが「ここでミスをすると試合に負けてしまうのでは」「失敗すると交代させられるのではないか」と考えてしまうことだ。

レイモンド氏が説明する。

「つまり、練習でできることが試合でできない選手の多くは、プレーのアクションを起こしている最中、思考が別の所を向いています。思考の問題は、プレーアクションの直接的な問題ではありません。選手がゴールを決められない直接的な理由は、プレーアクションの中にあるのです。たとえば"上手くキックをすることができず、GKの方にボールが行ってしまった"といったように。練習ではうまく蹴れていたのに、試合になるとできなくなる。そこに間接的に関わっているのが、サッカーの思考なのです」

レイモンド氏は「思考の問題がサッカーの問題に間接的に関わることによって、その選手が失敗してしまう構造がある」と言う。では、どうすればこの問題を解決できるのだろうか?

「解決方法は、選手が"思考をコントロール"することです。選手自らが思考をコントロールすることができれば、試合中GKと1対1になったとしても、サッカーに集中してアクションを起こすことができ、正しくボールを蹴ることができるようになるでしょう。そうすることで、ゴールを決める可能性が上がります」

練習でできることが試合でできない。それは世界中で見られる光景だ。そのとき、多くの指導者が『彼は自信がない』『精神的に強くない』『失敗を恐れている』といった言葉を口にする。レイモンド氏は「これらの客観性のない、主観的な言葉は何の意味もありません」と断言する。

「なぜなら、選手の具体的なプレーのアクション、思考について何も言及していないからです。これらの言葉はグレーゾーンを作り、選手自身に責任がない状況を作ってしまいます。自信という主観性のない言葉を使うと、選手に逃げ道を作ることになります。試合中、何について思考するかを決めるのは、選手自身なのです。思考をコントロールするために必要なのは、サッカーの状況で脳をトレーニングすること。それがフットボールブレイニングなのです」

ではトレーニング中、どこにスポットを当ててトレーニングしていけばいいのだろうか? フットボールブレイニングの具体的な方法は、次回の後編でお届けする。

「フットボールブレイニング」のすすめ/レイモンド氏ウェビナーレポート(後編)>>

■2月18日(水)開催ウェビナー「ユースアカデミーと成長期におけるピリオダイゼーション」

ワールドフットボールアカデミー主催の次回ウェビナー(オンラインセミナー)が2月18日(水)に開催されます。テーマは「ユースアカデミーと成長期におけるピリオダイゼーション」について。

成長期のサッカー選手に起こる問題の解決策や、成長不良やそれに伴って起こるケガを予防する方法、さらには育成年代で才能ある選手がどのように発掘され、トレーニングされるべきかについてが紹介される今回のテーマは、育成世代にかかわる指導者の方々でしたら絶対に知っておきたい内容です。

前回のウェビナーより受付締め切りまでにお申し込みさえいただければ、もし当日に受講ができなかった場合でも、後日お好きな時間に録画セッションにてご受講いただけます。

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