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状況によって使い分けるチームビルディング / 福富信也氏のチームビルディング論[後編]

COACH UNITED ACADEMYでは、4月からの新学年・新チーム立ち上げを控える指導者のための「チームビルディング」をテーマに動画を公開中です。東京電機大学理工学部・サッカー部監督の福富信也氏による講義は、育成年代のチームビルディングにおいて有効な「新チームを効果的に作り上げるための理論」について。今回の後編では、「状況別チームビルディング」の課題と解決策を、自身の経験も交えてわかりやすく解説されています。(取材・文/COACH UNITED編集部)

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■「変化がないチーム」がはまる落とし穴

講義の前編で福富氏は、効果的なチーム作りのための大原則として、「仲間をリスペクトすること」と「すべての言動がチームの成長につながっていること」の2つを提示し、それらを噛み砕いたときに直面する「平和なチームとは」「理想的なコミュニケーションとは」という課題に対して見解を示しました。今回の後編では、こうした原則を前提としつつ、新チームの状況に応じたチームビルディング論が展開されます。新チームの状況とは、大きく分けて「メンバーに大きな変化がないチーム」と「メンバーの入れ替えがあったチーム」の2通り。福富氏はまず、特段メンバーの入れ替えがなかったチームをどうやって発展させていくのか、という問題を提起します。

「私はいつも、東京電機大学理工学部のサッカー部の学生に、『現状維持は後退である』と言っています。メンバーが変わらないからといってやることも変わらないと、選手たちはマンネリに陥りますし、対戦相手もこちらのやり方に慣れて対応できてしまう。だからチームは常に発展させる必要があるのです。そのためには2つの選択肢があって、一つは今までやってきたことの精度を高めるのか、もう一つはクラッシュ&ビルド、つまり今までやってきたことをいったん崩して、もう一度新しいものを構築していくのか、そのどちらかになります」

続けて福富氏は、新生活とともに新しくなる「通勤・通学路」を例に、私たちの「道」の選び方でよく起こりがちな事象を通じて、あるメッセージを伝えています。

「私たちはふつう、会社や学校に遅れず確実にたどり着けるように、初めは無難な道を選びますね。それが徐々に慣れてくると、やがて近道を探すようになります。『あそこの信号でいつも引っ掛かるから、その手前で曲がってみよう』というように。ところがどうでしょう、1回『これだ!』と思える近道を見つけてしまうと、そこから新しいチャレンジをしなくなると思うんですね。これが、人は一定の安心感の中で満たされてしまうという状態です。しかしチームがこの状態だとしたら、果たしてそこから発展していくでしょうか」

あなたのチームが仮に今、居心地がよくぴったりとはまっている状態だとして、これから先どちらの選択肢を選びますか? 精度を高めるにしろ、クラッシュ&ビルドするにしろ、チームを新たに発展させる探求心を忘れなければ目的を果たせることでしょう。しかしあなたがもし、福富氏の指摘する「近道を見つけた状態」に満足しているとしたら注意が必要です。その満足が慢心となる前に、あえて「クラッシュ&ビルド」を起こしてみるというスタンスが必要かもしれません。セミナー本編では、ヨーロッパのビッグクラブを率いて一時代を築いた"あの名監督"が、チームをクラッシュ&ビルドするために着想を得た"あるもの"についてもふれていますので、ぜひご確認ください。

■「変化があったチーム」のピンチをチャンスに変える

状況別チームビルディングのもう一つは、「メンバーの入れ替えがあったチーム」です。具体的には、メンバーの入れ替えによって戦力がアップもしくはダウンする、メンバー間のレベル差が拡がるというようなケースが考えられます。福富氏は、戦力ダウンのわかりやすい事例としてJ1リーグのサンフレッチェ広島を挙げ、優勝した後に主力選手を引き抜かれながらも連覇を果たしたチーム力を、「チームの中で新陳代謝がうまくいっていることの証でしょう。ある選手が抜けたとしても次の選手が出てくるように、レギュラーと控えを分け隔てなく育てる、というスタンスの賜物だと思います」と説明しました。

ここから福富氏は、新チームに経験の浅い選手が入ったケースを想定し、現場で起こりうるトラブルを具体例で示しながら指導者のとるべきスタンスを説いていきます。

「経験の浅い選手にボールが入ったときに、1対1でことごとく奪われる、ビルドアップもうまくいかない、守備で背後を取られて崩される...というようなことが起こるとしましょう。そうすると、チームの中で上手な中心選手たちはイライラします。特に子どもたちの場合、『アイツがいるから負けるんだよ』とか、『アイツにパスを出さない方がいいんじゃないか』というようなことを言いかねません。一見すると、チーム崩壊のピンチです。でも私は、そんなときこそチームに『真のリーダーを育てるチャンス』だと考えています」

この逆説の意図について、福富氏は「リーダーとフォロワーの逆転現象」という表現で解説していますが、詳しい内容はセミナー本編をご覧ください。できればご自身が指導されているチームの新しい顔ぶれやメンバー同士の相性などから、ピッチ上に現れる「リーダーとフォロワーの関係」を思い浮かべつつ視聴していただくと、より臨場感をもって多くの気づきを得られるでしょう。さらに後編の最後には、2回の講義で解釈が難しいと思われるポイントに対する質疑応答も収録。「就任直後の選手との関係性構築」「指導者としてのあり方や振る舞い」「チーム作りの原則を導入する初期のトラブルと対処法」など、指導の現場で起こりがちな問題をどのように解決すべきか、福富氏がわかりやすく回答しています。

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福富信也(ふくとみ・しんや)
1980年3月23日生まれ。信州大学大学院教育学研修科修了(教育学修士)。横浜F・マリノス育成コーチを経て、東京電機大学理工学部へ。専任教員として教鞭を執る傍ら、電大サッカー部監督として指導の現場に立つ。大学院時代に専攻した野外教育をヒントにスポーツへの応用を試み、独自の「チームビルディング」理論にもとづくプログラム設計から現場装着まで幅広く実践。現在は、S級コーチ養成講習会で年間を通じて講義・実技を担当しているほか、Jリーグトップチームから育成年代のチームまで幅広く指導するチームビルディング指導の第一人者。著書に『「個」を生かすチームビルディング チームスポーツの組織力を100倍高める勝利のメソッド』がある。