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指導スタイルはどこから作るのか?/山口素弘氏のチームビルディング各論

3月のCOACH UNITED ACADEMYは、4月からの新学年・新チーム立ち上げを控える指導者のための「チームビルディング」をテーマにお送りしています。Jリーグの横浜FCで2012年から3年間、チームを指揮してきた山口素弘氏が理想とするチーム作りとは――。後編となる今回は、プロの現場で起きた具体的なエピソードを交えながら、山口流チームビルディングのプロセスについて解説しています。(取材・文/小須田泰二)

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■まずは目指すチームスタイルを提示すること

2012年から3シーズンにわたってJリーグの横浜FCを指揮してきた山口素弘氏。実際にプロの現場でどのようなチーム作りをしてきたのでしょうか。「まずは何から着手すべきなのか?」という問いに対して、山口氏は「まず選手たちに目指しているチームスタイルを示すべき」だと主張します。

「チームを立ち上げるにあたって、『どういうチームにしたいのか』ということをはっきりと選手たちに示してあげることが重要だと思います。『チームのスタイルとは何か』を示すということです」

例えば、ポゼッションを重視したサッカーを目指すのか、カウンターを強みとしたサッカーを志向するのか。指導者(監督)が思い描くチームスタイルのビジョンを明確に伝えることが大事だと語っています。

「自分はこういうプレーをチームに求めている」。それをはっきりと示してあげないと、選手たちはどうすれば試合に出られるのか分からなくなります。試合に出るための条件にもなる"判断基準"なので、目指すチームスタイルは絶対にブレてはいけないものだと強調される姿が印象的でした。

■山口流育成スタイルの基本は"個性+柔軟性"

チーム作りというものは一筋縄ではいきません。山口氏も他の指導者と同様に、理想と現実のギャップをどう埋めるかに頭を悩ませ続けてきたと言います。理想とするチームスタイルを構築しながら、いかに選手個々の特長を引き出すことができるか。その一点に集中すべきであるというのが、山口氏のたどり着いた答えでした。

「育成年代のチームでは、選手が必ずしも揃っていないという問題があるかと思いますが、仮にFWに大きな選手がいたとしても、その特定の選手に合わせてサッカーのスタイルを変えるべきではないと考えています」

これは少し意外でしたが、特に"柱"となるキーポジションは作らないとのこと。攻守の入れ替えが目まぐるしい現代サッカーにおいて、ひとつのポジションさえできれば良いという考え方ではもはや通用しない...そのために育成年代からさまざまなポジションを経験させることの方が重要な時代であると、自信の経験をふまえて感じ取っているようでした。

「DFに関して言えば、いまは守るだけではなくて攻撃の第一歩としての役割が求められています。逆にFWであれば、ただゴールを奪うだけではダメで、前から守備もできなければなりません」

スペシャリストとしての強みを持ちながら、いろいろな状況に応じて柔軟にプレーすることを求められる現代サッカーでは、育成年代からも"個性+柔軟性"を大事に育てることが、育成の基本スタイルであると山口氏は考えているのです。

■元日本代表キャプテンが語る「理想のリーダー」とは?

チーム状況を分析したうえで、チームを完成形へと近づけていく。そのプロセスを進めていく中で、どんな要素を重視してトレーニングを積み重ねるべきか――。その問いに対して、山口氏は間髪入れず「常に競争意識を持たせること」だと言います。

「(チームに競争意識があるからこそ)選手は『こういうプレーができたから試合に出られた』と思えるし、他の選手から見ても『あそこで頑張っていたから出られたんだな』と納得することができます」

さらにチーム内に競争意識を植え付けることで、「トレーニングで手を抜いたら試合には出られない...」というメッセージがチームに波及し、トレーニングの中でチャレンジすることを恐れなくなるという好循環も生まれてくる、と山口氏は言います。チャレンジの重要性――。再び、前編でも主張していた山口流チームビルディングの原点へとたどり着くわけですが、残念ながら記事でお伝えできるのはここまで。続きはセミナー本編でしっかりと解説していますのでぜひご覧ください。

また、現役時代には日本代表でも長年キャプテンマークを巻いてプレーしてきた山口氏。キャプテンの選び方やその素質の見抜き方など、独自の「リーダー論」についても触れていますので必見です。

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山口素弘(やまぐち・もとひろ)
1969年1月29日生まれ。群馬県出身。前橋育英高時代に群馬県代表として国体に出場、東海大学時代は大学選手権でMVPを獲得するなど活躍。全日空から横浜フリューゲルス、名古屋グランパスエイト、アルビレックス新潟、横浜FCでプレー。プロとしてのリーグ現役生活17シーズン中、14シーズンで主将を経験した類稀なキャプテンシーの持ち主。危機管理意識の高い守備と、一蹴りでチャンスを演出する秀逸なパス、卓越したゲームコントロール能力を持ち、日本サッカー界における"ボランチ"の始まりと称される。フランスW杯アジア最終予選第3戦、国立競技場で行なわれた韓国戦でのループシュート、ジョホールバルで行なわれたアジア第3代表決定戦で、勝利に貢献した歴史的インターセプトなど、記憶に残るプレーも多い。指導者としては2010年、日本サッカー協会公認S級ライセンスを取得。2012年に横浜FCの監督に就任し、J1昇格プレーオフに進出。約3シーズンを務め、2014シーズン限りで退任した。