03.24.2015
「魅せる」チームはこうやって作る!/FCトリプレッタ代表・米原隆幸氏のチームビルディング 後編
前編ではチームビルディングの理論編として、「選手とコーチの関係性」「メンバー選出の仕方」「指導計画の立て方」について話を聞いた。後編はFCトリプレッタでの実践編として、米原氏が実際に行っているチームビルディングのプロセスを紹介。1週間のトレーニングメニューの立て方など、これまでの指導内容を具体的に見直す貴重なヒントが見つかるはずだ。(取材・文・写真/隈崎大樹)
■1週間の指導計画をどう立てればよいか?
「基本的な1週間のスケジュールは『月曜トレーニング・火曜OFF・水曜フィジカルトレーニング・木曜トレーニング・金曜OFF・土日曜試合』となっています。ここでポイントになるのは、しっかりと休息日を設けるということ。心身ともにフレッシュな状態でトレーニングや試合を迎えることができるバイオリズムを整えてあげます。同時に、彼らが学生であることも忘れてはなりません。学業をしっかりこなせてこそ、思い切りサッカーをやる資格があると私は思っています。手前みそになりますが、自分の教え子の中に、サッカーをやりながら有名国立大学や医学部に進学した選手がいるんです。そういう選手に触発されて他の選手も意識が高くなり、チーム全体に文武両道の精神が芽生えていくのだと感じました」「土日に試合を行った翌日にトレーニングを組み込む」のには、特別な理由があるという。
「月曜日のトレーニングは試合に出られなかった選手、上手くパフォーマンスできなかった選手のケアに当てる日です。土日、試合に出ることができず月曜日がOFFだと、その選手のモチベーションは下がったまま新しい週のトレーニングに突入することになります。口が下になっているコップを上向きにし、水を注ぐことができるようにするのと同じで、サッカーを学ぶ姿勢を整えることもコーチの役目。この月曜日のトレーニングでは徹底してそうした選手のケアに当たっています。あとは、試合でケガをした選手の様子の観察です。試合をしている最中や直後だとわからなかった損傷部が、翌日わかってくることがありますよね。そういうコンディションの選手を発見する日でもあるのです」
■どのようにトレーニングを作り、評価するのか?
「チームのテーマは『観ている人を魅了する、攻撃的フットボールを目指して』。サッカーの楽しみはボールを支配し、自分たちが主導権を握ってゴールを決めることに尽きます。それを追求することで、観ている人を魅了するサッカーが完成すると考えています。ただし"魅せる"という言葉は派手な技を使うこと、という意味ではありません。チームとして心地よくプレーできること、それが魅せるプレーだと私は考えています。心地よいプレーとは、試合の中で個人と組織のプレーがリズミカルに折り合い、選手が自分たちで試合のテンポを変化できること、それが魅せるプレーです。もちろん、その中に即興性のあるプレーで観客を湧かせることがあっても素晴らしいと思っています。しかしそれは、あくまでも心地よいプレーができてこそのものと考えています」では、そのようなサッカーを実現させるために、トリプレッタではどのようなトレーニングを実践しているのだろうか。
「大切にしているのは『トレーニングは2人以上でできるオーガナイズを作成する』こと。そして『サッカーに必要な要素をバランスよく採り入れて選手に刺激を与える』ことの2つです。サッカーとは、必ず人と関係性を持ちながらプレーするスポーツなんです。ボールを持っている選手が何も考えず、一人でドリブルばかりしていてもサッカーを深く理解できる、上手くなれるとは思えません。コーチは選手に、試合・トレーニングの中で『どのように人と関われば面白いサッカーができるか』ということを考えさせることが重要なんです。なので、トレーニングのオーガナイズをするときには、ドリブルだけ、パスだけといった単独のスキルに多くの時間をかけるトレーニングは行いません。極端な話、そのようなクローズドスキルはチームトレーニング以外の時間でできますし、ウォーミングアップに取り入れるなどすれば十分な場合もあります。ただし、こういった基本スキルのトレーニング時間を無くせといっている訳ではありません。『ボールを蹴る・止める』ができてこそグループのトレーニングができる。基礎ができていない選手はコーチがサポートして、一定レベルまで高める必要があるのです」
選手の成長は、コーチ経験を積んでいないとわかりづらいもの。どんなトレーニングをさせればよいか迷うところであり、できれば選手の上達度について数値化したいと考えるものだ。その点でジュニアには、リフティングの回数で選手を評価するチームがあると耳にする。回数によって「きみは上手、あなたは下手」と決めつけてしまうコーチ。しかも理由が「回数」という、サッカーというスポーツの本質に直接関係のない要素で、である。このテーマについても米原氏はこう話す。
「育成年代で評価すべきポイントは、『その子の成長度を総合的に判断すること』です。成長の着目点は無数に存在しますので、コーチはできる限り評価できる『引き出し』を持ち、現在と未来でどれだけの変化があったのかを確かめることが重要です。トリプレッタの特徴は、とにかく対外試合を多く計画すること。ユースに関しては年間200試合以上の対外試合を行っています。やはり選手は試合が好きですし、何より保護者や観客から"見られている"環境を作り出すことで、選手のモチベーションを上げる効果が得られます。実は、夏休みに"トレーニングだけ"という日はないんです。すべて練習試合、その隙間時間でトレーニングを行うようにしています。つまりM(マッチ=試合)とT(トレーニング)をセットで行うようにしています。特に真夏の猛暑が続く時期には、この『MTセット方法』が、選手たちの夏バテ予防にもつながるように思います。自分が子どもの頃を振り返っても、ずーっと走るだけのトレーニングは楽しくありませんでしたからね(笑)。"サッカーが上手くなるためにはサッカーをする"。シンプルな結論ですが、トレーニングの内容を考えるときは一度原点に戻ると、バランスのよいトレーニングができます。海外のトレーニングも意外とシンプルなものが多かったりするんですよ」
巷には、サッカーのトレーニングメニューが紹介されている本があふれている。あれもこれもと手を出すのはいいが、基本は「サッカーは楽しい」という本質を伝えること。とりわけ育成年代では、その原点を踏まえてトレーニング計画を立てていきたい。
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取材・文 隈崎大樹 写真 隈崎大樹