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【CUA講義録】「チームの心が動くとき」とは?/チームビルディング~機能するチームのつくり方~THEME1「リチーミングとチームづくりのプロセス」前編

これまでCOACH UNITED ACADEMY(以下CUA)が提供してきたセミナー動画は全53編(2015年3月時点)。今回はその一部をテキスト形式の記事として体験いただく【CUA講義録】の第1回として、「チームビルディング~機能するチームのつくり方~」をお送りします。THEME1の主題である「リチーミング」(Reteaming)は、北欧の教育大国フィンランドで生まれたチーム再生プログラム。リチーミングコーチを養成する国内唯一の認定機関であるランスタッド株式会社EAP総研の川西由美子所長による、サッカーのチームづくりに応用できるリチーミングのノウハウを"ご試読"ください。(講義/川西由美子 構成・文/COACH UNITED編集部)

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■リチーミングとチームワーク行動の関係

みなさんは日常的に『チームワーク』という言葉を使っていると思いますが、心理学では『チームワーク行動』という言葉を使います。ここでは人間の心が動かないとチームワークで行動ができないということを言っていて、あるチームを形だけつくったとしても、「明日からチームワークしなさい」と言ったところでどう動けばいいかわかりません。そこでチームワークをつくるときに重要なポイントが『体感する』ということです。

チームワークを体感し、チームワークで行動をとれるようになるメカニズムで重要なのが、『心が動く』という状態です。具体的には「このチームにいると優勝できるんじゃないか」もしくは「自分の技術がうまくなるんじゃないか」といった期待感ですね。あとは、いろいろ辛いことがある中でも、何かチームに引きつけられる魅力を感じるということ。それはコーチがチームに向ける愛情かもしれないですし、一緒にチームを構成している仲間といて楽しいと思う気持ちかもしれません。何を魅力と感じるかは人それぞれですが、何かに魅力を感じない限り、チームワークとして行動がとれません。そしてもうひとつ重要なのが、「信頼して安心できるチームかどうか」ということです。自分が落ち込んだときにサポートしてくれるとか、悩んでいるときにアドバイスしてくれるとか、そういう安心感があるということ。これが人の心を動かし、チームの心を動かすことになるのです。

チームワークで行動できたとき、結果としてどんなことが起こるかというと、まず自然とコミュニケーションがうまくなりますので、コーチが話した言葉をすぐに理解できるようになります。また選手同士でお互いを支えたり助け合ったりというコミュニケーションもできるようになる。調子が悪そうなメンバーの役割を変わってあげたり、休んでいたメンバーに連絡事項を伝えてあげたり、あるいはコーチに怒られて落ち込んでいるメンバーに「こういう意図で言ってるんじゃないかな」と自分の考えを伝えたり――。チームワークで行動することで、サッカーに必要なメンバー同士の連携や協力が育まれていくのです。

■チームの心を動かすときのポイント

チームの心を動かすときのポイントは、まずチーム全員の意見を聞き出すということです。それもコーチが選手たちと1対1で聞くのではなく、選手たちを集めてチームの中で一人ひとりの意見を語らせるということですね。そしてただしゃべるだけでは日常会話と変わりませんから、もうひとつのポイントはノートとペンを用意させること。自分の考えを語ってもらい、チームメイトの言葉をノートに書き込んでもらう。そうすると、自分では正確に伝えているつもりでも、それを書いてみた誰かが「君の言ってること、ここがよくわからないよ」という部分が出てくる。それを確認し合うことによって理解度が深まるわけです。ですから、まず選手たちのいろいろな思いをみんなで共有して、「あいつはこういうことを思ってるんだな」という気づきを共有する体験が大事です。そのあとで、バラバラだった思いをある一方向にまとめていく。チームの心を動かすとはこういうことなんですね。

ところがです。コーチも選手たちも日々のストレスがある中で、いまのチームが抱える課題についてみんなでディスカッションするだけで、「僕たちこうしよう」という答えがすぐに出るわけがありません。ここを一歩進めるときのテクニックが、次のポイントになります。

■問題の意識化の必要性

一人ひとりに課題があるということは、それぞれがストレスを持っているということなんですね。ですからまずコーチは、ストレスについて最低限の知識をインプットする必要があります。それが『ストレス氷山』という概念です。"氷山の一角"という言葉もありますが、実は海面から出ている氷山の割合は2割から3割で、その下に7割から8割沈んでいる。ある人が「これストレスだな...」と感じるのが2割から3割で、その下に本人は意識していないところでストレスとして反応が出てしまう部分が隠れている。たとえば、今までとても元気で発言も豊かだった子がいきなりしゃべらなくなったりとか、練習メニューについてとコーチがしっかりと伝えているにもかかわらず何かいつも反発してくるとか――。本人ですら気づいていないストレス反応の例ですね。

そこで、先ほどのチームワーク――みんなで輪になって何が問題か意見を語り、書き出す時のポイントが、「みんなストレスを持っている」ということを自覚することです。コーチ自身も含めて(笑)。その前提でワイワイガヤガヤ自分の意見を言うだけで、十分にストレス発散になるんですね。そうすることで、気づいてない海面下のストレスもどんどん表に出てくるようになりますので、とにかくコミュニティをつくって話させる、ただしノートにメモを取ってしっかりと聞き取らせる。それが重要です。そうすることでストレスケアを行いながら、チームの問題を意識化することが可能になります。

この『ストレス氷山』のモデルでもうひとつ説明しましょう。輪になっていまの問題をディスカッションして、チームメイトの意見もノートに取らせる、わからないところは質問させる、ということを通じて他人のストレスが認識され、自分の奥に詰まっている氷山も表われてくるということがあります。実はこれが非常にいいことなんです。つまり、一人で考えて語るときには氷山の2割のところしか話せないのに、チームで語るとみんなの声がきっかけとなって、まだ顕在化していないけれどもフツフツと思っていることが出てくる。これが問題の表面化というわけです。

逆に、こうした問題にフタをしてしまうチームというのはよくありません。チームを強くするときにはまず足元を固めるということが重要で、そのためには多少の痛い思いもする。それが重要なんです。コーチとしてはチームの課題とか選手の本音というのはできれば聞きたくないものかもしれませんが、そこを吐き出してこそ強いチームがつくれるのです。

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川西由美子(かわにし・ゆみこ)
リチーミングコーチ、キッズスキルアンバサダー。リチーミングコーチを養成する日本で唯一のトレーニング機関であるランスタッド株式会社EAP総研の所長を務める。多くのリチーミングコーチを育成し、日本での普及に努める。自身も数多くのアスリート、企業所属のスポーツチームをサポートした経験を持つ。