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「日本の子どもはサッカーを知らない」の真実/FOOTBALL LEADERSワークショップレポート 後編

指導者の学び・交流の場として活動が行なわれている『FOOTBALL LEADERS』(以下、FL)が、『U-12ジュニアサッカー ワールドチャレンジ』(以下、ワールドチャレンジ)をテーマに開催した月例ワークショップ。今回はスピーカーのスポーツライター・大塚一樹氏に加え、海外経験が豊富でアーセナルSS市川の代表を務める幸野健一氏、スペインのバルセロナで日本人留学生の受け入れや現地でのコーディネート業を営む『MOVEMENT GLOBAL FOOTBALL』代表、FIFA認定エージェントの植松慶太氏も交え、国内外の視点から貴重な実体験が語られた。(取材・文/鈴木智之 写真/FOOTBALL LEADERS)

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■バルサの選手たちはサッカーを知っている

前編に続き、スポーツライターの大塚氏が『ワールドチャレンジ』で見たバルセロナの選手と日本の選手の違いについて見解を述べる。

「FCバルセロナの選手たちは、サッカーを知っている印象を受けました。たとえば、相手が前からプレスをかけてくるのであれば、ボールの動かし方を変えてシンプルに相手の背後のスペースを狙って攻めていく。『パスをつないで攻める』というコンセプトはあるのですが、それだけでなく臨機応変に戦い方を変えることができていました」

大塚氏によると、チームを率いるマルセロ・サンス監督は、選手たちに「こうやって攻めなさい」という具体的な指示は出していないという。

「サンス監督に、試合中、選手たちに指示を出したのか?と聞いたのですが、『相手がどうしているかは伝えましたが、自分たちがどうすればいいかは伝えていません』という答えでした。ワールドチャレンジのバルセロナは、前半と後半で多くの選手を入れ替えていましたが、おそらく後半から出場した選手たちは、ベンチで見ているときに対応策を考えていたのでしょう」

ゲストスピーカーとして登壇した、アーセナルSS市川代表の幸野健一氏は語る。

「海外の育成年代のトップレベル選手と日本の選手を比べると、個人戦術も含めてサッカーを相対的に捉える力にまだまだ差があると感じています。サッカーは90分を通して『起承転結』があるスポーツです。本来は時間帯、点差、状況を考えてプレーをするべきなのに、日本の選手はどんな状況でも同じようにプレーしています。それは、多くのサッカー少年たちが、毎週末テレビやスタジアムでサッカーを見る習慣がないからだと思います。JFAアカデミー福島のテクニカル・アドバイザーを務めていたクロード・デュソーさんが言っていたのは、『日本の子どもたちはサッカーを知らない』と。例をあげると、ポジションの役割を叩きこまれていない。サイドバックはどう動くべきか、中盤は、FWは、といったベースの部分が低いと言っていました。それこそ、スペインはジュニア年代からベースとなる個人戦術を教えますし、それを4種年代で身につけて、上のカテゴリーに進んでいくのです」

バルセロナに拠点を持ち、日本人留学生の受け入れや現地コーディネート業を営む植松慶太氏は、日本とスペインとの違いについて次のように述べる。

「私は13年間に渡って、下は7歳から上は大人まで何百人もの日本人を受け入れてきましたが、日本人の少年や若者の守備に対する意識、技術、アグレッシブさが、決定的に世界の若者と比べて不足している部分だと思います。球際の激しさだったり、ボールを保持している相手に対して好きにやらせまいとするジャマの上手さだったり、ボディコンタクトの厳しさだったり、とにかく相手からボールを狩り獲るんだという意欲、気合、情熱、粘り強さ...そういったものが決定的に違う。日本から多くの若者がスペインへ挑戦に来ていますが、この守備の意識の部分で評価を下げる選手が圧倒的に多いのが現実です。逆に、日本からも稀にアグレッシブに守備を頑張れる選手がやって来ますが、そうした選手はおおむね監督から重宝されています」

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photo by jhderojas

■スペインで通用しない日本のドリブル

植松氏によると、FCバルセロナをはじめスペインで主流になりつつある『パスをつないで攻めるスタイル』の裏側には、激しい守備が及ぼす影響があるという。

「スペインの子どもたちだって、本当は格好良いドリブルをガンガンやりたい。でも相手の守備が屈強で、なかなか好きにやらせてもらえないから、より効率的な方法として巧みなパスワークが生まれてくるのです。逆にいえば、そうした"荒々しい荒野"のような環境で生まれてくるドリブラーこそは、世界の激しい猛者たち相手でも通用する"真のドリブラー"なのです」

このスペインにおける"ドリブル観"に対して、植松氏が語ってくれた日本人選手のエピソードはあまりに対照的だ。

「日本から来るジュニア世代の若者に『得意なプレーは何?』と聞くと、大抵は『ドリブル!』という答えが返ってきます。ですが、実際にスペインの子どもたちと対峙すると、5回に4回は得意なはずのドリブルが引っ掛かってしまいます。そこで『何が違うの?』と尋ねると、『スペイン人のディフェンスは激しい! 球際が強い!』という答えが返ってくる。つまり、日本の子どもたちが頑張って身に付けている個の力としてのドリブルは、世界で通用するレベルで鍛えられていないということです。世界で通用するドリブラーを育てたいのであれば、ターゲットとなる相手、つまり対峙するディフェンスのレベルも高くなければいけないということです」

植松氏は日本サッカーの将来を案じ、あえて厳しい指摘を続ける。

「本来であればスペインの子どもたちのように、激しいボールの奪い合いの攻防の中で、身体を上手く使ったボールの持ち方なども鍛えられる訳ですが、日本の緩いディフェンス環境ではその必要性がないためか、しっかりと身体を入れてボールキープする技術などが低いのが日本人選手の特徴です。こうした厳しいディフェンスの意識、環境、文化の構築は高校や大学からでは遅過ぎます。ぜひともジュニア世代から、こうした厳しく激しい守備の文化を楽しく戦う中で作り上げて行くことが、育成指導者の急務だと思います」

日本では激しい守備と汚い守備が混同されがちで、とくに4種年代のレフェリーは過剰にファウルを取る傾向が強い。球際の激しさ、守備の厳しさを身につけるのであれば、日頃の練習や試合での指導だけでなく、レフェリーの啓蒙も重要になるだろう。

今回のワークショップでは、スピーカーの他に参加者である指導者からの活発な意見が飛び交っていた。ここに集まる指導者は「どうすればもっと子どもたちが成長できるか」を考え、指導のレベルアップを探求していく熱心な人たちばかりである。彼らのような指導者が増えていくことが子どもたちの成長をもたらし、ひいては日本サッカーの強化につながっていくのだろう。