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日本の子どもたちは「筋力」が足りない!克服のヒントは国技にある?

今回取材をお願いしたのは、筆者が所属する社会人リーグのチームメイトで、トレーニングスタジオ「ラダースポーツ」のトレーナーでもある吉田正弘氏(写真左)。取材を依頼した理由は、彼がつぶやいたこんな一言からだった。「やっぱり子どもたちの筋力が弱いんだよなぁ。いい技術は持っているんだけどね。あれじゃあいくら同じ年代でも、海外クラブの下部組織の子と対戦したらアタリ負けするだろうね」。実際に昨年の『U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2014』でも、もともとの体格差はもちろん、接近戦で飛ばされて態勢を崩しているのはほとんどが日本の選手たちだった。幼くして生じているこの「差」について、吉田氏に語ってもらった。(取材・文・写真/隈崎大樹)

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■"軽自動車"では"ダンプカー"に勝てない

吉田氏が所属する「ラダースポーツ」には、Jリーグでプレーするプロ選手も通っているという。だがそのレベルで"すら"筋力が足りないというのが氏の見解だ。

「まず腕を使えない、空中で競れない、フェイントなどのパワフルなプレーができない、といった点から見ても、まだまだサッカー選手に必要な筋力が足りていないと感じますね。私は高校卒業後、アルゼンチンの2部リーグへ渡り、プロとしてプレーをした経験があります。そのとき感じたのは、自分では精一杯強くあたっているつもりでいるのに、自分自身がその衝撃に耐えられずに跳ね返されてしまうという感覚。外国人選手はまるで岩のような感触でしたし、こちらのダメージは相当なものでした。そのとき『これは本気でトレーニングをしなければヤバイ』と思わされましたね」

私もパラグアイでプレーしていた当時、同じような経験がある。それはこんなふうに想像するとわかりやすい。「スピードが乗った状態で衝突したとき、自分と相手はどんな車なのか?」。もし自分が"軽自動車"程度のパワーで"ダンプカー"の相手にあたりにいけば、それこそ命取りだ。事実、私自身がダンプカーのように強靱な選手とあたったとき、目の前が真っ暗になり気を失いかけたことがある。これを克服するためにはやはり何を押しても"三種の筋トレ"──腕立て・腹筋・スクワットの筋力トレーニングが本当に大事だと悟った瞬間である。

これは私の持論になるが、海外の子どもたちに比べて日本の子どもたちの筋力が足りないのは、公園事情によるところが大きいのではないだろうか。たとえばパラグアイでは、街中にあるどこの公園でも、子どもたちがボール遊びやサッカーをしている光景が日常だ。それはアルゼンチンでも同じだと吉田氏は言う。

「日本の子どもたちはある意味不利ですよね。これは仕方のないことですが、特に東京のような密集地では公園でできることが少なすぎます。そうなると子どもたちはゲーム機を持って、大人しく対戦ゲームに勤しむしかないですからね」

■日本人だから...といって体格差を言い訳にしない

こうした背景と筋力トレーニングにどんな関係があるのか――持論を続ければ、子どもたちは「ボールを蹴る」ということに飢えているのだと思う。私が通訳兼コーチをしていたチームでも、まずはボールを蹴ることに注力していた。もちろんそれは仕方のないことだろう。高い月謝を出しているというのに、腕立てやスクワットばかりで、ボールを蹴る技術を教えてくれないとあっては不満が出て当然だからだ。

しかし、あるときアルゼンチンのジュニアユースの練習風景を見る機会があって驚いた。彼らは中学生ながら、自主的にウエイトトレーニングを行なっているのだ。聞けば、ボールを蹴るのはどこでもできるとのこと。だからここでしかできない練習をしているのだという。これでは日本と真逆ではないか...と危惧を覚えたものだ。

こうしたトレーニング習慣の違いだけでなく、体格差や体力差という側面もあり、海外でプレーした人間なら必ず一度はコンプレックスを感じるものだろう。やはりどう見ても、骨格や筋肉の付き方、種類が違うのだ。ではだからといって、日本人はどうやっても海外選手に太刀打ちできないのか? 答えは当然「NO」だ。吉田氏はこんな提言をする。

「日本には国技である『相撲』がありますよね。この競技はぶつかってナンボ、ぶつかってどちらが勝つかという力の勝負をしている訳です。こんなにいい見本があるというのに、サッカーが西洋のスポーツだからでしょうか、相手とぶつからないようにプレーしようという意識が強いように思いますね。サッカーだって実は、ぶつかってナンボのスポーツ。力の強いヤツが弱いヤツを蹴散らし、優位な形でプレーをするということを考えたら、相撲から何かを学ぶべきなんじゃないかと思います」

吉田氏が言うことに、私は一理あると思う。当然、サッカーは力だけの勝負ではなく走ることも求められているため、ただウエイトを上げればいいというわけではない。しかし、美しい四股を踏むあの体幹の強さとしなやかさは、サッカーにおいても十分に有用な要素だと思う。公園でボールを蹴ってはいけなくても、四股を踏んで叱られることはあるまい。0か100かではなく年齢に応じた筋力トレーニングがいかに大事か、それを日本という環境でいかに創意工夫して取り入れていくのか。育成年代の指導者にもぜひ再考いただき、子どもたちをたくましく導いて欲しいと思う。

吉田正弘(よしだ・まさひろ)
1978年9月20日生まれ。埼玉県出身。株式会社ラダースポーツ・トレーナー。高校卒業後、南米のアルゼンチン・パナマ・パラグアイでプレー。現在はトレーニングスタジオ・ラダースポーツでトレーナーとして活動しながら、東京都社会人リーグで現役を続けている。