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DFの「奪取力」を開花させるには? FCトリプレッタ代表・米原隆幸氏の作法

DFというポジションが、いまはっきりと変わりつつある。とりわけメディアで大きく取り扱われるようになったのが「奪取力」だ。これまでのようにただゴールを「守る」プレーから、ボールを「奪う」プレーへと重心が移行している。今回は東京・渋谷区を中心に活動し、キンダーからトップまで約500人の選手を抱える大型クラブFCトリプレッタの代表・米原隆幸氏に、ボール奪取を意識した選手指導について伺った。(取材・文・写真/隈崎大樹)

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■もっと「奪う楽しさ」を体験させよう

サッカーで一番盛り上がる場面といえば、もちろんゴールを決めた瞬間だ。ボールがネットを揺らした瞬間の快感を求め、はじめは誰もが攻撃ばかりに気が向いてしまうのは当然だろう。今回話を聞いた米原氏自身も、高校の途中まではFWとして活躍したプレーヤーだった。ところがそんな米原氏に、ある日突然転機が訪れることになる。

「高校入学後も、当然のようにFWとしてプレーするものと思っていました。しかし、監督からある日『やっぱりおまえはSBだな。よし、今日からSBにコンバートしよう』と突然決められたんです。やっぱりショックでしたよね。家に帰って『なんでだろう?』と自分なりに考えたんですけど、もしかしたらそれは"ボールを獲る喜び"を理解したからなんじゃないか...と前向きに考えるようにしたんです。そう理解することにした私は、オフェンスのボールを偶然の感覚で獲ることでは飽き足らず、『ここで駆け引きしよう』『ドリブルさせて数的有利になったところでチャレンジだ』というように、頭を使った必然のプレーに変わっていきました。猪突猛進のFWからインテリジェンスなDFへと、意識から変わったように思いますね」

かく言う私も選手としてはDFであり、そのポジションだからこその「奪う楽しさ」を感じながらプレーをしている。たしかにDFを言い渡された当時は、攻撃に比べ「キツイ」「痛い」「怖い」といったネガティブなイメージが先行したものだが、本当の守備とは攻撃と同じくらい面白い。「奪う」守備にはそんな魅力が秘められている。

■「一生懸命走る=良い守備」の感覚を捨てる

DFの醍醐味といえば激しタックルやスライディングだろう。チームのゴールを守るため、身体を張ったプレーはまさに"猛将"の証。しかし、それだけでは能力の高いDFとはいえない。そこから先は、インテリジェンスが「差」をつけるポジションとなる。まるで数手先を読んで相手を追いつめる将棋の対局のように、オフェンスを徐々に不利な状況へと追い込んで仕留める。攻撃に対して受け身の状態を跳ね返し、自分たちが優位に立つように戦略を立てる。そんな"知将"でもなければならない。そして"猛と知"の2つの顔を併せ持つDFを育てるためには、指導者は選手が「良い守備」の感覚を持っているかを確認しながらトレーニングさせる必要がある。

「私が指導をはじめた頃は、守備のトレーニングを一切させていませんでした。当時は『攻撃のサッカー』に重きを置いていたからです。守備に関しては『ボールを奪われたら全員で奪い返しに行く』というコンセプトのみを選手に伝えていました。しかし、それでは選手が守備に対して誤った認識を持ってしまうリスクを感じ、現在では守備のトレーニングも行なっています。守備の場合、ただ単に一生懸命走っただけで起こる疲労感を『達成感』と勘違いしてしまう選手がいるのです。たしかに一生懸命走ってサッカーをすれば『戦った』『やりきった』という達成感が生まれます。しかしそれだけで"=守備が上手くいった"とは言えません。頭を使って効率よく守備を行なえば、その分攻撃に力をかけられるのですから。それゆえ指導者は、選手の守備プレーが『最善の策』であったかを見極めて評価していく必要があるのです」

DFの技術向上の方法として、身体が動く若手と頭が切れる年長者を組ませることがある。若手はベテランとのコンビネーションを通じて、円熟したプレーを肌で感じながら"知"のプレーを吸収できる。このように、DFが上手くなるには多方面からアプローチする必要があるだろう。

■ボール奪取に必要な「3つの要素」とは

「ボールを奪うプレー」に秀でた選手を育成するために、米原氏は次のような視点が不可欠だと考えている。

「まず一番はなんといっても『センス』。感覚的な要素ですが、守備が上手な選手は駆け引きや予測といった次に起きる、もしくは起こそうとする状況をイメージしながらプレーをしています。これはやはりその選手が、試合の中でどれだけたくさん頭を使ってプレーした経験を持っているかが鍵といって良いでしょう。このセンスを伸ばす要素こそが、ボールを獲る喜びなのです。次に大切なのが『決断力』。数あるプレーの選択肢からベストのプレーを選ぶことが重要ですが、私はそれと同じくらい"度胸"の良さを見ています。賢いプレーができる選手でも、一瞬の怯みでプレーが遅れてしまってはDFとして成功できません。そして最後は『責任感』。チームのために最後まで走り切ろう、仲間のミスをカバーしなければ...といった利他の精神や、全員で勝利を勝ち取りたいという強い気持ちを持っていなければなりません」

DF育成では技術の向上もさることながら、精神面の成熟が重要だと説いた米原氏。私自身、DFの要としてプレーをしてきた経験を振り返り、なるほどと考えさせられる思いだ。ちなみに「あなたの奪取力は?」と聞かれれば、いまとなっては「そのためだけに生きてきました!」と胸を張れるようになったと思う。というのも南米にいた頃、嫌というほどボールを触らせてもらえず、嫌というほど味わった屈辱の歴史があるからだ。