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サッカーはもっと異競技から学べる!/『コーチ道』公開セミナーレポート

6月9日、「コーチが変わらなければ、チームは変わらない」と題された公開セミナーが行なわれました。主催するのは「スポーツ指導者が競技を越えて、交わり、つながり、成長することで、自らの『軸』を見出す『場』を創る」ことをミッションに掲げる『コーチ道』。今回はアルティメット女子日本代表の森友紀監督をゲストに、さまざまな競技でコーチ、監督として指導にあたる人々が参加したセミナーの模様をレポートします。(取材・文/大塚一樹 写真提供/コーチ道)

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■アルティメットという競技を知っていますか?

「選手の目をちゃんと見てコミュニケーションを取る。それだけで選手の取り組みが変わるんです」。ゲストスピーカーとして登壇したアルティメット女子日本代表の森友紀監督が、朝の挨拶ひとつで選手が変わったという自身の体験を話すと、参加者たちが大きくうなずきます。その向かいで進行役を務める『コーチ道』代表理事の松場俊夫氏もまた、アメリカンフットボールのプロコーチとして日本選手権(ライスボウル)で5度優勝、W杯出場も経験したコーチの一人。世界を知るコーチ同士の"異種交流戦"は、松場氏の次の問いかけから始まりました。

「そもそもなぜアルティメットだったのでしょう?」

みなさんはアルティメットという競技をご存知でしょうか? 1960年代にアメリカで成立した比較的新しい競技であるアルティメットは、フライングディスク(通称フリスビー)を使用し、7人1チームの選手たちが攻防を繰り広げる、バスケットボールとアメフトを組み合わせたような競技です。ルールの運用やジャッジを選手間で行なうセルフジャッジを採用する競技としても有名で、このあたりは原初のサッカーに共通するものがあります。とてもスピーディーで迫力のある魅力的な競技アルティメットの詳細は、日本アルティメット協会の動画をご覧いただくとしましょう。

今回ゲストとして参加された森さんは、女子日本代表選手として大学、社会人、クラブチーム、そして日本代表で優勝を成し遂げ、選手兼任監督から指導者へと歩みを進めたアルティメット界の第一人者です。セミナーでは森さんの競技人生、指導者人生を振り返る「ライフライン」が紹介されましたが、特にアルティメットとの出会いがその後の指導者としてのスタンスに大きく影響を与えたそうです。

■4つのカテゴリで優勝を果たした「実現力」

森さんは中学校ではソフトボール、高校ではハンドボールに打ち込む"スポーツ少女"でした。特に高校で始めたハンドボールは「未経験者を全国レベルで戦うレベルに」というモットーを持った監督の下、いわゆる血のにじむような"部活スタイル"の努力を重ねたそうです。

「そのことには意味があったと思いましたが、いま振り返ると追い詰められていました」。ハンドボールを引退したときに素直に感じたことは「うわぁ、終わったー」という安堵とも言えるような感情。「好きではじめたはずのハンドボールが嫌いになっていた」という森さんは、大学ではまったく別のことをしたいと思っていました。

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スポーツからも距離を置きたいとさえ思っていた森さんの心を動かしたのは、大学入学当初に見たアルティメットでした。「楽しそう!」「新しい!」。見たことのないアメリカンな競技に出会った瞬間、森さんは「これだ!」と思ったそうです。

まったく知識のない状態、さして強豪だったわけでもない自らの大学を、上級生や同級生を巻き込んでどんどん「本気モード」に変えていき、4年生時には大学選手権で優勝。ここでは彼女の現役選手としてのキャリアの詳細は省きますが、「ずぶの素人」だった1年生のときに、すでに学生日本一、社会人日本一、世界クラブ選手権優勝でクラブ世界一、日本代表で世界一の『4つの1位』を目標に掲げ、それをすべて実現してきたというから驚きです。

■より具体的にイメージして結果をたぐり寄せる

セミナーに集まった参加者たちもコーチとして現場に携わる人たちばかり。当日は11競技の指導者が集まったそうですが、コーチ道の公開セミナーはスピーカーの話を聞くだけでなく、参加者同志の交流や自らが指導者としての軸を探るためのワークも用意されています。

「目標設定や目標達成のための施策は?」というディスカッションを近くの参加者とするワークでは、イメージの共有の難しさ、選手に目標設定の具体的なイメージをさせる難しさが語られました。森さんは世界選手権で銀メダルに終わったときと金メダルを獲得したときの比較を例に、「銀メダルのときは圧倒的なアメリカに追いつくことを考えていた。優勝したときは"どんな"世界一になりたいかをイメージして戦っていた」とイメージの変化について語りました。

現在は女子日本代表監督として、2016年の世界選手権制覇を目指している森さん。選手時代よりも「外から」チームに関わるようになって、より選手一人ひとりを観ること、コミュニケーションを取ることの重要性に気がついたと言います。

「年齢にかなり幅があるチームなので、それぞれの競技にかける想いも違う。そこをチームとしてどうまとめていくのか。いま考えているのは『チームがひとつになる』という一点です。そのためならどんなアプローチでもいいから、みんなで出し合って決めていく」

森さんが描く最高のアルティメットは「17点すべて違う攻撃パターンで得点して勝つ」こと。森さんは17点制で争われる試合で選手全員が自分の得意な攻撃で得点する=17通りの得点で勝つことこそ、選手一人ひとりが個性を発揮し、本当の意味で"ひとつになる"ことだと言います。

今回は駆け足でセミナーの様子、森さんのお話を振り返りましたが、『コーチ道』ではこうした公開セミナーのほか、競技の垣根を越えて指導者の視野を広げる経験や試行錯誤を共有する場を多く提供しています。競技にとらわれ「閉ざされた」世界に立ち止まってしまいがちなスポーツ界ですが、他競技・他者からの学びはきっと指導の幅を広げる手段になり得るはずです。

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森友紀(もり・ゆき)
1977年10月15日生まれ。千葉県出身。中学ではソフトボール部、高校ではハンドボール部に所属。成蹊大学入学と同時にアルティメットに出会い、大学4年生の時に創部以来初の全国大学選手権優勝。翌年の日本代表選考に落選し、アルティメット中心の生活に切り替える。カナダへのアルティメット留学を経て、4年後の日本代表に初選出され、その後12年間日本代表入り。2005年全日本選手権優勝。2006年世界クラブ選手権優勝。2008年キャプテンとして出場した世界選手権では一歩及ばず銀メダル。2012年監督兼選手として出場した世界選手権では、アルティメットを始めてから17年目で念願の優勝を果たす。2012年日本代表引退。2014年日本代表女子監督に就任。

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