07.16.2015
U-21欧州選手権から考察するこれからのコンセプト 後編
前編では「選手としてのベース」「戦い方のスタンダード」「国際舞台におけるトレンド」を整理して考えることの重要性についてお話しさせていただきました。後編ではそれらの視点を参考に、U-21年代の欧州における取り組みを探ってみたいと思います。(取材・文・写真/中野吉之伴)
■欧州の中堅国に学ぶサッカー大国への対抗策
6月に開催されたU-21欧州選手権、2大会連続優勝中だったスペインは本大会に残れず、「ニューゴールデンジェネレーション」と称され、下馬評では優勝候補筆頭だったポルトガルは準優勝止まり。また各世代で好成績を残しているドイツはグループリーグでも内容がさほど良くなく、準決勝ではポルトガルに0-5と完敗を喫していました。サッカー大国が苦戦する中、結果だけではなく内容も良かったのが、優勝したスウェーデンを始めベスト4のデンマーク、開催国のチェコといった中堅国でした。彼らのプレーに特別なレシピがあったとは思いません。乱暴な言い方をすれば非常にオーソドックス。しかし個々に攻守における「選手としてのベース」がしっかりとあり、「戦い方のスタンダード」をひと通り身に付け、「国際舞台におけるトレンド」に対応するレベルに達していました。ただしそれだけだと、抱える選手のクオリティが上のチーム相手には対抗することはできても、勝ちきるのは難しい。だからこそ、そこに自分たちの力を発揮できる方向性を見出し、勝てる可能性を自分たちで手繰り寄せなければならないのです。
デンマーク、チェコ、そしてスウェーデンといったチームには独りで状況を打開したり、ボールを奪いきれる選手がいるわけではないので、ユニット、あるいはチームとしての連動性が非常に重要になります。守備では人数をかけて選手間の距離を短くしたコンパクトな守りがポイントとなります。
たとえばドイツでは、この選手間の距離がより広めに設定されていました。各選手の1対1の競り合いへの意欲がドイツサッカーでは重要であり、そこで力を発揮できる選手が求められているからだと考えられます。自分たちに勢いと流れを生み出すために、多少強引にでもボール奪いに行く姿勢を持ち続けることが必要だという背景も確かにあります。ただ、今大会ではそのチャレンジ精神とチーム戦術のバランスが悪かったために、中盤の守備で後手を踏むことが多かったのも事実。最後まで攻守にちぐはぐなまま戦いを続けてしまいました。
さてその一方で、人数をかけて守備をすると攻撃に移行するのに時間がかかることが難点として挙げられます。実際に3カ国とも、相手に押し込まれる時間帯が短くはありませんでした。それでも攻めこまれたからと焦るわけではなく、その時間帯を凌ぐ我慢強さがありました。そしてただ跳ね返すだけではなく、自分たちのチャンスに結びつける術も持ち合わせていました。
たとえばチェコは、サイドを起点とした攻撃に厚みがありました。サイドバック、サイドハーフにボランチやFWが絡み、相手サイドバックの裏スペースを攻略。この攻撃パターンは大会全体を通してほとんどのチームに見られた特徴でもありました。最近の守備戦術ではセンターバックはできる限りセンターにとどまるようになっており、なかなか外に引きずり出すことができません。そこでサイドに起点を作って相手サイドバックを引き出し、そこからスペースにパスを出す。その際、ただまっすぐに裏に抜けると対応されますが、相手センターバックの後ろからこのエリアに走りこんだり、バイエルンでアラバやラームが見せているように、サイドバックがインサイドからオーバーラップを仕掛けたりして揺さぶります。この辺りのコンビネーションがチェコは上手かった。さらにデンマークは中盤の選手のボールを前に運ぶ力を活かして攻撃に変化をつけ、優勝したスウェーデンは高さのあるFWのポストワークを武器にチャンスを量産。シンプルではありますが、ここという形にはまったときのスピードと迫力には素晴らしいものがありました。前述したように、個の力ではサッカー大国に負ける中堅国ですが、堅実な取り組みによって、強豪相手でも粘り強く勝つチャンスを引き寄せるしたたかさは、日本も大いに見習うべき点ではないかと思われます。
■欧州の取組みに見る育成トレーニングへの示唆
ではこうした欧州の取り組みから、日本の育成現場は何を学ぶべきでしょうか。ポイントとして2点挙げてみたいと思います。1.攻守を分けて考えない
良い攻撃とは、狙いを持って守りに来ている相手の対策を上回り、チャンスを作り出して、ゴールを陥れること。雑な守備を相手にどんなに美しいゴールを決めても、それは選手にとってどれだけの経験になるでしょうか。練習ではより厳しい状況を設定した上で取り組むことが望まれます。つまり、狙いを持ってボールを奪いに来る、守備戦術もしっかりしている守備を相手に練習するからこそ、攻めきる本当の力強さやアイデアを身に付けることができるのです。すなわち攻撃の練習時に最もチェックすべきは、まず対戦する相手側の守備対応。そして、集中した守りを見せる相手に対してどうすればチャンスを作れるのかに取り組むことが、攻撃をトレーニングするためのスタート地点と言えるでしょう。
そしてもちろん、「攻撃の練習だから攻撃をする」のではなく、「攻守の切り替え」を常に意識することが肝心です。ボールを奪われたら取り返し、また攻める。そこまでをひとつのサイクルとして考えないと、生きた技術とアイデアとして試合に活用することができません。
2.戦い方のバリエーションを身に付ける
これまでお話しさせていただいたように、育成年代では戦い方のスタンダードを身に付けることが重要になります。気を付けなければならないのは、「ビルドアップ」や「ポゼッション」、「カウンター」や「縦に早いプレー」という言葉がひとり歩きしてしまうことです。何のためにボールを繋ぐのか、なぜ早く攻める必要があるのか。そこに論理的な裏付けをもって選手を導かないと、試合において自分たちが狙う状況を作り出すことはできませんし、プレー選択に優先順位をつけることが困難になります。
以上2点は目新しい指摘ではないかもしれません。しかし実際にJリーグや日本代表の映像を見たときに、目に付く事象であると思われます。今回紹介させていただいたデンマーク、チェコ、スウェーデンのやり方を真似しろ、というわけではありません。しかし彼らのサッカーへの取り組みや強豪国への対策の取り方からは、大いに学ぶべきものがあるのではないでしょうか。
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取材・文 中野吉之伴 写真 中野吉之伴