08.31.2015
シンプルな練習に「深み」を出すオーガナイズとは/エスポルチ藤沢のトレーニング
卓越したテクニックをベースとしたイマジネーション溢れるサッカーで高い評価を受けている『エスポルチ藤沢』。サッカーとフットサル両方の競技経験を持つ広山代表が取り組んでいるトレーニングメニューとその指導方法とは何か。8月後半のCOACH UNITED ACADEMYでは、『エスポルチ藤沢』のエッセンスが詰まった厳選メニューをお届けする。(取材・文/小須田泰二)
■「8の字リフティング」と「鳥かご」
『エスポルチ藤沢』の高いテクニックをベースとしたイマジネーション溢れるサッカーは、どのようなトレーニングを通じて培われていくのか――。1時間という限られた条件の中で広山晴士代表にご用意いただいたのは、「個人・グループ」と「ゲーム形式」による3種類のオーソドックスなメニューだった。「いわゆる初心者からベテランと呼ばれる上級指導者の方まで、どんなレベルの指導者でも取り入れることができることを前提に、その上で我々『エスポルチ藤沢』の特徴が出るようなメニューを選びました」
個人・グループのメニューは2種類。ひとつ目は、ボールコントロールを養うことを目的とした「8の字リフティング」である。「8の字リフティング」はウォーミングアップを兼ねて選手一人ひとりがボールを持ち、練習コート全体を利用して行なわれる。ゴールライン、タッチライン、ハーフウェーラインのライン上をつたいながら、「8の字」の要領で回ってスタート地点へと戻っていく。一辺につき1種目、つまり8種類のリフティング技術を習得できる。
「『8の字リフティング』は基本中の基本。受験勉強で言うところの『英単語』や『漢字』を覚えることと一緒なんです。選手たちは毎日コツコツやるだけ。本当に地道な作業ですよ。でもこの基礎練習を怠ると、次のステップには進めません。サッカーは楽しむものですが、本番の試合で楽しめるようになるには個のスキルを相当レベルまで磨かないといけません。前回もお伝えしましたが、選手たちにとってはまさに"修行"のようなものですね(笑)」
右足のみのリフティングから始まり、次は左足のみでリフティングを続け、さらに両足交互へとメニューが移っていく。そしてインサイド、アウトサイド、ヘディングへ。個人技術の中でも、とりわけボールコントロールに必要な要素がすべて詰まっている。選手レベルに応じてスピードアップさせることで難易度の調整も可能だ。
もうひとつの個人・グループメニューは、通称「鳥かご」と呼ばれるボール回し。スタートは「4対2」で行なわれ、攻撃4人に対して守備2人のイメージでボールを回していく。フリータッチから始めてツータッチ、ワンタッチへと制限が加わるにつれ選手たちの動きが速くなり、判断スピードと同時に正確なテクニックが磨かれていく。
さらに「鳥かご」は守備者を2人から3人へと増やし、「4対3」へとアレンジされる。ボール保持者から見ればフリーとなるパスの出しどころが「2」から「1」へと制限されるが、だからといってグリッドの大きさに変化はなく、15メートルほどの間隔をキープしなければいけない。守備のプレッシャーをかいくぐるべく攻撃側の動きは激しくなり、目まぐるしくポジションチェンジが行なわれる。4対2から守備の人数をひとり増やした狙いは何か。
「4対3の状態は"中盤"をイメージしているんです。守備の人数を増やすことでプレッシャーがきつくなりますからね。さらにイメージを膨らませて、バイタルエリアを攻略させるための『4対4』をさせることもあります。試合でのボール回しのシチュエーションを想像させることもトレーニングのひとつなんです」
■「5(ファイブ)ゴール・ゲーム」
その後トレーニングはゲーム形式へと移っていくのだが、ここでも『エスポルチ藤沢』のエッセンスが散りばめられ、サッカーに必要な"駆け引き"の要素がぎっしり詰まったトレーニングになっている。「5ゴール・ゲーム」と呼ばれるこのトレーニングでは、フットサル場のハーフコートを利用し、グリッドの四つ角にゴールを4つ、さらにピッチ中央に5つ目のゴールを置く。まずはゴールにパスを通すことを条件にゲームを始め、一定時間プレーした後、今度はゴールをドリブルで通過させることでトレーニングに変化をつけていく。
「味方を使ってワンツーで抜け出したり、味方をおとりにしてドリブルしたり、ドリブルと見せかせてパスを出したり...。そうした"駆け引き"を身に付けることがこのトレーニングの目的でもあります。またゴールが5つありますから、攻撃側も守備側も360度の視野を持ってプレーしないといけません。守備側からしたらどこから攻めてくるのか、あらゆる対応を考えておく必要があります。そういう状況でいろいろな駆け引きを身に付けられれば、ゲームでも相手の意表を突けるようになると思っています。サッカーとはいわば駆け引きのスポーツですから」
考えれば考えるほど、このトレーニングは奥が深い。ゴールに「パス」を通すことを条件にしたオーガナイズでは、攻撃側はゴールの裏側に受け手がいる必要があることから、自然とグループ全体のポジショニングを広げてプレーする傾向が見られる。一方、ゴールを「ドリブル」で通過することを条件にしたオーガナイズでは、「どんなポジショニングを取りながらプレーすればゴールを決められるか」というイマジネーションを、"駆け引き"の感覚ととともにチームとして養うことができる。
「アコーディオンという楽器がありますよね? あの楽器は蛇腹を開いたり閉じたりしながらメロディーを奏でていきます。それと同じイメージで、サッカーも閉じたり開いたりを織り交ぜながら、ゲームを作ってゴールを目指していく。サイドを攻めて中央が空いたらそこを突き、逆に相手がポジションを絞ってきたらサイドを突いていく、とかね。でも僕は正解を言いませんから、いつも選手たちには『アコーディオンのようなプレーをしてみよう!』と、ヒントになるイメージだけを伝えるんです」
個人戦術のみならずグループ戦術の観点でも、あらゆる要素が凝縮された「5ゴール・ゲーム」。ではこのトレーニングにおいて、ピッチ中央に「5つ目のゴール」を置いている理由とはいったい何なのか――。オーガナイズのポイントとも言うべきその意図については、セミナー本編にて広山氏の解説をご覧いただきたい。
広山晴士(ひろやま・はるお)
1971年6月16日生まれ。愛知県出身。静岡学園高校卒業後、ジヤトコ、読売クラブ(現・東京ヴェルディ1969)でプレー。その後はフットサルプレーヤーへ転身し、AZUL、PSTCロンドリーナで活躍した。引退後は指導者の道へ。1998年に『エスポルチ藤沢』を設立、ジュニアおよびジュニアユース年代の育成に力を注ぎ、テクニックを生かしたイマジネーション溢れるサッカーで高い評価を受けている。現在は『エスポルチ藤沢』代表の他、聖和学園高校(宮城県)、中央学院高校(千葉県)、富士市立高校(静岡県)のアドバイザーも務める。
取材・文 小須田泰二