TOP > コラム > ドイツ人コーチから見た日本の「文化的課題」とは/ジモン・ペシュコーチの流儀 後編

ドイツ人コーチから見た日本の「文化的課題」とは/ジモン・ペシュコーチの流儀 後編

ドイツのU-11年代の子どもたちとドイツ人コーチが来日し、日本のU-12年代の子どもたちと合同練習を行なう『インターナショナルトレーニング』。東京の板橋区・足立区で活動する「ジュニスターサッカースクール」(代表:安英学/横浜FC/元北朝鮮代表)のリャン・スソンコーチが企画した合同トレーニングは、参加した多くの子どもたちにとって日独、そしてコリアンの文化や言葉に触れる貴重な機会となった。(取材・文・写真/鈴木智之)

20151023.jpg

<<前編:ドイツ人コーチが考える「トレーニング設定」の原則

■日本の子どもたちはいつも同じテンション

合同トレーニングを担当したジモン・ペシュコーチは、日本のU-12年代の子どもたちと一緒にトレーニングをして驚いたことがあるという。それは、練習中の態度についてだった。

「ドイツの選手たちは、休憩中に『疲れた』と言っていても練習で自分の番になるとスイッチが入ります。しかし、日本の子は練習中にスイッチが入っているのかどうかわからず、常に同じ様子でプレーしていました。これは文化や教育の違いが影響しているのだと思いますが、ドイツや他のヨーロッパの国の子どもたちと比べて異質な印象を受けました」

ドイツと日本の子が一緒に行なうトレーニングを見ていると、ドイツの子たちは一つひとつのプレーに集中して『何が何でもゴールを決める』『1対1に勝つ』という気持ちを露わにし、球際の競り合い、攻守の切り替え、ゴール前での局面などにおいて、高い強度でプレーしていた。もちろん日本の子の中にも、ファイティングスピリットを全面に出している子もいたが少数にすぎず、多くの子どもたちが淡々と練習をこなしているように見えた。

なぜドイツの子たちは、高い集中力とファイティングスピリットでトレーニングに臨むことができるのか。ジモンコーチに尋ねると、「文化の違いもあると思いますが」と前置きをした上で、こんな答えが返ってきた。

「私はトレーニング外の時間を重要視しています。練習の前後は遊んだり、ふざけたりしてリラックスし、練習が始まれば、高い集中力を持って一つひとつのプレーに全力を出すことを求めます。日本の子どもたちは、練習の前も練習中も練習後も、すべて同じテンションです。サッカーに取り組むときのスイッチのオン・オフ、精神的なメリハリの部分で違いがあるのではないでしょうか」

■練習にメリハリをつけるリラックス時間

日本には日本の文化があり、ドイツにはドイツの文化がある。どちらが上という話ではなく、実際にピッチで起きた出来事の違いを話しているに過ぎない。一方で、サッカーは常に同じリズムではなく、チャンスのとき、ピンチのとき、それぞれの局面で爆発的なパワーを瞬時に出すことが求められるスポーツだ。プレーにメリハリがあるからこそ緩急が生まれ、攻撃であればスイッチが入ったときにトップスピードに乗り、相手ゴールに襲いかかる。プレーの強弱、緩急、相手との駆け引き、局面での激しさ...。これらを試合中、すべての時間に等しく行なうことは不可能で、オンの時間を作るためにはオフの時間が必要になる。

ジモンコーチはオンとオフのメリハリをつけるために、練習の前後にリラックスをする時間を意識的に作っているという。

「我々がよくやるリラックス方法が、練習後に互いに水を掛け合う遊びです。そこでふざけたり、感情を露わにしてリラックスします。大事な試合で負けると選手たちはひどく落ち込みますが、そのときもあえて『気持ちを上げよう』と言って、水を掛け合って笑いあったこともありました。ネガティブなマインドを取り払うことについては、練習の内容以上に大切にしています。練習前後のチームの雰囲気作りがすべてです」

先ほど、ジモンコーチは「文化や教育が影響している」と語ったが、日本社会に目を向けると長時間労働が当たり前で、一気に集中して短時間で仕事を終わらせることを良しとする文化ではない。日本的な文化はスポーツにも持ち込まれ、長時間の練習は当たり前の感がある。「(練習時間の)90分間ですべてを出し尽くす」というジモンコーチのような考え方は、日本においては一般的とは言えないのが実情だ。繰り返しになるが、これは文化や価値観の問題で、どちらが良い・悪いではない。ただしその上で、どちらがよりサッカーという競技の特性に合っているかを考えることは、非常に重要なことだと言えるだろう。

異なる文化と触れ合うことで、新たな価値観と出会うことができる。サッカーは世界中で行なわれていて、多くの国々がそれぞれの文化、価値観のもとにプレーを繰り広げている。日本では当たり前の光景が、他の国では当たり前ではないこともある。その逆も然りだ。今回のインターナショナルトレーニングは、子どもたちだけでなく指導者や周りを取り巻く大人にも、様々な影響を与えるきっかけとなったに違いない。