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高校とJユースは「共存」で前に進む/高校サッカーの現在的意義を考える(1)

桐光学園で27年間、高校サッカーの監督を務めていた佐熊裕和氏は、中村俊輔や藤本淳吾をはじめ、横浜F・マリノス(以下、横浜FM)の下部組織出身選手を数多く指導し、チームとしても横浜FMユースとプリンスリーグ関東において熾烈なライバル関係にあった。退任後は1年間、中国3部リーグの梅県客家(バイケン)で監督を務め、2014年に新潟医療福祉大サッカー部の監督に就任してからは、高校だけでなくJユース選手の視察も欠かさず、Jユース出身の選手も指導する立場となった。佐熊氏と共に「高校とJユース」の意義について考える。(取材・文/安藤隆人)

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<<勝負と育成の並行が指導者を磨く

■Jユースとのライバル関係が育成の原動力

まず佐熊氏は、プリンスリーグ関東における桐光学園と横浜FMユースのライバル関係を通じて見えたことを語ってくれた。

「マリノスはジュニアユースチームが2チーム(追浜と新子安)あって、両チームのレギュラー22人中20人近くがユースに上がります。桐光学園はユースに上がれなかった選手をスカウトして、試合を経験させながら育てていく。その中で、選手たちはかつての古巣・マリノスと試合を重ねる。選手個々の力は当然ながらマリノスが数段上ですが、個人で劣ってもチームとして勝負できるんです。そのためにはこちらがチームとしてこだわりを持ってやらないといけない。選手たちにライバル意識を強く持たせて、組織としてどう勝つかを考えていましたね」

前編でも触れたように、佐熊氏は選手にライバル意識を持たせることでモチベーションを上げるが、それだけではメンタルの向上につながらない。重要なのは「勝つ」こと。勝利と育成を並行させる一環として、ライバルに勝つ意識を植え付けるアプローチをとったのだ。

「育成ばかりを考えたら、マリノスユースは大敗する相手。ポゼッション勝負で真っ向から挑んでは、相手がより優位に試合を運べるようになるし、勝ち目は少なくなる。かといって、ガチガチに守ってロングボールからのカウンターでは育成につながりません。なので、守り方やカウンターの仕方を提示して、それが実行できる技術を養う。さらにカウンター狙いだけど、カウンターができない場合のオプションを残しておかないといけない。そのオプションがポゼッションなのか、それとも別の何かなのか...それを選手自身に考えさせます。選手には『カウンター第一だけど、カウンターができなかったらどうする?』という思考を徹底しました。逆にJユースはカウンターすべきどころでカウンターを仕掛けてこないところがある。じゃあそれをどう考えるか。カウンターを狙うべきところで狙わないのは、サッカーじゃない。リズムを変えられませんし、前への推進力は生まれません。逆にむやみやたらにカウンターを仕掛けても一緒。変化は生まれない。そこの判断は相当厳しくアプローチしましたね」

重要なのは、勝利から逆算し、臨機応変に対応する力を養うこと。これが佐熊氏の導き出した「育成と勝利」の同時進行のやり方だ。

■ピッチの内外に見る高校サッカーのメリット

さらに佐熊氏は、高校サッカーのメリットとして「ピッチ外教育を徹底できることを挙げた。「ピッチ内だけでは選手を育てるのは難しい。高体連は高校の職員が中心なので、いつもピッチに出られないというデメリットはありますが、学校生活をしっかりと見ることができるし、選手の親御さんとも連携をとりやすい」と、人間教育の一環としてのサッカー指導の重要性を説いている。

最後に12月30日から開幕する高校選手権があることも、高校サッカーのメリットのひとつであると語る。

「選手権はトーナメントで、負けたらそこで終わり。さらに高校3年生からすると、負けたら高校サッカーの終わりということになる。こうした環境が人を育てると思うんです。各都道府県代表として郷土愛を生み出し、メディアからも注目が集まって、かつ高校3年間の集大成でもある。選手・スタッフのこの大会に懸ける想いが違います。一試合80分間に、全力で人生を懸ける。想いを懸ける。この経験は人間を精神的にも大きく育ててくれるんです。この大会の試合が、この仲間、このスタッフ、この環境でプレーするサッカーの本当のラスト。秘める想いや込み上げてくる想いが違うと思います。高校生はたった1試合で変わるし、時には劇的に変わる。『この選手が選手権の優秀選手に入ったの!?』という驚きの成長を遂げる選手がいたり、他の選手の1年分伸びる選手もいる。そしてそれが過ぎれば一生の思い出となり、一生の仲間になっていく。その輪廻が高校サッカーの魅力だと思いますね」

セミナー本編で高校サッカーの意義や魅力を再確認して、12月30日から始まる第94回全国高校サッカー選手権大会をお楽しみいただきたい。


佐熊裕和(さくま・ひろかず)
1963年12月1日生まれ。東京都出身。1986年に桐光学園サッカー部監督に就任。2013年3月まで27年間チームを指揮し、高校選手権準優勝1回、ベスト4を1回、インターハイ準優勝1回を誇る全国屈指の強豪校に押し上げた一方、中村俊輔、藤本淳吾(ともに横浜FM)をはじめとするJリーガーも多く輩出している。2013年には日本サッカー協会S級ライセンスを取得。同年に中国リーグ3部の梅県客家(バイケン)で監督を務め、昨年から新潟医療福祉大サッカー部の監督に就任した。

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