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「ハードなトレーニングは『リカバー』とセットで」自己管理を促す福岡大学の流儀/コンディショニングの実践者 (3)

優秀なタレントが集まる関東、関西の強豪大学とは一線を画す"インテンシティの高いサッカー"で、近年の大学サッカー界で確かな結果を残すと同時に、毎年即戦力のプロ選手を輩出しているのが福岡大学だ。特にこの5年間は、日本代表FW永井謙佑を筆頭に牟田雄祐(京都)、大武峻(名古屋)、来季セレッソ大阪に入団する木本恭生ら、心身両面で"鍛え抜かれた"選手を送り出している。そこには大学サッカー界の名将の一人である乾眞寛監督が、ユニバーシアード3連覇を通じて築いた過密日程を乗り切るためのコンディショニング法やトレーニング理論と、それらを上手くチームに落とし込みながらも選手の自主性を育む絶妙なバランス感覚があった。(取材・文/小澤一郎 写真提供/JUFA/REIKO IIJIMA)

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COACH UNITED(以下CU):1995年(福岡大会)、2001年(北京大会)のユニバーシアードでコーチとして優勝を経験し、2005年のユニバーシアード・イズミル(トルコ)大会では監督として全日本大学選抜を優勝に導いた乾監督ですが、当時はどのように過密日程の大会コンディショニングを整えていたのでしょうか?

乾:中1日で6連戦のユニバーシアードを勝ち抜くためには、『リカバー(回復)』が最重要課題です。約10年前の当時は、栄養補給のためにアミノ酸を日常的に使うような環境ではなかったので、試合前後に選手が食べるおにぎりをスタッフ総出で作っていました。例えば、ユニバーシアードは様々な競技が行なわれますので、我々がナイターゲームを終えて選手村に帰ってきたときには、試合後に摂取させたい食べ物が残っていません。ですから、スタッフは特に試合後の栄養補給に気を配って準備を進めていました。

また欧州での大会では、1試合を終えると脱水症状に近いほどに水分を失ってしまうため、いまはできませんが生理食塩水を用いて点滴を打つようなこともしていました。結局、中1日の過密日程になると「しっかり食べて回復しなさい」と言っても無理があるので、選手の体重をこまめにチェックしながら疲労度を考慮してメンバーを入れ替える総力戦でしたね。そう考えると、いまのように簡単にアミノ酸やサプリメントを摂ることのできる環境や、疲労度を数値化できる機器があれば、監督としては采配に幅を持たせることができます。

CU:現在、福岡大ではコンディショニングにアミノ酸を導入しているのでしょうか?

乾:うちでは3年ほど前から、マネージャーがロッカールームで各選手のユニフォームに添えてアミノ酸を一袋ずつ置くような形になっています。ただ、意識の高い選手はチームで用意する以外の分も個人で用意して摂っていますね。日常のトレーニングから疲労回復を目的に使っている選手もいれば、試合のときの疲労軽減のために使用する選手もいて、そこはもう大学生なので選手に任せています。前提としては当然体力そのものを高める必要がありますが、アミノ酸の力を借りてパフォーマンスの低下や疲労を抑えるという認識が、選手の中でも定着していると思います。選手であればパフォーマンスを維持したいと思うのは当然で、疲れない身体やスタミナ維持は、結果として選手そのものの評価に直結します。

福岡大の場合、授業の関係で練習開始時間が遅い日があり、サッカー部自体も大所帯なので、練習終了が21時近くになることもあります。そこから選手によってはウエイトや補助トレーニングをしますので、大学を出るのが22時近くになってしまう。そういった日の回復を早める目的で、ここでも当然食事によって栄養補給をすることを前提として、アミノ酸を上手く取り入れるようなことはしています。

CU:福岡大ではプロ入りを狙える選手に"スペトレ"と呼ばれるウエイトトレーニングを課すなど、身体作りにも力を入れています。

乾:鍛え込みたい時期というのがあって、そういうときは練習の量も強度も上がってきます。一気に負荷をかけるので、その時期には特にケガに気を配ります。ケガをしてしまうとハードトレーニングをした意味がないので、ハードトレーニングをして自分の身体を鍛えるときにこそ、それをきちんとメンテナンスする知識や科学的根拠が必要です。福岡大サッカー部にはスポーツ科学部の学生もたくさんいて、そういう選手は大学の授業でスポーツ栄養学を学んでいます。選手にゼロから教育するのはすごく大変ですが、スポーツ科学部以外の学部に所属する選手も含めて、いまの時代はある程度そういう情報が耳に届いていますし、プロを目指すレベルの選手は自らアンテナを張って情報収集していますので、アミノ酸の摂り方についてこちらから説明する必要がありません。

昔のように苦しいことを一方的にやらせれば強くなるというものではないので、指導者は栄養学や科学的な裏付け、データを使いながら、選手を強化・育成していくことが必要です。ただ、選手というのは普段から自分の身体を自分でコントロールすることが必要ですから、最低限のベースとなる情報や知識は与えます。例えば、トレーニングの考え方として未だに「鍛えれば鍛えただけ強くなる」という勘違いがありますが、実際にはそうではありません。鍛え込めば必ず身体にダメージが加わり、筋肉は傷むので、それを元に戻すことも重要なトレーニングの一部です。元に戻したときに元よりも強くなるのが『超回復』で、そうしたトレーニングの原理を知っておかなければ強い身体は作れません。疲れるだけのトレーニングであれば、現状よりもマイナスになるだけです。効果的なトレーニングとは、一時的にマイナスにはするが、元に戻ってきたときに±0よりも上に回復していること。こうした知識ベースを伝えながら、最終的には選手が自主性を持ってトレーニング、コンディショニングできるように促しています。

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乾眞寛(いぬい・まさひろ)
1960年3月22日生まれ。島根県出身。筑波大学大学院卒。現福岡大学スポーツ科学部教授、福岡大学サッカー部監督、日本サッカー協会公認S級コーチ、(一財)全日本大学サッカー連盟技術委員長。2005年のユニバーシアード・イズミル大会では、日本代表監督として世界一(3連覇)を達成。福岡大での32年以上の指導の中で56名のJリーガー、永井謙佑(名古屋)ら5名の日本代表選手を輩出している。

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