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「球際の激しさだけに注目してはいけない」2016東京国際ユース(U-14)サッカー大会で指導者が持つべき視点とは?

2008年から開催されている東京国際ユース(U-14)サッカー大会は、14歳以下の国際大会として毎年ゴールデンウィーク期間に行われている。5月1日に開幕する今年の大会にもベルリン、カイロ、ニューサウスウェールズ、ソウルの選抜チーム、モスクワのチェルタノヴォ、パリのパリFC、サンパウロのコリンチャンス、ブエノスアイレスのボカジュニアーズ、北京の八一中学ら9都市から世界の強豪が集結。対する日本勢は、岩手、宮城、福島、茨城の各選抜チームと、東京(トレセン選抜、FC東京、東京ヴェルディ)が迎え撃つ。

この時期の風物詩として定着しつつある本大会は、14歳以下の選手たちにとっては、貴重な国際経験の場となっているが、日本の指導者にとっては普段めったに接することのない"ジュニアユース年代における世界のサッカーのいま"に触れることのできる機会でもある。

ユース、ジュニアユース、ジュニアの育成年代に関わる指導者は、この大会から何を学べるのか? アヤックスのU17~U19のアナリスト/パフォーマンスコーチを務め、客観的なサッカーの見方、分析方法を提示する白井裕之さんに『指導者の目線で観る東京国際ユース(U-14)サッカー大会の見所』についてお話を伺った。(取材・文/大塚一樹)

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■選抜チームとクラブチームが混在する面白さ

「選抜チームとクラブチームが混在しているのは面白いですね」

クラブチーム単位での育成が基本のヨーロッパで活躍する白井さんがはじめに興味を持ったのは、大会に参加するチームの構成だった。育成で有名なアヤックスが、こうした大会を主催することも少なくない。そこに参加するのも、バルセロナなどの各国の有名クラブの下部組織がほとんど。選抜チームと相対することはほとんどないという。

「昨年はカイロ選抜が優勝したようですが、ヨーロッパのクラブチームに籍を置く自分としてはとても新鮮ですね」

白井さんが選抜チームとクラブチームの混在に注目したのには、きちんとした理由がある。
「14歳というのは、ちょうどチームメイトとの連動性を構築していくべき年代なんです。オランダサッカー協会が明示している各カテゴリー(年代)での育成目標でも「チーム内でお互いの基本タスクを調整する」ことが目標とされています。

チームとしてどういう戦略でプレーするかは、コミュニケーションにかかっています。普段一緒にプレーしているクラブチームと、どれくらい集まって練習できているかが未知数な選抜チーム。観戦する際に、この二つのグループの違いについて頭に置いた上で、チーム内のコミュニケーションに注目して観戦すると、勝ち負けや選手の個人能力、国ごとのサッカーの違い以上のことが見えてくるかもしれません」

こうした国際大会では、「日本と海外の違い」がクローズアップされるのが通常だ。それは、「身体能力の違い」だったり、「個の能力の違い」、「サッカースタイルの違い」で片付けられることも多い。近年のこうした大会では、日本対世界という視点で「球際の激しさ」の差異が話題になることも多い。

昨年準優勝のコリンチャンスやボカジュニアーズの激しいサッカーを目の当たりにして「南米らしい激しいサッカー」と評する向きも少なくない。「異文化を知る、違うサッカーに触れる」という点ではそれも意義深いことだが、そこで観たサッカーを日本の、または自チームに落とし込もうとすると、大きな壁が立ちはだかることになる。

「歴史が違う。環境が違う。身体つきからして違う。そもそも選手のハングリーさが違う・・・・・・」

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■単に"球際の激しさ"だけに注目しない

せっかく集まった"14歳の世界トップレベルのサッカー"をなんとか指導に活かすためには、もう少し客観的な見方が必要になってくる。白井さんがアヤックスで実践している、サッカーを客観的に分析する手法は、現場の指導者に新たな視点を与えてくれる。

「国ごとのサッカーのスタイルの違い、クラブが志向するスタイルはたしかにありますよね。ダイジェストで見せていただいた昨年の決勝戦でも、コリンチャンスのサッカーはいかにも攻撃が好きなブラジルのチームらしく、グループでの守備というよりは、個人の責任において目の前の敵を止める意識が強く出ていました」

白井さんには事前に前回大会の決勝戦、カイロ選抜対コリンチャンスのダイジェスト映像を観ていただき、簡単な分析をしてもらった。映像はシュートシーンが中心だったため、詳細な分析は叶わなかったが、白井さんは、コリンチャンスの守備についていくつか言及してくれた。

「カイロがドリブルでボールを進めようとしているシーンで、守備側のコリンチャンスが4人で守備を行います。このときコリンチャンスの選手たちはボールに直接アプローチするのではなく、ボールホルダーを囲むようにリトリートしていました。こうしたプレーから、チームとしてやろうとしていることや選手に与えられたタスクが見て取れます」

白井さんは素早くプレッシャーをかけつつも、リトリートで守る守備の方法が、いわゆる「ブラジルらしい守備のリズム」の正体だと言う。

白井さんによれば、この大会で世界との差として大きく取り上げられる「球際の激しさ」についても、プレーを分析することでまた違った側面で捉えることができると言う。

「特に守備については14歳以下の選手たちは、グループからチーム全体のコミュニケーションを構築していく段階です。この段階では2つのライン間でのコミュニケーションが精一杯です。チーム全体が連動してボールを奪いに行く守備というよりは、個人が激しさを前面に出すプレーの方が多く見られる。結果的に"球際の激しさ"が強調されることにもなります」

ブラジル特有の粘り強い守りやアルゼンチンの深いタックルなど、激しさにおいて日本人選手が見習うべき点は大いにあるが、サッカーの分析という観点で見れば、「激しく行った」という現象に対して、「なぜそのシチュエーションになったのか」という視点が加わる。

実際にコリンチャンスの失点シーンは、チームの守備陣形とDF間のコミュニケーションの齟齬によって生まれている。

「GKからのビルドアップでロングキックが思ったように飛ばず、そのままカウンターのように形になってしまいました。このときカイロの3トップより後方にいた、コリンチャンスのDFはたった一人でした」

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■ピッチ上での"アジャスト力"に指導のヒントがある

白井さんは、国ごとのサッカー観やチームのサッカースタイルを踏まえた上で、ピッチ上で実際に起きていること、つまり彼らの戦術にフォーカスすることで、曖昧で抽象的な「~らしさ」から一歩進んだサッカーの中身が見えてくると言う。

「チームごとのスタイルは戦略に当たります。これは試合前に『こうしたい』『こうしよう』と一方的に思い描いているものです。その通りに実行できれば、こんなに素晴らしいことはありませんが、サッカーには必ず相手がいます。チームオーガニゼーション(システムやフォーメーション。オランダではチームオーガニゼーションという言葉で統一されている)の噛み合わせや相手の攻撃、守備のやり方に左右されて、100%思い通りのサッカーができることはまずありません」

こうした国際大会では、自分たちのやりたいサッカーが通用しなかったときに用いられる"戦術"によって勝敗の行方が大きく左右される。

「自分たちのやりたい戦略ができなかったときにどうするのか? ピッチでうまく行っていないことを戦術でどう修正しアジャストしていくのか? 短期決戦のこうした大会では各チームの"アジャスト力"に注目すると面白いと思います」

チームのコンセプトがうまく行かなかったときにどうするのか? 世界のトップレベルでは、1試合のなかで相手のやり方に順応し、アジャストしていくことが常識になっている。これは、短い期間でM-T-Mを回しているようなものなので、リーグ戦が主流になりつつある日本の指導現場でも大いに参考にしたい点でもある。

世界中から14歳以下の強豪が集まる東京国際ユース(U-14)サッカー大会は、指導者にとっても、さまざまなスタイルのサッカーに触れる大きなチャンス。今年の大会では、各国のサッカースタイルや未来のタレント候補たちのプレーを楽しむだけでなく、各チームのオーガニゼーションによる噛み合わせや、試合中のコミュニケーション、そしてアジャスト力に注目すると、新たな発見、指導のヒントが見つかるかもしれない。

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▲2015大会の優勝チーム「カイロ選抜」

2016東京国際ユース(U-14)サッカー大会
【次世代のスター、世界から集結。】
■日程(予定)/5月1日(日)~5月4日(水・祝)
5月1日(日):1次ラウンド 15:30~18:55
5月2日(月):1次ラウンド 10:00~17:25
5月3日(火・祝):2次ラウンド 10:00~15:25
5月4日(水・祝):2次ラウンド 10:00~16:05(決勝戦 15:00~16:05)
         表彰式・閉会式 16:25~
※試合時間は変更になる可能性があります。予めご了承ください。
■試合会場 【入場無料】/駒沢オリンピック公園総合運動場 陸上競技場、補助競技場、第二球技場
■参加都市/北京、ベルリン、カイロ、モスクワ、ニューサウスウェールズ、パリ、サンパウロ、ソウル、ブエノスアイレス、岩手、宮城、福島、茨城、東京(トレセン選抜、FC東京、東京ヴェルディ)
※参加都市・参加チームは変更になる場合がございます。予めご了承ください。


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白井裕之(しらい・ひろゆき)
1977年愛知県生まれ。18歳から指導者を始める。24歳のときにオランダに渡り複数のアマチュアクラブのU-15、U-17、U-19の監督を経験。2011/2012シーズンから、AFCアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ、ゲーム・ビデオ分析担当者として入団し、その後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストとして活動中。UEFAチャンピオンズリーグの出場チームや各国の優勝チームが参加するUEFAユースリーグでも、その手腕を発揮し高い評価を得ている。オランダサッカー協会指導者ライセンスTrainer/coach 3,2 (UEFA C,B)を取得。