06.27.2016
選手が集中して取り組むトレーニングのオーガナイズ/ドイツ人コーチが示す「良いコーチ」の定義とは?
COACH UNITED ACADEMYでは、ブンデスリーガの名門1.FCケルンで育成部長を務め、ケルン体育大学で指導者養成、ドイツサッカー協会のU9、U10、U11、U15育成プログラムを作成するクラウス・パブスト氏の講義を配信中。最終回となる今回は、クラウス氏が日本のジュニア年代の選手、指導者を対象にしたトレーニングセッションの様子を紹介したい。
「カラダ」と「脳」に別の信号を送る
クラウス氏が考える、ドリブルのポイントは次のとおり。トレーニングの詳しいメニューやオーガナイズは、コーチユナイテッドアカデミーの動画をご覧頂ければと思うが、この日のトレーニングは「ドリブル」「ファーストタッチ」「ドリブルシュート」「ミニゲーム」と、大きく4つのパートに分かれており、ドリブルやボールコントロールを中心にパスやシュートの要素も入る、グローバルトレーニングが行われた。
1つ目のトレーニング『ウォーミングアップを兼ねたドリブル』では、選手が狭いグリッドの中で一度にドリブルをすることで密集を作り出し、常に周りを見ること、ドリブルスピードを変化させることで相手にぶつからないようにするなど、様々な工夫が見てとれた。
技術的な面では、前回の記事でクラウス氏から「ボールが身体の真下にあると、ドリブルをしずらい」というアドバイスがあったが、ボールを体の前に置くことができない選手に対して「スピードを落としてやってみよう」とコーチングをし、まずはボールと身体の正しい位置関係を習得するように導いていく。
続く「ファーストタッチ」のトレーニングでは、赤と黄色のコーンを選手の前に置き、クラウス氏が「赤」と言ったら赤いコーンの方へボールを持ち出してドリブルをするというルールでスタート。しばらくすると、クラウス氏が「赤」と言うと、反対の黄色のコーンを回るといったように、脳に刺激を入れるライフキネティックの要素も含みながら、トレーニングの難易度が上がっていく。クラウス氏の声を聞いていないと、どちらのコーンへドリブルすればいいかがわからないので、選手たちは常に集中した状態でトレーニングに参加していた。このあたりのオーガナイズ、ルール設定はさすがである。
さらにはコーンとマーカーでゾーンを区切り、ドリブルのコース取りとボールコントロール、アジリティとシュートのトレーニングを実施。シュートの時は「ドリブルで4タッチしてから、シュートまで行こう」とアドバイス。選手たちにそこを意識させることで、ドリブルからシュートまでスムーズな身体動作へとつなげていく。
スタートは1対1でキーファクターを把握させながら進めていく
その後は大人の膝程度の高さのミニゴールを攻撃側に2つ、守備側に1つ設置し、1対1のドリブルとシュートの練習へ移行。攻撃側は相手を抜いて、2つのゴールのうちのどちらかにシュートを打つ。守備側は奪ったボールを、攻撃側の選手の背後のエリアにあるゴールに入れるというもの。クラウス氏は「守備側はボールを奪って終わりではなく、攻撃側の背後にあるゴールに決めるというルールにすると、選手たちは意欲的にボールを奪いに行くようになり、守備から攻撃への切り替えも速くなります」とトレーニングのポイントをレクチャーする。
そこでは1対1から2対1、2対2と人数を徐々に増やし、実際の試合の状況へと近づけていく。さらに「1対1のスタート時は、守備側が攻撃側にパスを出し、攻撃側の選手の背後を回って守備のポジションにつく」というようにルールを設定することで、実際の試合に近づけていく。
クラウス氏のコーチング、詳しいトレーニングメニューやオーガナイズは、コーチユナイテッドアカデミーの動画にて確認することができる。多くの情報が詰まった映像を、ぜひご覧頂ければと思う。
最後にクラウス氏が、熱心な日本の指導者にアドバイスをくれた。
「ドイツサッカー協会ディレクターのマティアス・ザマーは『日本サッカーは良い方向に向かっている』と言っていました。日本の選手はスピードがあり、テクニックに優れています。長所を伸ばすためにも、ここで紹介したトレーニングをそのままコピーして行うのではなく、選手のレベルに合った設定を考えて実行してください。良いコーチとは、選手を正しい方向に導くことができるコーチです。一番大切なのは、選手自身の想像力を高められるような練習を行うこと。新鮮で新しいアイデアをどんどん出していけるようなトレーニングをしていってください」
【講師】クラウス・パブスト/
ドイツの名門「1.FCケルン」でユースコーチや育成部長を務め、ポドルスキなど多くのブンデスリーガを輩出。ケルンで最初となるサッカースクール「1.Jugend-Fusball-Schule Koln」を創設し、サッカー指導者養成機関としても知られる国立ドイツ体育大学ケルンで講師を務めるなどドイツサッカー育成の第一人者である。
日本へは何度も訪れており、指導者講習会や選手へのクリニックを開催。日本サッカーの育成にも造詣が深い。
取材・文 鈴木智之