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「毎日同じことをしていないか?」サッカーの指導者も成長するには"高い負荷"が必要

サッカーのピリオダイゼーションでおなじみ、ワールドフットボールアカデミーのレイモンド・フェルハイエン氏が、2016年末に日本で指導者向けのセミナーを行った。レイモンド氏はセミナーを通じて、サッカーを構造的かつ理論的にとらえ「サッカーの言葉を使って、サッカーの能力を向上させるためにはどうすればいいか」という観点から、世界中の指導者に多くの刺激を与えている。COACH UNITEDでは、3回に分けてレイモンド氏の言葉を紹介したい。前編は「指導者の心構え」についてお伝えする。(取材・文 鈴木智之)

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指導者も成長するためには高い負荷が必要

レイモンド氏は集まった指導者を前に、はっきりとした口調で語りかける。

「自分を、選手を向上させるためには、快適なゾーンから出ないといけません」

セミナーに集った指導者の心に、深く突き刺さる言葉だ。

「もしあなたがヘッドコーチであり、周りにスタッフがいるとします。あなたがアシスタントコーチとして選ぶのはどんな人ですか? あなたの友達でしょうか? おそらく、あなた自身のことが好きな人、つまり、自分が接していて心地よく感じる人でしょう。そのような人に囲まれた状態は、誰しも快適です。その状況をコンフォートゾーン(居心地の良い場所)と言います」

レイモンド氏は「人間が成長するのは、居心地の良くない場所に置かれたとき」だと言う。日々、同じことの繰り返しをするのは簡単だ。しかし、それはレイモンド氏の言葉でいうところの「アンダーロード(低負荷)」であり、成長するために必要な「オーバーロード(高負荷)」ではない。つまり、成長の余地が少ないことを意味する。

「毎日同じことをしていないか、指摘してくれる人が周りに一人はいること。心のなかではその人のことを好まず、友達にはなれないかもしれません。しかし、その人こそがあなたを改善するきっかけになります。その人のお陰で、毎日考える機会を与えられるからです」

選手から質問されることを恐れていないか?

指導者向けのセミナーや日々のトレーニングにおいて、レイモンド氏は質問をされることを楽しむという。なぜなら質問をされることが、考えるきっかけになるからである。しかし、彼いわく「多くの指導者は選手からの質問を好まず、周りを黙らせる」と語る。

「多くの指導者は、こう言います。『いいから、私の言ったとおりにやれ』と。そうすると、周りのコーチや選手は『ボスが好まないので』という理由で、その指導者に対して何も聞いてこなくなります。その指導者にとって、周りが質問をしてこない中、自分の思い通りに周りが動く環境は"コンフォートゾーン"です。その中にいることは非常に快適ですが、はたして成長できる環境といえるでしょうか?」

レイモンド氏は「コンフォートゾーンの外側にいることが、成長をうながす」と言う。それは指導者だけでなく、選手にも当てはまるのだと。

「たとえば指導者の場合。選手から難しい質問が来たときに、うまく答えられない。他の選手がその状況を見ている。それは指導者にとって、心地の良い状態ではありません。このとき、どのような選択肢があるでしょうか? もし、そのときに答えられなければ、勉強をして、よりよい答えとは何かを考える。これはひとつの例ですが、そのような行為の繰り返しで、向上していくのだと思います」

選手を向上させるためにも、コンフォートゾーンの使い分けがポイントだという。レイモンド氏は「試合の準備の段階では、選手をコンフォートゾーンの外側に置き、試合中は選手をコンフォートゾーンの中でプレーさせるのが望ましい」と語る。

コンフォートゾーンの使い分け

「トレーニングでは選手にオーバーロード(高い負荷)をかけ、テクニック、フィジカル、タクティクスといった部分に負荷がかかった状態でトレーニングをしていく。そうすることで、選手をさらに向上させていきます」

一方で試合中、選手に高い負荷がかかった状態は好ましいものではない。なぜなら、試合中に対戦相手との力関係以外で生じる負荷は、選手がより良いプレーをするための足かせになるからだ。

素早い戦術的な判断、試合の最後までスプリントできる能力、ボールを自在に操る技術など、サッカーにおけるあらゆるプレーのレベルを高めることは、どんな相手であってもコンフォートゾーンでプレーできることを意味する。

たとえば、プロ選手が小学生と試合をするとき、コンフォートゾーンでプレーできるだろう。なぜなら、テクニック、フィジカル、タクティクス、すべての面で相手を上回っているからだ。

これが、同等のカテゴリーの相手でもできるようになるのが望ましい。そのために、トレーニングでは選手にオーバーロードをかけ、コンフォートゾーンの外でプレーせざるを得ない環境を作り出す。もちろん、むやみに高負荷をかけるのではなく、選手のレベルやコンディションに合ったものにする。その見極めの精度こそが、より良い指導者になるためのポイントと言えるだろう。

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レイモンド・フェルハイエン(Raymond Verheijen)
1999年にオランダ代表スタッフに抜擢されて以来、ヒディンクや、ライカールト、アドフォカート、ファン・ハールなどの名監督とともに、オランダ代表、韓国代表、ロシア代表、FCバルセロナなど世界各国さまざまなチームでサッカーのピリオダイゼーションを実践してきた。サッカーに特化したピリオダイゼーションの分野における先駆者である。

取材協力:ワールドフットボールアカデミー・ジャパン

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