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「常に動くな。動くのは必要なときだけ」イビチャ・オシムの状況判断力を養う実戦トレーニング

イビチャ・オシム。日本サッカー界の伝説的な指導者だ。オシム氏がジェフ市原(当時)の監督に就任した際、トレーニングの様子が話題になった。

キーワードは「考えて走る」。

日本人が持つ勤勉性に戦術的な要素を加えたスタイルは、日本サッカーに驚きを持って迎えられた。2003年には、監督就任1年目にして年間成績3位。翌年は4位、2005年にはヤマザキナビスコカップで優勝するなど、"オシム・ジェフ"は日本サッカーに新風を吹き込んだ。

オシム氏の手腕で特筆すべきは、結果と育成を両立したことにある。チームでの成績に加え、阿部勇樹、巻誠一郎、水本裕貴、羽生直剛など"オシムチルドレン"と呼ばれた選手達が、次々と日本代表に選ばれたのは記憶に新しい。(文・鈴木智之、写真・新井賢一)

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この記事では、オシム氏がジェフの2年目に行った、キャンプ映像を収録した「オシム監督の状況判断力を養う実戦トレーニング」からその一部をご紹介する。

オシム氏がジェフにもたらした「質の高い走り」をベースにした攻撃サッカーを展開するにあたって、重要なエッセンスが含まれたトレーニングである。

サッカーは頭でやるスポーツ

トレーニングはウォーミングアップを兼ねた、4対1のボール回しから始まり『2対2+1ジョーカー①』『2対2+1ジョーカー② ライン越え』『7対5』と進んでいく。オシム氏のトレーニングについて、当時のチーム統括本部長兼育成普及部長、祖母井秀隆氏は映像の中で次のように語っている。

「(オシム)監督は『ビジュアルトレーニング』という、常に判断をして頭を使うトレーニングをしています。『サッカーは足でやるスポーツではなく、頭でやるスポーツ』と言っていて、ただ走るのではなく、色んな方向、スピードがある中で、試合で起きる状況変化に応じて、選手個々がどう判断するかが大事。日本のサッカーにとって、オシムがやろうとしているサッカーはプラスになると思います」

オシム氏のトレーニングの重要なポイントとして、祖母井氏があげたのは「試合の状況に応じて、選手が判断すること」である。その具体的なエピソードを次のように明かす。

「たとえば、2対2でボールを奪い合いシュートまで持ち込む練習のとき。練習のスタート時にパスを出す役割のニュートラルな選手がいます。普通はパスを出すだけの役割なのですが、監督は『スペースがあるときに、どうしてパスを出した選手がそこのスペースを使わないのか』と言うわけです。ちょっとしたことですが、我々は『パス出し役の選手は参加してはいけない』というイメージでその練習をしていたんですね。しかし、実戦ではパスを出して終わりの選手はいません。4対2、5対2のパス回しもポジションを固定してやりがちですが、試合の中で選手は流動的に動いています。横や縦のポジションチェンジをしながらやるという発想がなかった。それに対して、オシムは『どうしてやらないの?』 と言うわけです」

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祖母井氏の言葉通り、映像の中でオシム氏は4対1の練習で、選手が動きながらパスを回す設定を作っている。ここでは「ボール保持者以外の3人がポジションを移動しながらスペースを作り、空いたスペースを使ってダイレクトにボールを回す」意識を徹底させていた。

意味なく動くのではなく「考えて走れ」

次の「2対2+1ジョーカー①」では、攻撃側はジョーカーを使い、3対2の状況でボールをポゼッションしていく。ここではできるだけ速く2対1を作り、ボールを動かすこと。

速く判断し、局面を2対2にしないことをコーチング。オシム氏は選手達の様子を見て、「密集しない! なぜ全員がひとつのゾーンに固まる? どれだけコートが広いか、見てみなさい」と状況把握、認知に働きかける声掛けをしていた。

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さらにオシム氏は、とある代表選手(当時)には、こうアドバイスをしている。

「常に動かなくていい。動くのは必要なときだけ。意味なく動くと、(相手と)2対2になる。相手が多いところに行ってはいけない。選手が入れ替わると、DFを混乱させることができる。そういうことをやってみよう。どうやって2対1の数的優位を作るか。相手DFを引きつけてパスを出すことで、反対側で2対1ができる」

これらはプロ選手に対する指導だが、コーチングの内容は小学生にも当てはまるものだ。その意味で、育成年代の指導者が見ても参考になるサッカーの基礎であり、本質に働きかけているものとも言える。ぜひ、COACH UNITEDの読者の方々にも参考にして頂ければと思う。

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