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日本のスポーツ指導者に必要なのは「正解が見つかる場所よりも、人の意見を聞いて自分の学びに変えられる場所」

スポーツの指導者はもちろん、優れたマネジメント理論として多くの企業経営者も学んでいる「フォロワーシップ理論」。かつて指導経験が無いまま早稲田大学ラグビー蹴球部の監督に就任してチームを大学選手権2連覇に導いたことで有名な中竹竜二氏が考える指導法だ。

現在、日本ラグビーフットボール協会のコーチングディレクターを務める中竹氏は、ラグビーに限らず、あらゆるスポーツのコーチを育成するコーチングディレクターとして、全国の指導者の意識改革に取り組んでいる。

昨年12月には、日本のスポーツコーチの質的向上を目的に一般社団法人スポーツコーチングJapanを立ち上げた。

今年3月3日には初のイベントである「SCJ Conference 2018」が開催される。今回は、中竹氏にこれまでの経緯や将来の展望についてインタビューした。

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コーチがどれだけ学びを得て成長をするか

―― 一般社団法人スポーツコーチングJapan設立の経緯を教えていただけますか?

いま私はラグビー協会でコーチングディレクターという役職でコーチのコーチをしています。当然スポーツでは、選手がプレーをしパフォーマンスを上げ試合によって勝敗が決まります。ただ、選手を教えるコーチがどれだけ学びを得て成長をするかが、実はスポーツにとっては大きな要素だと思っています。

ところが、指導者が教えることではなく、自分が学ぶことに関しては本当に環境が少ないということ。加えて、指導者のノウハウがあまり世の中に出ていないので、おそらく多くのコーチは学びに飢えてるのではないかと常に感じていました。

僕自身が指導者として始めた早稲田大学のラグビー部の監督は、ほとんど指導経験がないまま就任しました。そのため、どうしたら自分の指導力が伸びるかということに関しての情報、機会がなく苦しんだ経験がありました。当時、そういった学びや仲間、リソースといったものが分かりやすく手に入れられれば、僕自身もそのときの指導力を高められたのではないかと思っています。

そういった意味を込めて、いま日本ラグビー協会ではコーチングディレクターをやっています。ラグビーではそうしたコーチが学ぶ環境が整備されているものの、スポーツ全体を見渡してみると、指導者の学ぶ意欲があるにも関わらずそうした場所がまだない。同時に学ぶ意欲すらない、まだ気づいていない人もいることを考えたときに、 2019年のワールドカップや2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて、日本にとって指導者が学ぶ場を作ることが本当に大事であると考え設立に至りました。

―― スポーツコーチングJapanのロゴにはどんな意味が込められているのでしょうか?

ロゴは陸上のトラックフィールドをモチーフにしたものです。 単なる一方通行で教えるコーチではなくコーチも学ぶ。しかもコーチは選手からも学ぶ。常にサイクル、循環しているようなイメージを持って角ばったものではなく、円形にしたロゴにしました。

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答え探しではなく、学び合う場をつくりたい

―― 「スポーツコーチングJapan」と名前に「Japan」がありますが、今後他の国との交流を考えてつけたのでしょうか?

広がりという意味で、具体的に3つのことを考えています。

まず、側近で考えていきたいのはパラスポーツの指導者です。スポーツというと健常者やレジャースポーツがメインになっているけれども。おそらく共通部分はたくさんあるものの、コンディション作りだったり怪我や障害に対するケアは大きく異なると思ってて。そういったパラスポーツと一緒にやっていくことを是非取り入れたいと思っています。

2つ目は世代ですね。どうしてもユースやエリートが取り上げられる事が多い。ただ、そうではなく本当のグラスルーツのところ。例えばスポーツ始めるきっかけのところだったり、エリートやユースがリタイヤした人たちのスポーツの場。もう一つが、例えば個人がマラソンやエクササイズをやったり自分自身でどう体を見つめ、仲間同士で教えあい高め合うところのエッセンスまで巻き込めたらなと思っています。

3つ目の広がりとしては世界。今回、スポーツコーチングJapanとつけましたが、このJapanを軸に世界と繋がり、後にはこのJapanがなくなって「スポーツコーチング」という領域で活動できたらなと思っています。実際、スポーツをやるときに、アジアとの連携がすごく大事になってきます。まずはアジアの中でのスポーツの位置づけ、価値の向上に向けても寄与したいと思っています。

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―― 今年3月3日に「SCJ Conference 2018」が開催予定です。今回のカンファレンスでは、どういったものにしたいと考えていますか?また、これを機にどんなことを仕掛けたいと考えていますか?

スポーツの枠を超えて、競技の枠を超えて多くの人が自分自身の学びを体感できる場所。分かりやすく言うと、選手が自分の体力やスキルを伸ばす気持ちのように、指導者自身が「この指導者には負けない」とか「自分のチームを良くするために」といった、自分が学ぶ、成長する場所を作っていければなと思っています。

そういう意味では、何か答えがあって正解を探しに行くというより、いろんな人の意見や学びを聞いて、それを自分の学びに変える場。一方的な情報提供というよりは、学ぶコーチのコミュニティができるキックオフイベントになればいいなと思います。

おそらくただ学ぶ、ただ勉強する、ただインプットするだけでは、人は本質的に変わらないでしょう。 今回の3月3日をきっかけにトレーニングの場を生み出す組織にしたいと思っています。 例えばコーチを育成する資格制度、ライセンスの発行であったり、指導者が継続的に学び合う場の創出。そういったものを作っていきたいと思っています。

また、競技を越えても日本の今のコーチング哲学やスポーツコーチング哲学は、なかなか言語化されていません。この団体の中で参加者によってバリエーションのある哲学コーチングを生み出せればと思っています。

人と交流することが大きな価値を生み出す

―― スポーツ、競技の枠を超えて学ぶということで、実際どういった人に参加してほしいと思いますか?

スポーツコーチングJapanということで、まずはスポーツ指導にあたっている方を中心に参加してもらいたいです。

一方で登壇者としてビジネスで実際に活躍されている、岡島さん(株式会社プロノバ代表取締役社長)や高濱さん(花まる学習会代表)といった方々をお呼びします。そのため、スポーツにどっぷり浸かって指導しているというよりは、自分の仕事の現場で指導しなくてはいけない、人を率いていかなくてはいけない立場にある、ビジネスマンや教員、何か団体のリーダー。そういった方々の学ぶ場にもなればと思います。

学びを考えた時に、ある固定的な専門性の高いものを学ぶということも大切です。ただ、いろんな人と交わる、いろんな界隈を知る、いろんな気づきを得ることが根本的な学びのステップになります。人と交流するということもある意味大きな価値を生み出すので、たくさんの人に来てもらいたいです。

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―― 今後「SCJ Conference」の運営者を募集するということで、どんな人と一緒に作っていきたいでしょうか?

とにかくやりたいことを実現できる場にしたいなと思っていて。何かタスクがあって活動に参加したいというよりは、このSCJを通じて今までなかったコーチと選手の関係や、スポーツの場を試したい人と作っていきたいです。たとえば、「笑いしか起きないコーチングをしてみたい」「90歳になっても指導したい」「スポーツ経験がないけどスポーツを指導したい」「指導者のいないチームを作りたい」など。そういった志のある人に場を与え支援して、一緒に考えチャレンジしていきたいです。

そういったチャレンジを通じて、ただ楽しくやるのではなく最終的にはいろんな価値を実践、提供できればと思います。たとえば、「経済効果があるのか」「組織の中に雇用が生まれるのか」「幸福度が上がるのか」「健康の数値が上がるのか」、といった数字を示すこと。実際にSCJで働き、SCJのノウハウを持って、社会の現場でビジネスをやる人が増えてくれるといいなと思います。

―― 最後に伝えたい言葉をお願いします

何事も最初のスタートが肝心。単発のイベントで終わってしまってはイベント自体の価値も下がってしまいます。これはスタートであり、今後継続して作り、これが点ではなく線でつなぐと同時に面でつながっていくような。SCJが一つのハブとなって、いろんな組織と連動して、いろんなスポーツのリーダー、ビジネスリーダーが繋がることによって新しい指導者のムーブメントやスポーツのムーブメントを作り出せたらいいなと思います 。

もし、参加のきっかけが「誘われたから」といった受動的な姿勢だったとしても、終わった時に「次はこうしたい」「こんなこともやりたい」というふうに参加者一人ひとりが主体的になる。そして、新しい活動やイベント、ムーブメントを起こしてくれるような場にしたいと思っています。


【一般社団法人スポーツコーチングJapan】 
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中竹竜二(なかたけ・りゅうじ) 
日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター
株式会社TEAMBOX 代表取締役
早稲田大学ラグビー蹴球部主将を経験し、レスター大学大学院社会学部修了。三菱総研でのコンサルタント経験を経て、2006年に早大ラグビー蹴球部監督に就任。
同部を2度の大学選手権制覇へ導く。2010年より日本ラグビー協会コーチングディレクター、2012年よりU20日本代表ヘッドコーチを務める。2014年、株式会社TEAMBOXを創業し、スポーツマネジメントのエッセンスをビジネス界に紹介した。2016年春には、ラグビー日本代表ヘッドコーチ代行として率いる。
近年ビジネス界で話題となっている概念「フォロワーシップ」の提唱者の一人で、主な著書には『リーダーシップからフォロワーシップへ』『挫折と挑戦』などがある。