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U-14年代でも垣間見えるブラジルの強さの秘密とは?

5月の大型連休の風物詩『東京国際ユース(U-14)サッカー大会』。
今年も5月2日から5日にかけて、東京・駒沢オリンピック公園総合運動場、味の素スタジアム西競技場(※1次ラウンド一部の試合のみ)で開催される。東京国際ユースはその名のとおり、ヨーロッパや南米、アジア各国から参加チームが集まり、ワールドカップのような多様なサッカーを体験できる大会だ。

過去には、南米からボカ・ジュニアーズやコリンチャンスなど、世界的なビッグクラブのアカデミーが参加しており、勝利への執着心をむき出しに戦う姿は、大会の目玉になっている。今大会、ブラジルはサンパウロからチームが招かれており、質の高いサッカーが見られるだろう。

かつてブラジルでプロとして活躍し、現在はロナウジーニョのマネジメントやフットサルスクールの運営などを手がける風見聡氏はブラジルの強さの秘密について「将来を見据えた育成」と「規律、責任」を挙げる。

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「昨年、サンパウロのアカデミーセンターを訪れたのですが、入り口の門のところにポルトガル語で『選手養成工場』と書いてありました。トップチームで活躍する選手を養成するための施設で、育成するという考え方ではなく、プロで活躍できる"完成品"を作り出し、トップチームへ送り出すイメージです」

サンパウロには「トップチームで活躍する選手を養成するために、どのような要素が必要か」という説明書のような分厚い資料があり、それを元に各コーチが指導を行っていくという。そこで大切にしている考え方が「規律と責任」だ。

「日本の人たちはブラジルサッカーに対して"自由"というイメージを持っていると思いますが、実際は真逆です。1つのボールをチーム全員で守り、相手ゴールに運ぶのが、サッカーというスポーツ。その考えを小さな頃から叩き込まれているので、一人ひとりのプレーに対する責任は重大です。これは実体験なのですが、股抜きで相手をかわしてうまくいったのに、コーチにひどく怒られたことがありました。『相手に対するリスペクトがない。不確実なプレーをするな。周りをちゃんと見れば、パスコースがあったじゃないか!』って」

選手個人が規律と責任感のもと、1つのボールを必死に追いかけるのが、ブラジルのスタイル。華麗な技術だけでなく、サッカーに対する共通した考えをチームとしてどのように表現しているか。そこを見るのもおもしろいだろう。

会場に足を運び、東京国際ユースの試合を何度も観戦してきた風見氏。試合を見るときには「海外クラブが、日本のクラブに対してどう戦ってくるか」に注目しているという。

「ボカやコリンチャンスが来日し、日本のクラブと戦った時、彼らは最大の特徴であるフィジカルを全面に押し出した戦い方をしました。おそらく、日本人は持久力があって走られると厄介なので、走られる前に体をぶつけて潰そうとしたんでしょう。日本人は勢いよく体をぶつければ、パスを回してプレッシャーを回避しようとします。そこで、ボール保持者に圧力をかければ、ミスパスが増えます。ブラジル人は戦いながら、相手の心情を探っていきます。そこは日本の選手が苦手としているので、見習える部分でもありますし、逆手に取ればチャンスになりますよね」

毎年、東京国際ユースの会場には、観戦に訪れる育成年代の指導者、選手の姿を見ることができる。指導者、選手目線での楽しみ方を尋ねると、「相手チームの真似をすること」という答えが返ってきた。

「普段、戦うことのできない外国勢と試合をするので、海外クラブのプレーを真似してみてほしいと思います。フィジカルは真似できませんが、突破の仕方やサイドでの数的優位の作り方など、参考にできるところはたくさんあると思います。とくにブラジルは伝統的にサイドバックの攻撃参加が特徴なので、どのタイミングで攻め上がるか。どうやって、タッチライン際を味方と連携して突破するか。そこは見どころです」

さらに、と風見氏は付け加える。

「ブラジル人は前へ出るスピード、タイミングが絶妙で、とくに守備の時に相手とボールとの間に体を入れるのが、バツグンに巧いんですよ。観戦するときには、ブラジルのセンターバックが、相手FWに対してどのような準備をして、どのタイミングでボールに対して寄せに行くか。そのスピードとタイミング、迫力をぜひ見てほしいと思います」

2017年11月に日本代表がブラジル代表と対戦したが、ブラジル人の圧力の前に、ボールを収められない場面が続出した。その源となっていたのが、育成年代から培ってきた判断力と技術、フィジカルだ。海外クラブとの対戦には、サッカー上達のヒントがたくさん詰まっている。

毎年、熱戦が繰り広げられる『東京国際ユース(U-14)サッカー大会』。今年は東京・駒沢オリンピック公園総合運動場、味の素スタジアム西競技場(※1次ラウンド一部の試合のみ)の2会場で開催される。「世界」を感じることのできる貴重な大会にぜひ足を運んでみてほしい。きっと、たくさんの気づきが得られるはずだ。

風見聡(かざみさとし)
東京都出身。本郷高校卒業後、ブラジルへ渡る。ヴィラ・ノヴァFC、ボタフォゴFCなどでプロ選手として試合に出場した。1999年の帰国後、ジーコフットサルクラブ小田原(現セントロデフットサル小田原/小田原フットサルクラブ)、フットサル大宮フットサルスクールなどのヘッドコーチとして活動。2011年に一般財団法人ロナウジーニョ・ガウーショ・インスティトゥートを設立し、ボールを使った「アミーボ」という競技を広める他、ロナウジーニョのマネジメントも行っている。