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「ドリル練習=悪」ではない。サッカーで求められる「パスの技術」と必要なトレーニングとは?

ブンデスリーガの名門1.FCケルンでU8-U14統括部長を務め、ケルン体育大学やドイツサッカー協会で指導者養成をしてきたクラウス・パプストさんに、U10年代で身に付けておくべき技術と、その指導法について話を聞きました。今回のテーマは「パス」です。(取材・文:中野吉之伴、協力:ファンルーツ)

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日本には良い選手が育つ土台がある

日本人の技術レベルは高いとよく言われますよね。ドイツでも多くの人がその点をほめています。例えば元ドイツ代表でテレビ解説をしているディディ・ハマンがこんなことをいっていました。

ブンデスリーガのある節でビーレフェルトの堂安律と奥川雅也、シュツットガルトの遠藤航とウニオンの遠藤渓太の好プレーを引き合いに出して、ハマンは「我々は日本へ行ってどんな育成をやっているか視察したほうがいいんじゃないか。日本からはいつもテクニックに優れた選手が出てきているじゃないか」と話していたのです。

これに関してクラウス・パプストさんも同意します。

「なぜ日本からテクニックに優れた選手が出てきているのか。私は2008年から頻繁に日本を訪問して、いろんなクラブや学校を見てきた。コーディネーション能力が高い。機敏で軽やかな動きができる。食事のバランスもいい。学校でも体を動かす機会が多い。一生懸命練習をする。そうしたベースがあるのだから良い選手が出てくる土台は確かにあるんだ。これに関しては私もその通りだといえる」

ただ、では今のままで大丈夫かというとそうではないようです。

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サッカーはゴールの間でプレーするスポーツではない

クラウスさんはよく「日本人はサッカーをゴールの間だけでするスポーツだと思っているんじゃないだろうか。ロンドのようなトレーニングが好き。ボールを持ちつづけていたい。でもサッカーはゴールの数を競うスポーツだ。どのようにゴールを狙い、どのようにゴールを奪い、どのようにゴールを守るかを考えるスポーツだ。だからこそ、トレーニングからもっとゲーム形式を多く取り入れていったら、日本人のポテンシャルはもっと引き出されるようになるはずだ」と指摘します。

U10年代ではサッカーというゲームのメカニズムを理解するように導くことがとても大事であり、そのためにはパスという技術に関しても、より実戦で生きる形でトレーニングすることが求められます。

●U10年代のサッカーで身に付けておきたいのは「ゲームにおける振る舞い方」>>

例えば壁打ちや対面パスをやり続けて1分間で100回連続正確なパスを出せる子がいるとします。ではその子はゲームの中でのパスもうまくなったのでしょうか?クラウスさんは首を横に振ります。

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「認知」「判断」の要素がなければパスは身につかない

「ゲームでは状況によってパスの距離一つをとっても全然違う。5mのパスと15mのパスは違う。30mのパスはもっと違う。味方がスペースに入り込む時のパスとこちらへ向かってきているときのパスは違う。正面にまっすぐ出すパスと違う方向に出すパスとは違う。パスをもらう前、そしてパスを出した後のオリエンテーションも必要だ。どこからのパスをどこへ出し、どこへ動くのかがセットされていないとスキルとして使えない。見ること、認知すること、判断することを外してパスは身につかないんだ」

技術トレーニングをやるときは、可能な限り状況認知・状況判断を伴う形で行うことが求められます。サッカーの試合で求められるパスは動きへのパス、動きを見ながらのパス、状況に合わせたパスですよね。サッカーは総合力が求められるチームボールスポーツであり、サッカーで求められる技術とは、1試合の間ずっと状況が変わり続ける中でそれに対応しながら発揮される技術なんです。

【試合で求められるパスの技術】
●動きへのパス
●動きを見ながらのパス
●状況に合わせたパス

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ドリルトレーニングが悪いわけではない

ドリルトレーニングをしてベースを身につけること自体が悪いわけではないです。でもそれだけではサッカープレーヤーとしてのスキルにはならないということは覚えておかなければなりません。

例えばドリルトレーニングとして行うパス練習でもいろいろな工夫を凝らしたいですね。スクエアを作ってさらに外に2か所コーンを置く。スクエアの4隅それぞれに選手が立って対角線にパス、そしてスクエア外のコーン間でパス交換。選手はそれぞれパスを出したら時計回りに次の場所へ移動という練習をクラウスさんは紹介してくれました。

「選手はパスをしたら移動し続ける。そんな風に選手の動きとそれぞれの場所におけるパスの種類と距離を変化させることで、常に動きながら、常に観察しながら、プレーし続ける状況を作ることができる。同じ動きを繰り返すだけではなく、常にどこにスペースがあってどこに運んで、どこへパスをするのか気をつけないといけない」

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子どもにとって良いトレーニングを作るためには?

こうした練習をするとパスが少しずれたときに無理やりその位置からパスをしようとして、他の選手やコーンにボールをぶつけてしまうことがあります。でもそうではなく、《状況を認知する》ことが大事なわけです。

「まず見る。そしてどこにボールを運び、いつ、どのようにパスをしたら、ボールを目的の場所に届けることができるのかを選手が自分で判断しなければならない。パスがずれたら短いドリブルで運べばいい。あるいはこうした練習をしているとどこかで誰かが順番を間違えたり、ボールを取りに行くべき場所に誰もいなくなることがある。そうした時に自分の順番でなくても、気付いて、その場所を埋めに動くことができるかどうかが大事なんだ。トレーニングを作るとはそういうことなんだよ」

あるいはシンプルなパス練習に関してはミニゴールを利用するのもすごくいいともクラウスさんは言います。シンプルな設定・やり方で問題なし。いくつかのグループに分かれて、コーチの合図でコーンドリブルをしてミニゴールへパス。一番最初にゴールへパスしたチームが1点。苦手な足でパスをしたら2点とか独自のルールを加えて、10点取ったチームが勝ち。

そうやって競争意識や時間で制限したりして緊張感を自然と高め、子どもが夢中で取り組む状況を作ることができるはず。フロー状態に入った子どもたちはものすごく集中しているし、何より楽しそう。そんなトレーニングを通して、試合でも生きるスキル習得を目指していきたいですね。


COACH UNITED ACADEMYでは、ここで紹介したクラウスさんの指導法を動画で詳しく配信中です。ぜひそちらも参考にしてみてください。

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●技術に自信がない子も上手くなる!ドイツ人コーチに聞く「ドリブル指導」で最も大事なポイント>>

【講師】クラウス・パブスト/

ドイツの名門「1.FCケルン」でユースコーチや育成部長を務め、ポドルスキなど多くのブンデスリーガを輩出。ケルンで最初となるサッカースクール「1.Jugend-Fusball-Schule Koln」を創設し、サッカー指導者養成機関としても知られる国立ドイツ体育大学ケルンで講師を務めるなどドイツサッカー育成の第一人者である。 日本へは何度も訪れており、指導者講習会や選手へのクリニックを開催。日本サッカーの育成にも造詣が深い。

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