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相手DFの狙いを惑わすパスと「運ぶドリブル」の使い分け/飯塚高校が実践するポゼッショントレーニング

3年連続でJリーガーを輩出し、2020年にはインターハイ初出場を果たしたのが福岡県の飯塚高校。就任6年目の中辻喜敬監督の下、"サッカー脳力"を鍛えるトレーニングを展開しているのが特徴だ。前回は、「サッカーIQが高まるポゼッショントレーニング」の前編として観る意識とポジショニングが高まるパス回しのトレーニングを紹介したが、今回の後編ではより実践的なトレーニングを紹介していく。(文・森田将義)

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ポゼッションは、寄る動きと離れる動きに使い分けが重要

3vs1と4vs2のパスでポゼッションに必要な基礎を身につけたら、判断を伴ったドリブルを交えて、より試合に近いトレーニングを行っていく。飯塚高校の定番メニューの一つが3vs3+2フリーマン。正方形に並べた隣り合う4つのグリッド内で2人のフリーマンを使いながら、パスを繋ぐトレーニングだ。守備の選手がボールを奪ったら素早く切り替えて、攻守交替。攻撃は自らのグリッド内に味方がいればワンタッチでパス。いなければドリブル(運ぶドリブル)をしてから、パスを出す。

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パスを出す際は、前編の3対1で紹介した後ろ足へのパスと出した後にタイミングよく出した選手に寄る動きを忘れてはいけない。また、局面を切り取れば、4対2と同じシチュエーションであるため、ボールを受ける際はDFを置き去りに出来るポジションからスタートし、DFの変化を観てから受ける位置やパスの位置を選択する。これまで紹介した2つメニュー同様に全体をしっかり観て、良いポジションを取れるようになるのが狙いだが、前編のメニューとは違い、ドライブ(運ぶドリブル)が、プレーの選択肢に加わった。効果的にドライブが出来れば、相手DFがボールを奪おうとして守備の立ち位置に変化を生みだせる。

ドライブをする際は、オニの間を通す縦パスを狙える素振りでボールを運ぶのがポイント。相手が間を締めれば、サイドの選手にパスを出せるスペースが広がる。相手のリアクションがなければ、そのまま間に縦パスを入れれば良い。ただ奪われないようにパスを繋ぐのではなく、相手DFに変化を起こし、前進するためには必要なのがドライブだ。

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パスを繋ぐ意識が高ければ確実に繋げるようボール保持者との距離を近くしがちだが、グリッド内に攻撃の選手がいない状況なら、ドライブがしやすいよう広がってスペースを空けるよう心掛けるのがポイントだ。ただ、常に離れてポジションをとるのが正解ではない。グリッド内に味方がいたとしても、オニに追い込まれた状況で離れていればボールホルダーが孤立して奪われてしまう。

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そうした際は、パスを受ける選手が苦しいと判断すれば、ワンタッチでパスを出して逃げられるよう中央の選手が寄るべきだ。そこから左手前の空いたスペースで、リターンパスを受け直せばプレスを回避できる。加えて、右前方の選手が4vs2のパス回しで学んだ置き去りに出来るポジションをとっていれば、スルーパスで一気に守備ラインを突破できる。

このようにポゼッションには、周囲の状況をしっかり観て、寄る動きと離れる動きを選択できる選手が必要になってくる。判断基準は、ボールホルダーがスペースにドライブしている際は離れる。相手DFが寄せてくれば、奪われないよう逃げ場を用意するために寄ること。トレーニングを繰り返す事で、ただ寄って離れるのではなく、どのタイミングでどこにポジションを取るのかまで考えられるようになることを中辻監督は意識して指導している。

ドライブ(運ぶドリブル)は視線を集めるのが狙い。速さではなく、遅さが重要

練習の締めくくりとして、フルコートより横幅が少し狭めな縦52m、横45mのコートで8対8のミニゲームを行う。3vs3+2フリーマンと同じようにワンタッチでのパス、ドライブを使い分けて実際の試合でもポゼッションで前進できるようになるのがメニューの狙いだ。アタッキングサードに入ってからは縦パス、速いサポート、3人目の動き出しを意識してゴールを目指す。

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3vs3+2フリーマンで学んだドライブを交えたポゼッションは自陣やミドルゾーンで前進する際に役立つ。ドライブすることで生まれる相手DFの変化を見てから、ボールホルダーはパスを出す位置を選択する。また、周りの選手もボールホルダーの状況を視て、寄るのか離れるのかポジショニングを意識する。ドライブする際に気を付けたいのが速度だ。

ゴール前へと侵入するためには、相手DFを振り切るようなドリブルスピードが必要だが、自陣やミドルゾーンで求められるのはそうした突破のドリブルではない。必要なのは相手の目線を集めて、周りの選手が警戒を弱めるドリブルだ。そのためには速いドリブルではなく、相手を引き付けるために、あえてゆっくりとドライブで前進して欲しい。

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CBがドライブで前進した際に意識したいのが、アンカーのポジショニングで、元いた位置から落ちて空いたポジションを埋める。アンカーは原則的にボールよりも後ろのサポートに回るのが、チームでの約束事だ。埋める際は、CBのチェックに行く相手FWから素早く離れて、なるべく自陣の深い位置にポジションを取る。そうすれば、ボールホルダーのドライブが止まった際にアンカーにボールを下げれば、再びドライブするだけのスペースがあるため、攻撃の組み立て直しが容易になる。奪われた際のリスク管理という意味でも、アンカーが離れた位置に下がり、スペースを埋めるのは有効だ。

サッカーIQを高めるには飯塚高校のように日常のトレーニングから、観る意識と正しいポジショニングを高めるのが近道だ。サッカーIQが高まれば、思い通りにプレーできるため、選手がより楽しめるようにもなるはずだ。今回、紹介したポイントは「COACH UNITED ACADEMY」で配信中の動画の一部に過ぎない。中辻監督の小中学生年代の指導者にも役立つ分かりやすいポイントを学ぶことができるので、ぜひチェックして欲しい。

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【講師】中辻喜敬/
1985年5月17日生まれ。現役時代は平群中学、近畿大学附属高校でMFとしてプレー。天理大学卒業後、大阪市内の中学校教諭となり、本格的に指導者としてのキャリアをスタート。2015年からは強化を始めた飯塚高校の監督となり、2021年にはインターハイ初出場を果たした。2019年以降は、松本山雅FCの村越凱光を皮切りに3年連続でJリーガーを輩出している。