07.19.2022
ドリブルは周りを観る力や駆け引きなど様々な要素が身につく。西宮SSのゲームの中でボールを支配する練習法
日本代表の堂安律(フライブルク)が在籍していたクラブとしても知られる、西宮サッカースクール。低学年時はドリブルとリフティングの練習に重点を置いており、技術とサッカーセンスに秀でた、魅力ある選手の育成に取り組んでいる。その結果、高学年になると関西大会で存在感を発揮し、Jユースや強豪校で活躍する選手の輩出にもつながっている。
西宮SS U-10の杉田勝彦コーチによる「ゲームの中でドリブルを使ってボールを支配する練習法」。後編は「ドリブルの技術を使って、思考力を高める実践トレーニング」を紹介したい。(文・鈴木智之)
味方の数的優位を作るために相手のDFを引き付ける
後編最初のトレーニングは「1対1対1」。グリッド内に3人が入り、1つのボールを奪い合う。攻撃側のポイントは、DF2人を引き付けて、2人の間を狙うこと。杉田コーチは「1人ではなく、取りに来た2人をやっつけないとあかんよ」と声をかけていく。
DFは2人で協力してボールを奪いに行くのだが、ここで駆け引きが生じる。攻撃側の選手に対して「DFが2人の間を閉じたらどこを狙う?」「DFから逃げるだけでなく、取りに来てもらって、相手をはがそう」など、考えてプレーすることをうながしていく。
2つ目のトレーニングは「グリッドトレーニング(浮き球)」。12m×12mのグリッド内で4対4を実施。ルールは、ボールを地面に落とさないこと。リフティングをしながらドリブルし、パスも浮き球で行う。
杉田コーチは次のように声をかけ、プレーを見守っていく。
「相手より先にボールに触ろう」「相手がいても、浮き球なんだから、どこにでもボールを通せるよ」「ボールを持っていない人は、どこでボールを受けたら相手が困るかを考えて動き出そう」
さらに、周囲を観ることにも言及し、「ボールを持っている人は、浮いているので周りが見やすい。スペースに動いている味方にボールをつなごう」「浮き球で相手の背後を狙おう」「相手の見ていないところへ動こう」など、状況を把握してプレーをすることの重要性を伝えていった。
ドリブルは3タッチ目でトップスピードに乗るとボールを奪われにくい
3つ目は「グリッドトレーニング(ドリブル3タッチ)」。「3タッチ以内にドリブルでトップスピードに乗る」というルールで、「トップスピードに乗るにはどうすればいい?」と質問を投げかける。
選手たちからは元気よく「利き足の前にボールを置く」「DFを引き付ける」などの返事が寄せられる。そこで杉田コーチは「ファーストタッチで方向を決め、2タッチ目でスピードに乗り、3タッチ目でトップスピードに乗ろう。ボールを触る前から、進むべきスペースをみつけておくこと」と具体的にアドバイスを送っていった。
「3タッチ目でスピードに乗ると、相手にボールを奪われにくい。試合のときのドリブルの目的は、相手に取られないことではなく、ゴールを奪うこと。スピードに乗った後に相手を食いつかせて、パスやシュートをするなど、次のことを考えながらやろう」
4つ目は「グリッドトレーニング(ワンツー、スクリーン、3人目)」。12m×12mで4対4を行い、ワンツー1点、スクリーン1点、2人を引きつけてパス1点、ワンツー+スリー(3人目)3点とし、得点を競う。
杉田コーチは「横や後ろにドリブルをしながら、ワンツーとスクリーンを積極的に狙っていこう。空いたスペースにボールを持っていない人が入って、ボールをつないでいこう」と、個人の判断と周囲の連携に目を向けるよう、声をかけていく。
また、相手との駆け引きや逆を突くことに対し、トレーニングを通じて絶えずアプローチしていき、「パスを出したとき、相手はボールを見ているから、相手が見ていない場所へ動こう。相手の目を盗めよ」などのアドバイスを送っていった。
何のためにドリブルをするのかを意識しながらトレーニングを行う
最後のトレーニングは「2ゴールゲーム」。ハーフコート、もしくは4分の1コートで7対7を実施。ドリブルでゴールを通過すれば1点となる。これまでトレーニングしてきた、スピードに乗ったドリブル突破やワンツー、スクリーンなどを積極的に狙っていく。
ここでも「ゴールが2つあるので、ドリブルとパスを活かして、チームで相手の逆を取ること」「相手の守備が薄い方を見よう」など、相手と駆け引きしてプレーすることの重要性を説いていく。
雨風吹く中のトレーニングだったが、子どもたちは集中力を持ってやりきっていた。このあたりの姿勢や、チームの雰囲気づくりもぜひ参考にしてほしい。
杉田コーチはトレーニングを振り返り、次のように総括した。
「西宮SSでは、何のためにドリブルをするのかを意識しながら、ドリブル練習をしています。ドリブルで相手を騙すだけでなく、相手を動かしてゲームメイクすることや、技術の上達と駆け引きのセンスを磨くことに取り組んでいます。これらが習慣化された選手は、テクニックと同時に、思考のスピードも鍛えられていきます。ぜひ参考にしてみてください」
ドリブルがテーマだが、ただの技術練習ではなく、周囲を観ることや相手との駆け引きなど、様々な要素が身につくトレーニングだ。設定自体はシンプルなので、チームで取り入れやすい。ぜひ動画を見て、チャレンジしていただければと思う。
【講師】杉田勝彦/
1973年12月24日生まれ。西宮SS出身。
小学校時代は西宮SSでプレー。市立西宮高校を卒業後、社会人リーグでプレーしながら実父が創立した西宮SSで指導者となった。
地元の西宮浜セレステでも6年間指導を経験し、30歳代後半で再び西宮SSコーチに就任。
岩谷篤人氏の元で、世界に通用する魅力的な選手の育成について、指導の奥深さを学びながら西宮 SSの指導の現場で活かす。
全国のサッカー指導者とも繋がり、魅力的なサッカーを日本全国に広げるというような活動もしている。
取材・文 鈴木智之